ある被害者の話
あの人が好き。
優しい眼が好き。
穏やかな声が好き。
気弱だけど、誰かを守れるところが好き。
私はガサツだから、あまり表現が上手じゃない。
だから彼にはついつい強く当たってしまう。
そんなつもりじゃないのに。
ごめんね。きっと傷つけてしまっていると思う。
優しいから、苦笑いするだけだけれど。
私はあの人が好き。
いつかきっと、この気持ちを伝えよう。
あなたが好きだって。
笑ってくれるかな。それとも困るかな。
上手くはいかないかもしれない。
私は多分、あの人にとってはいい女じゃないから。
それでも、伝えないよりはずっと良い。
好きです。
愛してます。
ずっと。ずっと。
……
…………
………………
レコーダー。
日記を書くのが苦手な彼女が、日記代わりによく使っていると聞いたことがあった。
出来心だった、と思う。
仕事でイライラしていて、余裕がなかった。タイミングが悪かったんだ。
偶々会って、いつものように絡んできた彼女を突き飛ばしてしまった。
そんなつもりはなかったのに。
慌てたときにはもう、彼女は駄目になっていた。
こんなもの、聞くんじゃなかった。
彼女は悪い子じゃなかった。
少し気は強いけど、周りを気遣える人だった。
辺りを見る。
人気は無かった。
生まれて初めて、田舎に生まれた事に感謝した。
……急がなくてはいけない。
バレたら終わりだ。
彼女には悪いけれど、私はまだ捕まりたくなんて無かった。
心に芽生えた罪悪感を振り払って、私は彼女を抱え、自分の車へと急いだ。
それにしても、どうしてこの子はあんな奴のことを好きになったんだろう。
あんな奴の、どこがそんなに――。
視界が、揺れ。
ガツンと、何かが、頭を。熱い。
笑い声が聞こえる。怒鳴り声。なにか、喚くような声。
あれ、目が、か、すんで――。




