プロローグ
初っ端からこういうのですみません。
しかし、全体的にこういう話ですので…
苦手だな、と思った方は早めにお忘れ下さい。
──煙草、やめようかな。
全身を襲う快楽を走馬灯のように感じながら、私はふと頭に浮かんだ「禁煙」の文字を反芻していた。
現代社会に於いて、喫煙者は往々にして嫌われ者だ。
理由は至極単純である。曰く──「臭うから」。
何とも単純で──如何ともし難い問題である。
喫煙者同士ならば、件の匂いも気になるまい。しかし、問題なのは非喫煙者相手の場合だ。
煙草に理解がある、若しくは慣れている人であればまだいい。しかし、相手が嫌煙者であった場合はどうしたらいいのだろう?
既に関係を持ってしまった人間が実は嫌煙者でしたー、みたいな場合ってどうしたらいいんだろう。嫌われるしかないのかな。あっやばい、なきそう……
「──ん?どーしたの、レイナ」
どこか浮かない表情をしていたのに気付いたのか、澄んだダークブラウンの瞳が私の目を覗き込んでくる。
「……いや、なんでもない……」
数回イかされて荒くなってしまった息を整えながら、私は小さくため息を吐いた。
「ふーん……」
特に機嫌を損ねることもなく、瞳の主は追求をやめた。
「……もしかして、気持ちよくなかった?」
しかし、今度は自分のせいかと落ち込み出してしまった。
「いや、そんなことは無いさ。気持ち良いよ、晴」
頬を撫でながら諭すように言うと、申し訳なさそうに沈んでいた瞳が輝きを取り戻した。
「ホント?嬉しいな」
「ああ。晴は上手だぞ」
全く、好きな人に散々弄られてれて気持ちよくならない人間がいるはずないだろうに。もう少し自信を持ってくれても良いと思うのだがな。
しかし──本当に、この子は素直でいい子だ。
私のことをいつも気にかけてくれるし、どんな下らない悩みだって笑わずに受け止めてくれる。
私なんかよりもよっぽど出来た人間だと思う。
──と。
「……えへへ。じゃあ、レイナ……」
頬を撫でられていた晴が、何かを求めるようにそわそわしだした。
「ん、ああ……そうだな」
──私がこの子を好きになった理由は、他にある。
軽く息を吸い、スイッチを切り替えるようにゆっくりと吐く。
仰向けのまま手を伸ばし、覆い被さるような姿勢だった晴の体をゆっくりと引き寄せる。
頬に触れられた時よりも数段荒くなった息遣いを耳許に聞きながら、今度は足も使って晴の体をめいっぱい抱きしめる。
──ああ、これだ。
「──晴」
「……、ふ──っ」
バクバクと跳ねる心音に震える息遣い。
私が大好きな晴が現れる予兆を全身に感じながら、私は晴の耳に囁きかけた。
「ハル──お前の愛で、私を殺してくれ」
直後。
先程とはまるで別人のような乱暴さで唇を奪われる。
じゅぷじゅぷと口の中を掻き回され、泡立った唾液がつぅーっと糸を引く。
──再び顔を見合わせる位置まで体を起こした晴が、今度は虚ろに笑いながら私の目を覗き込む。
「──わかった♡」
どろどろと濁りきった彼女の瞳が、真っ直ぐ私の視線を射抜いてくる。
──ああ、最高だ。
タガの外れた暴力的な「愛」を全身に感じながら、私はぶるりと身を震わせる。
視線を外せない。瞬きすら出来ない。頬の緩みが止まらない。
ともすれば人を殺しかねないような狂気の愛を持て余し続ける晴を解き放つ、「私を愛せ」という言葉。
──何から何まで、最高だ。
淀みきった茶色い瞳に吸い寄せられ、今度は私の方から舌を捩じ込む。
心臓と子宮を締め付ける極度の興奮に流されるまま、私たちは互いの愛を貪りあう。
──愛されるって、素晴らしい。
──愛せるのって、サイコー♡
キスだけで絶頂を迎えながら、私たちは溶け合うように抱きしめあう。
何かに飢え切った心を満たすために、私たちは一つになる。
──何に飢えているのかは、知らぬまま。
こういった場所への投稿は一年二ヶ月ぶりです。
リハビリがてら頑張りますので、お目汚しにはなりますが何卒お付き合い下さい。