チームナマハゲ対、森の魔物軍団
森の木々の間から、狼のような魔物が次々に飛び出してきた。
『ギャウッ!』
『ガウァッ!』
数は10匹以上。移動速度が速く、見るからに獰猛そうな狼タイプ。普通の狼と違うのは、体が大きく目が真っ赤なルビーのように輝いていることだ。
牙をむき出しにして威嚇、激しく吠えながら、一斉に小五郎目掛けて向かってくる。
『ゴローちゃん、来たよ!』
『……オラァ狙いたぁ、上等だべ』
明らかに小五郎を狙っている。
ナタを握り身構えるが、火煉が先に行動を起こしていた。足元に転がっていた石を幾つか足先で蹴り上げると、空中に舞い上がった石礫を金棒で思い切り叩きつけた。
『ふんぬ!』
ギギィン! という鋭い音を発し、石礫が弾丸と化す。それは十数メートル手前まで迫っていた狼の魔物4匹に命中。
『ギャ!』『ギッ!?』『グッ!』『ゲェフォ!?』
石の弾丸が直撃し、頭半分が吹き飛んだ魔物が二体。胴体を貫通されて真横に吹きとばされた魔物に、首の骨に命中、首がボキリと砕けて絶命する魔物。一瞬で四体を葬り去った。
『ほい次ッ!』
ガギィン! と第二射。更に魔物三体を撃ち抜き、仕留める火煉。
流石は元ソフトボール部のスラッガー。佳代が得意とする「地獄の千本ノック」の腕前が鬼のように強化された結果、恐るべき中距離支援攻撃の名手と化していた。
『部員が半減したべ』
『アタイのノックも取れない部員はいらないわよ!』
呆れたようにナマハゲが笑う。すでに狼軍団の個体数は半減していた。
それでも石の弾丸をかい潜り、五匹の狼が一斉に小五郎に飛びかかってきた。
だが『ぬん』の一言で、五匹の狼達はまるで見えない壁に阻まれたかのように、空中で弾き返された。
ナタの一閃は、目にも留まらぬほどの速さだった。
『キャゥン!?』
地面に落下した狼達の腹は、真横一文字に切り裂かれていた。悲鳴をあげる時間さえ無く、赤黒い血を噴き出しながらビクビクと地面の上で痙攣し絶命する。その様子に残った魔物たちは怯え、後退しはじめた。
『犬っこ殺すのさァ、好きでねェな』
『どう見ても凶悪な狼じゃん! てか次が来るよ!』
だが、森からは新たな魔物が次々に飛び出してきた。今度は子供ぐらいの背丈で緑色の皮膚に尖った耳、醜い老人のような顔をした小鬼の群れだった。
冒険者から奪ったのだろう、錆びたナイフや折れた剣、棍棒などを持っている。ボロの布を身に着けているヤツもいる。
「キキッ!」
「キュェエ!」
甲高い声を発しながら、連携のようなものを取っている。狙ってるのは、今度は火煉の方だ。
その数は二十匹近くも居るだろうか。一斉に来られると厄介そうだ。
『アタイのほうに来るんですけど!?』
『……捕まるとマズいやつだべェ』
『なんで!?』
小五郎は鬼の顔でニヤリと笑い答えない。人間の女の子がゴブリンに捕まると、大抵アレやコレをされた挙げ句、酷い目にあうのが常道だ。
火煉が先程と同じく金棒で石礫の弾丸を放つ。一度に二匹の頭に命中するが、すばしっこく他の個体はうまく避けている。
『ちょっ!? コイツら……ちょこまかとぉ!』
「キッ!」
「キッェ!」
「キィイイェエ!」
数十匹のゴブリンの群れが数で押せ! とばかりに一斉に飛びかかってきた。
その時、小五郎が大きく息を吸い込んだ。そして――
『ゴルァアアアアアアアアアアアアアッ!』
凄まじい咆哮を全身を震わせながら放った。
地を揺らすほどの大噴火のような怒号で、ゴブリンたちはビクッ! と動きを止めた。中には腰を抜かすもの、手から武器を落とすものさえ居る。
『今だ……!』
火煉は身体を撚ると地面を直接、金棒で叩きつけた。ゴルフクラブで地面を削るように強くスイングし、無数の石礫の弾丸を浴びせかける。
「キッアア!?」「ギッ!」「キュッ!」
ドバァン! と散弾のように飛び散った石や土が、近距離のゴブリン達の体をズタボロに切り裂いた。三連撃で地面を左右からすくうようにアンダーで殴りつける。散弾攻撃で後続のゴブリン達を次々と仕留めていく。
小五郎もゴブリンを引き寄せ、巨体に似合わぬ素早さで首を次々と切り落としてゆく。
『これで35ッ……!』
ハァ、ハァと流石の火煉の息もあがっている。
ゴブリンの数に圧倒されこそしたが、二人はほぼノーダメージで凌ぎきった。
多少の疲労感を感じつつも、超感覚で後方を探る。すると例の冒険者たちは見えないほどの位置、かなり城塞都市に近い地点まで撤退していた。
しかし、討ち漏らした魔物が追いすがり、周囲に数匹居るようだ。だが、彼らは手練の冒険者らしく、うまく倒しながら撤退をしているようだ。
マリエルとリィ、二人もこれならば城塞都市まで無事戻れるだろう。
『あの子たち、もう大丈夫だよね……』
『んだな。んだども……オラたちの勝負は終わらねぇみてぇだ』
『キリがないね』
脚にまとわりついてきた最後のゴブリンを踏みつけて、ブチリと圧殺したところで、森の奥からバキバキ……と、木々がなぎ倒される音が響いた。
『……大物が来るぞ』
『何、あれ……まさか』
それは巨大な二足歩行のトカゲ、高さ4メートルに達するほどの巨体をもつ魔物だった。恐竜図鑑に載っているティラノサウルスに近い形状の怪物。つまり、
『竜――ドラゴンだべ』
――ゴガァアアアア……ブシュルル……!
全身は金属的な輝きを帯びた青黒い鱗に覆われている。前脚には鋭い鉤爪があり、生身の人間なら一撃で真っ二つにされそうだ。
尻尾は長大で棘が無数生えており、振り回すだけで強烈なハンマーと化すだろう。背中には小さめのコウモリに似た羽が見える。あの大きさでは飛べないだろうが、ファンタジー世界の住人としては知らぬものは居ない有名なドラゴンそのものだ。
それだけではない。ドラゴンを遠巻きにするように、狼タイプの魔物や、変態クマのような半人型の魔物などが近づいていた。森の木々の向こうに見え隠れしているその総数は、50体を越えるだろう。
ここまでドラゴンが他の魔物を先導してきたのか、あるいは誘導されてやってきたのか。判断はつかないが、ドラゴンの存在感は明らかに他の魔物とは一線を画している。
――ブシュルル……!
互いの距離は10メートル。ジリ、ジリ……と円を描くように動きながら、牙をむき出しにしてこちらを威嚇。襲いかかるタイミングと狙いを定めている。
『これ、エリアボスってヤツ?』
『森が騒がしかったのはコイツのせいだべが……!』
ドラゴンが首を低く下げ、大きく鼻から息を吸い込んだ、次の瞬間。グパァ……と大口開けたかと思うと、白い霧状のガスを吐き出した。そして奥歯からガチリという音を発し――発火。火炎放射のような炎の吐息を二人めがけて浴びせかけてきた。
『うそォ!?』
『ヤベェ!?』
<つづく>




