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婚約破棄したら、人畜無害の(元)婚約者がいろいろ面倒くさい  作者: 森の木


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27.領主交代!まさかの再会 2


「今日、新しい領主さまが到着するらしい」


 朝に祖父から知らせがあった。祖父は朝がはやい。ソフィアと母と妹たちがゆったり朝食をとっているころには、仕事に出かけてしまっている。だが今日はいつもの通り食事をとり部屋に行くと祖父がいた。そして一言告げてまた出かけてしまった。夕刻くらいには到着し祖父たちは領主を迎えることになったそうだ。

 母は新しい領主を出迎えることになったが、ソフィアと妹たちは家で待っているようにと言われた。この辺り周辺での地主が集まって領主を迎える。

 数日後には大きな式典を行うらしい。マーティン様の退任と、新しい領主の新任の式典だ。そこではソフィア達も出席することになる。

ソフィアは夕刻になると、ひさしぶりにドレスアップしている母や父を見送った。その日は学校も休みになり、子どもに教える授業もお休みになる。

 ソフィアは自宅で縫い物をしていた。こちらにきてからじっくりドレスを作る暇もなかった。集中できる気分ではなかったが、縫い物をしているときは何も考えずに済む。その日は、ソフィアが就寝するまで両親たちは帰ってこなかった。



*****




 数日後、祝賀会が屋敷内で行われた。その日は晴れていて、昼間から女性達が集まって料理をしていた。男性達も集まって今後の顔合わせをしている。ソフィアはお手伝いを申し出たが、作業になれた女性達から今回は見学していてと言われた。

 母も地主の妻たちと顔合わせをしていた。そして遠縁にはあるが、親戚達も大勢いた。隣国が近いこともあって、地主の子ども達は隣国の学校へ行っていることが多い。中には王都の王都立学院にいる子息もいる。ソフィアと同じくらいの年齢の人はそれほどいなかった。


 ソフィアは会食ということで、王都で着ていたモスグリーンのドレスを着ることにした。暖かくなってきて少し汗ばむ陽気である。そこでソフィアは髪の毛をアップにして、首元をすっきりさせた。パールのイヤリングと細い金のチェーンの華奢なネックレスをつけた。華美過ぎない装いだ。


「ソフィア、用意はいいかしら?そろそろ領主さまがご到着よ」


「はい、お母様」


 母はブルーのドレスを着ていた。鮮やかでエレガントだ。母の雰囲気にぴったりだ。母と一緒に会場となる庭へ行くことになった。そこはいくつものセッティングされたテーブルが置いてあった。立食パーティー形式で、気軽に料理を食べながら歓談をする。であるので、ドレスアップもそこまで仰々(ぎょうぎょう)しくしなくてよい。


「お母様、キキとココは? 」


「あの子たちは同じくらいの子と一緒にいるわ。たくさんお友達ができるって喜んでいたわ。子どもたちは別室に集まって、食事をすることになっているの。夜遅くまで会食が続いたら眠くなってしまうでしょう?だから大人たちとは別なのよ」


「そうね、夕方になってきたし。あかりもついているわ」


 会場はいくつもの火がともしてあった。ソフィアが会場に入ると、母に紹介されて女性達と挨拶をした。父と叔父さんは男性たちと集まってにぎやかに話し込んでいる。そうして時間が過ぎると、屋敷の門の方へ馬車が到着した。そして馬車が停車し、中からマーティン様が出てきた。その後ろからは、美しい人。そう、王都で別れたはずのオスカーだった。彼は遠目でみても、透き通った金髪で、その優れた容貌は上級社会に属していることを誰もが認識できる。

 

「皆の衆、ご苦労であったな。老いぼれの為に皆々集ってくれて」


 マーティン様はお祖父様に支えられ、広場の中央の椅子に腰を下ろした。そしてその隣にある椅子にオスカーも座る。昨日、地主たちとオスカーたちは対面を果たしているので今回は親睦も含めた会である。オスカーは田舎風の歓迎会に出席するなど初めてのことだろう。

 村の女たちが作った料理を食し、地元で作ったお酒を楽しむ。手作りらしい祝賀会。


「まだオスカーは若輩者ではあるが、これからこの領地を治めてくれる。わしの後任となるが、今までと変わらずこの土地を頼む」


「じいさんもこの土地にいるだろ、じいさんがきっちり指導してやれや。俺たちは俺たちでやっていく。その辺も話をしただろう」


「まあ、この土地は特殊よの。オスカーにも伝えておるわ」


 祖父とマーティン様は仲がよさそうに話しはじめた。それを皆が聞いている。そして後任のオスカーが椅子から立ち上がる。皆の視線は彼に集まる。


「わたしの任務は以前のように王からたまわった任務を遂行すいこうすることですから。ただひとつ、皆さんへ報告しなければならないことがあります」


 もったいぶったようにオスカーが言葉を続けた。何かの発表があるようで周囲はざわついた。そしてオスカーは視線をソフィアにまっすぐ向けた。ソフィアは急に向けられた視線に硬直してしまうばかりだ。


「フィル様の孫娘である、ソフィアをもらい受けることをお願いしたい。いやわたしとソフィアは婚約関係にあります。それを皆さんにお知らせしたくて」


 マーティン様は小さく口角をあげた。一方、無表情で祖父はオスカーを見た。


「ん?おかしいな、婚約は破棄したと聞いたが」


「ええ、ですがそれは男爵の地位がなくなったことにより発生した契約です。ですが、フレデリック様は男爵の地位をお持ちです。王の温情により、爵位の復権を申しつかりました」


「ほう……あの王が考えそうなこった」


 祖父は苦虫をかんだように顔をゆがめた。会場は祖父が明らかに不機嫌になっていることもあって、ざわついた空気も静まりかえってしまった。


「で、それで王に命令されてきたのか。婚約破棄したのはそっちだろう」


「いろいろ行き違いがあるようです。フィル様には、必ず……認めてもらえるように今までもこれからも努力していきますので」


「ああ、ガキのころもそう俺に言ったな。だが、俺はソフィアを侯爵家にやらん」


 祖父とオスカーが言い争っている。ソフィアは事態が飲み込めなかった。面識があるらしいオスカーとお祖父様。お祖父様は侯爵家にソフィアを嫁がせるつもりはなかったのか?いやでもオスカーのお祖父様と祖父との約束で婚約が決まったはずだ。

 それから周囲のなだめもあって、お祖父様には大量のお酒をのませた。べろべろに酔っ払うまで飲まされ、同じくオスカーも飲み続けた。そして穏やかな宴会が始まり、夜遅くになるまでそれは続いた。マーティン様も久しぶりの宴会に楽しそうに笑っていた。ソフィアは自分のことであるが、まるで蚊帳かやの外の出来事に疑問しか浮かばなかった。自分のしらないところでいろんなことが起きている。

 単純に爵位がなくなったから、オスカーと婚約破棄になった。それだけがソフィアが知っていることだ。政略結婚はそんなものかもしれない。だがソフィアはもやもやした感覚をぬぐうことができなかった。


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