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26.領主交代!まさかの再会 1


「そういえば、新しい領主が来るそうだな」


 夕ご飯を皆で集まって食べていた。久しぶりに全員で顔合わせる食事だ。こちらに引っ越してきてから、叔父と父は忙しい日々だ。母とソフィア、キキとココで食卓を囲むことがほとんどである。祖父は領地を見回っていることが多く、屋敷にいたかと思えば、数日姿を見せないこともある。祖父は神出鬼没であり、誰も行動を把握していないと聞いた。そして祖父は情報通であり、新しい情報を仕入れてくる。


「お祖父様、今の領主さまってどんな方なの?」


 ソフィアは祖父に質問をした。領主との関わりがなかったので、純粋に気になったのだ。


「昔は王都でこの人ありと言う方だったな。俺が王都で派手にやっても、いろいろ助けてくれた恩人だ。ひとり身だというんで、第二の人生を過ごしたいと言われたから俺の領地をすすめた。そうしたら、すぐここの領主に赴任してきた」


「お祖父様と仲がいいの?」


「ああ、お世話になったな。最近ケガをして足が弱ってしまったんだ。だから政務をするのが厳しいということで、王都に連絡したんだろうな」


「ケガをされたの……心配だわ」


「大丈夫だろ、見舞いを毎日のようにせがむ元気はあるみたいだ」


 祖父が最近家を空けていることが多いのは、領主の家に行っていることも多かったからだという。祖父と領主は親子くらい年が離れているそうだ。祖父は若くして結婚し、子どもをもったので、祖父といってもそれほど年ではないと叔父から聞いた。


「父上に説教できる貴重な人ですからね、マーティン様は。昔は怖かったですよ。いたずらをすると、烈火の如く怒鳴りつけられましたからね」


「フレーベル、それはわたしたちがマーティンさんの大切な庭に忍び込んで遊んでいたからだろう」


 叔父と父は昔話を楽しげにし始める。叔父のフレーベルと父は領主のマーティン様に面識があるようだった。


「王都では大変お世話になりましたね、口うるさいのは変わらずですか。明日にでもお見舞いに行きましょうか」


 フレーベル叔父さんは、祖父に問いかけた。


「ああ、マーティンじいさんはソフィアにも会いたいって言ってしょうがないんだ。俺の顔ばかりでは飽きるからだと」


「わたしに?ええ、行っても構わないのだったら」


「ソフィア行ってくれるか。あの爺さん、話をする相手がほしいそうだ。最近の王都について若者の意見がほしいと。俺じゃもう役に立たないから、だそうだ」


「確かに父上は、もう若者ではないですね」


 フレーベル叔父さんはおかしそうに笑い言葉を付け加えると、テーブルに座っていた母がくすりと笑った。つられてキキとココも笑った。父もソフィアも笑う。そしてみんなの笑顔を見て、最後に祖父が情けなさそうに照れ笑いをした。もう一度みんなで笑った。



*****


 数日たって、フレーベル叔父さんの仕事が落ち着いた日に領主の家に行くことになった。領主の家は、馬車で少し走ったところにある。小高い丘の上にある屋敷であり、ソフィアの祖父の家ほどの大きさではなかった。だが屋敷ひとつひとつの外装が細かい装飾がほどこされていた。

 王都で見る貴族階級のお城に近いつくり。大きくはないが、こだわった技巧の数々をみることができた。あらかじめ訪ねることは伝えてあったので、すんなりと屋敷の中へ通された。

 ソフィアはフレーベル叔父さんのあとについていき、大広間に通された。広間には大きなテーブル、そして立派な椅子があった。椅子は大きな窓の前に置かれ、その窓からはこの辺りの景色を一望できた。そして暖かな日差しが部屋を照らす。キラキラとその光がガラス細工の置物や照明に降り注ぎ、明るく優しい雰囲気の部屋だった。王都で見た光景に似ている。だが、思い出せなかった。


「おお、フレーベル坊。生意気そうな顔をしておる」


「ケガをしたのに口は静かにならないと、父上が嘆いていましたよ」


 憎まれ口をたたき合い、すぐに笑い出すふたり。ふたりの距離感がわからないソフィアは、こんななれなれしい態度を領主にとっていいのだろうかと冷や冷やした。だが祖父も懇意こんいにしているらしい領主。祖父の義理父が亡くなってからは、王都でいろいろ助けてくれた恩人だ。祖父が王都で成功した影には、マーティン様の影響があるらしい。それを後から叔父に聞いた。


「フレーベル、最近また面白そうなことをしておるそうだな」


「ははは、マーティン様は地獄耳でいらっしゃる。ええ、そうです。新しいレストランを作るんですよ」


「ほう、それは楽しみだ。ここはうまい食材がたくさんあるのだが。それを活かせる料理人がいないのが残念じゃ」


「レストランを開店しましたら、マーティン様には特別席を用意しますよ。そのかわりいいお酒を頼んでください」


「ん?酒の味にはうるさいぞ」


「わかっています。マーティン様の好みの穀物の酒を探しています。スッキリしたノドごしで、冷やして飲むと美味しい麦の酒をつくろうと思っています」


「ほう、麦。このあたりの麦は質がいいから楽しみだな」


 ソフィアはおとなしくふたりの話を聞いていた。口を挟むのも気が引けるので、じっとマーティン様とフレーベル叔父さんを見ていた。

 マーティン様は白髪の老人だ。今はケガをされているということで、椅子からは動くことはない。リラックスした服を着て、足にはブランケットがかけてある。素敵な白髭が特徴的だった。そして瞳はブルー。

 不意にマーティン様がソフィアに視線を向けた。思い切りソフィアは目が合ってしまい、軽くお辞儀をした。それを気がついたフレーベル叔父さんが話を止めた。


「すみません、ご紹介が遅くなりました。わたしの兄・フレデリックの娘のソフィアです」


「初めまして、マーティン様。ソフィアともうします。お招きいただきまして、感謝します」


 緊張してしまいうまく言葉が言えなかった。ソフィアは淑女の挨拶をした。そんな初々しいソフィアを好ましく思ったのか、にっこりと笑みを浮かべてくれた。


「おお、フィルから話は聞いておった。急に呼び出して悪かったの」


「いえ、とんでもございません。祖父からお話をうかがい、おけがの様子が気になっていました」


「優しい子じゃ。あのむさ苦しいフィルに似なくてよかった、よかった」


 ほほほほと上機嫌で笑うマーティン様。それから使用人がテーブルにお茶をもってきて歓談の時間になった。ソフィアは綺麗な食器に見とれながら、香り高い紅茶をのんだ。フレーベル叔父さんとマーティン様の話は尽きることがない。


「そういえば、マーティン様。領主を引退すると父から聞きました」


「ああ、そうなんだ。いろいろ細かい仕事も老いぼれの体には厳しくてな。隠居をして後進育成もいいだろうと思ってな」


「決まったのですか」


「ああ、王から推薦を頂いてな。侯爵家から来るそうだ。名前はオスカー」


 ソフィアは一瞬紅茶をむせそうになった。聞き間違いではないかと思った。新しい領主の名前がオスカー。ただの偶然の一致とは思えなかった。


「オスカー?それはそれは……」


 オスカーの名前を聞いて、フレーベル叔父さんも聞き覚えがあるようだった。意味ありげに言葉を濁してしまった。一方ソフィアは胸騒ぎがした。まさかソフィアを追ってくるにしても、領主になるなんてできるのだろうか。オスカーは侯爵家の跡継ぎ。田舎の領主になるなんて考えにくい。ソフィアには詳しいまつりごとはわからないが、おかしなことだとは思った。

 フレーベル叔父さんは何かピンときたようで、黙り込んでしまった。何か考えがあるのかもしれない。叔父さんが考えていることをマーティン様は見透かしているのか、窓の外をみたきり沈黙が続いた。


「父上は何かいっていましたか……」


「しばらく様子をみるらしいな」


「そうですね」


 そのあとはまた和やかに世間話に戻ってしまった。ソフィアはマーティン様の話を聞いていたが、頭に入ってこなかった。笑顔を作って相槌あいずちをうっていても、これから起こるだろうことに不安が募った。そしてマーティン様とのお見舞いをすませて、ソフィアは帰宅した。



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