ナマハゲ小五郎、雷の反撃
「やれといっている!」
「アァアアアッ! ワタシハァ……ッ! 王国のォオッ!」
魔法騎士リーゼンハイアットが叫ぶと、魔改造人間・エリザベェトが、地面を蹴って突っ込んできた。
鉤爪で凄まじい連続攻撃を仕掛けてくる。
『ヌゥ……! ウッ!?』
「ぁ、私は……私ワ……騎……」
ギィン! ガギィン! と火花が散る。
『おめぇさんは……もう! 正気でネェ』
小五郎は鉤爪の攻撃を、ナタを盾のように使いながら、ステップを踏み後方へと下がる。魔改造人間の攻撃の勢いを受け流しつつ、反撃の機会を窺う。
すぐ横では、人間をひっくり返して四足歩行させた怪物、イグニールを火煉が追撃していた。その動きは狂った人間のブリッジ体操のようで気味が悪い。
『まてゴラァ!』
『ヒッヒィイ? この桶に何か秘密があるナァアア!? リーゼンハイアット様にぃ、褒めて頂くゥウ!』
異様に長く伸びた手足をワサワサと動かしながら、火煉が振り下ろした金棒を避ける。地面が爆裂するが、真横にカニのようにカサカサと逃げてゆく。
『ちょこまかと……!』
『オマエ、エリザベェト様よりはァ、胸が小さいナァ。まぁでもぉ? ベロンベロンさせてくれたらぁああ、返してやるぞぉ?』
ピタッと静止して首をぐるぐると回すイグニール。伸ばした舌の先端から、黄色いよだれが飛び散って気持ち悪い。その動きは明らかに胴体と首が接続されていない。
『殺す。メッタギタに殺してやる』
『……イ!?』
火煉が怒り超音速で金棒を振った瞬間、ボッと炎がついた。それは撲殺してきた魔物たちの体液が空気との摩擦熱で燃えたものだった。
「ヒャーハハハ!? いいぞぉイグニール! その赤い小娘はお前に任せる。エリザベェトはデカイ方を殺れ。さて、では私はそこのバカどもの始末をつけるとするか」
魔法騎士、リーゼンハイアットが、ついさっきまで仲間だった騎士と兵士たちに視線を向けた。荷台の一段高い足場から冷たい視線で睥睨した。
「お前たちの死体を、『闇の眷属』究極体と一体化させてやる」
闇に堕ちた王国の魔法騎士、リーゼンハイアットがついに本性を現した。
「な……! 貴様ぁ、魔導兵器の実験とは……、全て嘘偽りだったのか!? 答えよ、リーゼンハイット!」
部隊隊長、騎士バーデリアスが大剣の切っ先を向け、大声で問い正す。魔物を討伐し、集結しつつあった兵士たち十数名も次々と剣を抜き身構えた。
「嘘ではありませんよ。そこの魔改造人間・エリザベェトこそ……君たちの知る『白薔薇騎士の元・女騎士』を死の淵から復活させた姿なのですよぉ? 今や私の忠実なる魔導兵器、ですがねぇ」
まるで魔王のように悠然と黒衣を翻し、魔法円を操作する。
「やはり噂は本当だったのか! 白薔薇騎士の騎士を手に掛けたと囁かれていたが……。国王陛下へのご忠義を利用し、お前は……己の欲望のために彼女を利用したということか!」
「なぁにをおっしゃいますやら。女騎士の無様な死骸を再利用しただけですよ? すべては……闇霧の神、グ=ネテゥープ様の御心のままにィイイ……!」
ニカァア……と、魔法騎士の顔に歪んだ喜悦が浮かぶ。狂気に染まった瞳に宿る闇は、やがて周囲にどす黒いオーラを放ちはじた。
「騎士の名を汚しただけでなく、あまつさえ闇の神の名を語るか……! 貴様ッ! 王国への反逆罪だ! この場で断罪するッ!」
兵士たちも怒りとブーイングを浴びせかけた。騎士バーデリアスは高々と剣を振り上げると、馬の腹を蹴った。
そして、魔法騎士リーゼンハイアットが立つ馬車の荷台へと突進する。
「まったおくお立場がわかっていないようだ……。貴方達にはここで死んでもらうと言ったでしょう? そこの……赤い悪鬼二匹と一緒にね」
魔法騎士リーゼンハイアットは口の端を更に獣のように吊り上げると、ギュィイイン……赤い魔法円を励起した。
それは光と雷光を伴いながら、傘のように頭上に広がってゆく。
「な、魔法……!?」
「まずい! 隊長殿ッ!」
「それは、戦術級魔法ですッ……!」
兵士の中には魔法の知識を持つものが居たらしく、慌てた様子で叫ぶ。空に雷雲が立ち込め、時折雲の中で赤黒い光がスパークする。
「――成敗!」
馬の背から跳び上がった部隊隊長、騎士バーデリアスが大剣を向けた瞬間。
耳をつんざくような轟音と、真っ赤な光が天から地面に向けて放たれた。
「はい死んだ」
騎士バーデリアスはあっけなく雷に打たれ、地面へと落下。声を発することもなく、炭のようになって息絶えた。
「た、隊長どのっ!?」
「うお、おのれぇえええ!?」
「次の天魔雷撃充填まであと10秒ぉお。逃げてもよし、それとも……戦います?」
挑発的な声で天を指差す魔法騎士リーゼンハイアット。しかし、隊長の無残な死を目の当たりにしても、兵士たちは誰ひとりとして怯む様子はなかった。盾を構え、矢を放ち、剣を振りかざし突撃する。
しかし、放たれた矢は見えない壁に阻まれ、地面に落下する。
残るは兵士10名による突撃のみだ。距離はまた20メートル程も離れているが、全力で懐に飛び込めばチャンスはある。
「愚かな……」
『ゴローちゃん聞こえてた!?』
『あぁ、あと8秒で雷撃がくる!』
小五郎はカウントしながら戦い、タイミングを見計らっていた。この窮地を、全てを救うチャンスを。
『どうする気!? あの人達みんな殺されちゃう!』
火煉が悲鳴じみた声を上げる。
それでも小五郎は、地面を蹴り絶叫しながら襲いかかってくる魔改造人間を真正面で受け止め、弾き返した。
『オラに考えがある……あと5秒』
『ゴローちゃん一体何を!?』
雷雲が再びゴロゴロと頭上で闇の塊のように凝り固まり、内部で真っ赤な光が渦巻いてゆく。
『まさか……!』
「私……ハァアアアアアアアアアッ――――」
『悪ぃな』
真正面から突っ込んでくる魔改造人間に、小五郎は慈悲深い眼差しを向け、そして全力でナタを放った。
ヴォン! と空気を切り裂く音とともに、手から離れた巨大なナタは、高速回転する超重量の刃と化した。
――あぁ……。
シュバッ!
元・女騎士、エリザベェトの首が、空に舞い上がった。胴体からは遅れて、赤黒い体液が噴き出し、よろけ転倒する。
地面に首が落下する瞬間、エリザベートの口元に笑みが浮かんでいた。
――ありが……とう。
小五郎の耳にはそう聞こえたような気がした。
シュバァツ……と回転しながら飛び続けるナタは、兵士たちの頭上へと向かってゆく。その高回転による摩擦熱が空気をプラスラマ化させ、輝きを青白い放った。
『3、2、1――』
「死ねぇえええええええ! 愚か者どもがぁああっ!」
「うっあ!?」
「ああああ!?」
兵士たちが殺到する前に、魔法騎士が叫び最大級の赤い雷撃の束を放った。
それは兵士たちに向かってゆく。空中で幾重にも細く枝分かれし、無数の雷の雨となって降り注ぐ。
「拡散・天魔雷撃で一気に死ね」
だが、赤い雷撃の豪雨を、青白い光が真横一文字に斬り払った。降り注いでいた赤い雷は、イオン化された空気の層に誘電され、霧散。
バリバリと音を立てながら、何もない地面をえぐってゆく。それは一人の兵士にも命中していない。
「た、助かった……!?」
「あの赤い人型が何かを……」
「なっ……、なにぃいいいいいっ!? ノォオオオオ!? そんな、あの雷撃を……ばかな、ばかなぁあああ!?」
魔法騎士リーゼンハイアットは計算が狂ったのか、絶叫する。
『ゴローちゃん凄ッ!?』
『上手くいったみてぇだな……! 理科は得意だったがんなぁ』
『いまの、理科なの!?』
<つづく>




