プロローグ 悪役令嬢に転生しました
頑張って長ーくかけるようにしたいです。
「お嬢様、おはようございます。今日は気持ちのいい晴天でございます。」
重たいまぶたをゆっくりと開けて、目を覚ました先にはもう見慣れてしまった豪華な天井。
毎朝、決まった時間にカーテンを開けて私を起こしてくれるのは侍女のメアリだ。
「今日のご朝食は料理長が腕によりをかけて作った焼きたてのパンだそうで、早くお嬢様に食べていただきたいと言っておりましたよ」
「ん………それは、早く行かなきゃ………!」
侍女に手伝ってもらいながら朝の身支度を早めに整え、急ぎ足で食堂へと向かった。
もう夜も深いというのに、まだまだうるさいのはいつもの事で、子供がぐっすりと眠っているような時間に帰るのも、いつもの事だった。
私はどこにでもいるような普通の会社員。なんの取り柄もなく、地味に細々と暮らしている。
そんな私が密かにハマっているのが乙女ゲームと呼ばれるもの。
主人公の女の子がたくさんの男の子を攻略して恋愛していく。恋愛経験の少ない私がハマるのにはそう時間はかからなかった。
そんな自称乙女ゲーム評論家の私が今ハマっているのが、大手ゲーム会社が発売した、『光のような君と』というゲームだ。魔法ありの西洋貴族風のファンタジーもの。
私がハマった理由の1番は、攻略対象者全員がヤンデレということだった。
ヤンデレ男子が好きな私にとってはこの上ない最良ゲーム。
全攻略者、隠しキャラまで攻略し終えた私は3回目の全クリアを終える直前だった。事故にあったのだ、飲酒運転をしていた若い男性の車に跳ねられて呆気なく私の27年間の人生は幕を閉じた。
と、思ったら、ハッと目が覚める。見開いた先には知らない天井知らない人たち、とても動かしづらくて小さな体。
え、なにこれ………
も、もしや、これが世にいう転生!?!?
これはラッキー!前世の記憶があるだけでもとてもいい!それもこの世界『光のような君と』の世界!!!やった!!攻略対象をまじかで見られるかも!?!?
とか思っていたのもつかの間、自分の名前がわかった瞬間、絶句した。
私は、『光のような君と』の中に出てくるシルビア・ヴェスターニャだったのだ。
ん?どんなキャラだって??
もちろんヒロイン!なんてことはなく、全攻略者共通の悪役で、どんなエンドだろうが絶対に無残な死に方をする、悪役令嬢だ。
な、なぜ彼女に………………ヒロインなんて高望みはしない、脇役でよかった、それも全然目立たないような。
そんな、絶対に死ぬ悪役令嬢に転生してしまった私はこれからどう生き抜くのか、生き抜けば良いのか、その時は全く見えなかった。
転生して、シルビア・ヴェスターニャとして生まれてから早6年。
私はとても健康に暮らしています。
悪役令嬢であるシルビアは超がつくほどのワガママの自信家。
ちょっとでも気に食わないことがあると、すぐ権力にモノに言わせ、たくさんの人を丸め込んでします。
そんな彼女が初めてかなわなかったのがヒロインだった。
ヒロインが選んだ攻略対象をシルビアは好きというのが決まった流れ。
自分の好きな人がほかの女と仲良くするなんて許せないシルビアはあの手この手でヒロインの邪魔をするが、それはそれは残忍な方法を使う。
犯罪まがいのこと、いやもう犯罪レベルのことをしたりもする彼女が最後死んでしまうのは、プレーヤー側てきにはスカッとしていいのだが、当の本人になると、とてもとても困る。
死亡ルートを抜け出すためにも私はとりあえず、誠実に優しい人を目指している。
使用人の人にも感謝をして、両親にも迷惑をかけないように、それをいつも心がけてきた。
そんな私の家の中での評判はとても良い。みんな優しくしてくれるし、とことん甘やかしてくれる。
でも、生まれた時から相当甘やかされていた、シルビアの性格がひね曲がったのは甘やかされすぎたせいなのでは…………。
うん、天狗にならないように気をつけよう。
私は料理長の作ったそれはそれは美味しいパンを食べながら心にそう決めた。