30.領主交代!まさかの再会 5
「今日は楽しかったわ、あっという間だった」
「俺も気分転換になった。王都から何かと忙しくして、こうやってゆっくり時間を過ごすことがなかったから」
帰宅の途につき、今日の感想を言い合って思い出に浸る時間。ソフィアはふと一番聞きたかったことを思い出した。オスカーについて分らないこと、そして婚約についてわからないことが多すぎた。
「オスカー、あなたと昔のように過ごせて少し嬉しかったわ。ずっと避けられているような、他人行儀だったから」
「そう、だったかな」
「ええ、婚約してからずっと。何かあったの?」
「あったわけではないが……、でもソフィアには頼ってはいけないとは思っていた」
「え……?」
「ずっとソフィアの弟のような存在だったから。体も小さいのもあったから仕方ないかもしれないが。一番はソフィアのお祖父様、フィル様に婚約をなしにしたいと言われたんだ」
「そんなこと初耳だわ」
「12才のころ、まだ俺のお祖父様も生きていたころだ。フィル様に恩義があった俺のお祖父様が、どうしてもフィル様の家と婚姻関係をもちたいとお願いしたんだ。俺たちが生まれてからなんとなくそういった話はあったが、お祖父様も先が長くないと思ったのだろう。どうしても婚約したいと言っていた」
「そんなことが……」
「フィル様は最後まで難色をしめされた。まあ、問題は俺の両親の不仲だそうだ。俺の母親が不安定で、父親との不仲。父親も家にも寄りつきもしない。そんなところにソフィアを嫁にだせないとフィル様はお考えになったようだ」
「お祖父様が……」
「フィル様のお考えも理解できる。ソフィアにきてもらっても、苦労をかけるのがわかっていたから。でも俺はソフィアと結婚したいと思っていた。だから、フィル様に直談判してお願いしたんだ。俺のこれからをみて、フィル様に認められるようになると約束した」
「だから急によそよそしくなったの?わたしの力を借りないために?」
「ソフィアがそう感じたのなら申し訳ない。決して嫌ったわけでも、ないがしろにしたわけでもなかった。俺自身も毎日のことが必死で、ソフィアのことまで気が回らなかったのもある。でもソフィアだったらわかってくれるという甘えもあったのかもしれない」
「いくらわたしでも、何も言われなければ不安になるわ。魔法使いでもないのよ」
「ああ、アルーニにもあとで言われたよ。自分の一人よがりだったところが多くあった」
「なんだ……、わたしバカみたい」
ソフィアは不安もあったのだと今気がついた。そう他人行儀になってしまったオスカーに、何も言えなかった。もし言ってはっきり拒絶されたらどうしようと思った。ソフィアには幼いころからの婚約で、オスカーをはっきり異性として意識したことはなかったのかもしれない。ただ仲がいい幼なじみが、遠くに行ってしまった寂しさを感じていた過去。そして女性らしくしてオスカーに見合うように努力もしてみたが、オスカーは何の反応もなかった。だからオスカーはソフィアに興味がないのだろうと思ったのだ。
でもそれもソフィアが勝手に思っただけだったようだ。勝手に悲しんで落ち込んで、裏切られたような気分になった。そしてソフィアからオスカーとの距離をもつようになった。
「わたし、オスカー様に好きと言われて……正直わからないの」
「俺の気持ちが?ソフィアを好きだということが?」
「それは何回も聞いて、なんとなくそうなのかなと思えてきたけど。わたし恋愛ってしたことがないから。好きという感情がよくわからないみたい。お子様はわたしの方だったのかもしれない。恋は早かったのかな」
「いいよ、いくらでも待てる。ソフィアが好きになってくれるまで、いくらでも好きだというよ」
「ありがとう、その気持ちで十分だわ。わたしもっとちゃんと考えるわ。オスカー様の言葉をちゃんと聞いていなかったのかもしれない。ごめんなさい」
「聞いていなかったって……」
少し落ち込んだように言うオスカー。その様子をみてクスリと笑うソフィア。ソフィアは貴族のオスカーではなく、ひとりの男性としてのオスカーとして見ようと思った。彼のことを男性として好きになるかわからないが、この土地では難しいことに囚われなくてすむような気がした。心が少し自由になった気がして、あれだけ窮屈に感じていた結婚もなんだか軽くなった気がした。