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闇落ち勇者のパーティ VS ナマハゲ(小五郎)

 ◇


 ナマハゲの面を被り、再び異世界へと跳躍(ちょうやく)した船木小五郎(ふなきこごろう)の意識は、完全に覚醒していた。


 跳躍(ちょうやく)――と小五郎が名付けた現象は、意識だけが見知らぬ世界へと飛ぶ錯覚、あるいは夢のような体験だと思った。

 だが、蔵の奥に厳重に封印(・・)されていた「鬼の面」が見せる幻覚にしては、あまりにもその夢はリアル過ぎた。


 初めての跳躍で感じ、絡みつくような闇と血生臭い風。炎に燃え落ちる馬車の熱、生き物の焼ける臭い、そして赤く染まった大地。

 見るからに悪逆非道な行いをしているのは武器を携えた異邦人たちだ。


 唯一で守るべきものは闇の向こうで儚く揺れる、美しい少女の涙だった。


 そして、2度目の跳躍――。


 再び訪れた見知らぬ世界は、やはり血に染まっていた。


 どこか懐かしさを感じさせる室内は、中世ヨーロッパの古民家を思わせる色褪せた梁や漆喰の壁で囲まれていた。テーブルや椅子、タンスに至るまでアンティーク家具のような実用性と可愛らしさを兼ね備え、温かみを感じさせるものばかりだ。

 しかし、平和な家族の団らんがあったであろう室内は、無残にも荒らされていた。


 黒く変色し事切れた老人にすがりつき、泣く幼子。

 それを見た時、小五郎の胸は締め付けられた。

 怯えきった子供たちの瞳、哀しみに染まる老婆を見れば、答えは明白だった。


 目の前でその光景を見て嗤う3人が「悪りぃ子」なのだ。

 家を荒らした張本人だと理解するのに1秒も必要なかった。


 一人は、まるで中世のヒロイック・ファンタジーの英雄。童話から抜け出してきたかのような、銀色の甲冑に身を包んだ赤毛の大男。

 二人目は、御伽ばなしに出てくるような「魔女」そのもの。金髪の妖艶な女。

 三人目は、邪悪な臭気(・・)を放つ痩せた男。汚物を包み隠すかのように、似つかわしくない青く清廉な僧侶服に身を包んでいる。

 

 彼らは無抵抗な者の命を奪い、苦しめているのだ。

 理不尽と哀しみの涙を目にしたとき、小五郎の魂は熱く燃え上がった。

 正義の熱き魂と叫びが、全身を巡る熱き血潮のように自分を「ナマハゲ」と一体化させてゆく。

 

 ――オラが……やらねば、なんねども。


『泣く子は、いねぇガァアアアアッッッ!』


 魂の鼓動が叫びと化す。


 全身が熱い。だが、頭の中は男鹿半島の寒風山から吹き下ろすからっ風のように冷たく、冷静だった。頭脳と判断が、瞬時に状況を理解し、激しく渦巻く闘争本能が身体を自然と突き動かした。


 開放――。肉体の限界を越え、完全なるナマハゲと化した小五郎は、手に持った「ナタ」を振るう。

 まずは、一番近くに居た臭い僧侶の首を切り落とした。肉を絶ち、骨を砕く感触が、ほんの一瞬伝わってきたが、それで終わりだ。


『――悪リィ子はぁ、いねぇがぁあああッ!?』


 目の前に広がる惨劇の現場と、子供たちの涙。

 それを振り払う為に自分はここに来たのだと、完全に自覚する。


 跳ね飛ばした生臭い僧侶の首が飛んでゆくのを視界の隅に捕らえながら、小五郎は鎧の大男の間合いへと飛び込んでいた。


「こいつ、バーサーク系、いやオーガの(たぐい)か!?」

 赤毛の大男は意外にも小五郎を冷静に分析していた。大剣の柄を両手で握り、小五郎を迎撃せんと上段の構えを取る。

 見るからに手練(てだれ)、数々の戦いを潜り抜けてきた歴戦の強者だと、小五郎は直感で理解する。


「ぬん!」

 空気を切り裂きながら大剣が小五郎を襲い、身につけていた稲わらの(ミノ)を切り払った。しかし強力な一撃を、ナマハゲと化した小五郎は見た目に似合わぬ俊敏さを発揮し、サイドステップを踏んでかわした。

「逃さん!」

 マクゥートはそのまま更に横薙ぎの一閃を振るう。赤毛の大男の剣を、小五郎はナタでとっさに受け止めた。

『グッ!?』

 

 ――重ぇッ!?


 ギィイイイイン! と重々しい金属同士が激突した。火花が散った瞬間、衝撃波(・・・)が背後のテーブルを撃ち砕いた。


『グッ、ガァ!?』


 剣の実体は凌いだものの、衝撃波を伴う剣撃によりガクン、と小五郎の右足が床板に沈んだ。


「――邪聖剣ガーシナルト。……我が一撃によくぞ耐えた、下等(・・)な化物風情が」


 2メートル近い背丈のマクゥートが、静かにニィイと邪悪に口角を釣り上げた。

 

 そのまま鬼――小五郎を剣で薙ぎ払うように弾き飛ばした。小五郎は吹き飛ばされ窓を突き破ると、外へと放り出された。


「マクゥート何やってるの!?」

「……ここじゃぁ剣を振れねぇ、外で楽しませてもらう」


 びゅんっと大剣を振り払う。


「くだらない、さっさと仕留めるよ」

「あの化物、俺様の3割のパワーだが、剣を受け止めやがった!」


 マクゥートが鏡のように光る剣を見つめると愉快そうに笑い、舌先で唇を湿らせた。


 ◇


 外は夕暮れ色に染まる牧歌的な風景が広がり、どうやらこの家は村はずれの一軒家のようだった。

 剣を持った大男と、魔女が家から飛び出してきた。


 落下しながらも体勢を立て直し着地した小五郎は、すっとナタを構え直した。


『おら……ごしゃぐど』


<つづく>


※ ごしゃぐ = 怒るぞ 


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