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美少女鬼っ娘と、金棒フルスイング


「ずりゃあっ!」


 振り下ろした棘付きの鉄棒の先端が音速を超えた。


 ――ゴガッ!


 佳代が渾身の力で振り下ろした『金棒』が怪物の脳天にヒット。


 手応えがあった。異形の化け物とは言え元は人間の頭部。肉と骨の嫌な感触が伝わるが、躊躇いは無用。

 そのまま真下に押し込むように叩きつけた。


『――ぎゃびゅッ!』


 突進してきた怪物は進行方向(ベクトル)を真下に捻じ曲げられ、屋根に激突。

 ドゥン……! と円形に衝撃波が広がり焼き瓦の屋根を吹き飛ばした。そして、スイカ割りを10倍も派手にしたような赤黒い液体が飛び散った。


『え、ぇえ”!?』

『ひぃぇうえ!?』

 最初の悲鳴は砕けた()が発したもの。つづく悲鳴は左右に残った二つの首が発したものだった。怪物の顔は虚ろだが驚きで口を大きく開けている。


 二階の屋根で発生した爆発で階下の窓すべてが内側から砕けた。割れた窓ガラスの破片が人気のない暗い路地へと落下してゆく。

 衝撃でポッカリと穴の開いた屋根から室内が見えた。梱包された荷物や樽が積まれている。どうやら建物は無人の店舗か倉庫らしかった。

 被害がないことに佳代はホッと胸をなでおろした。


 そして、金棒を握りしめた腕を見て、いままでの自分の身体ではないと確信する。

 圧倒的な、パワー。

 赤っぽい皮膚に、引き締まった肢体。動体視力や反応速度も超人的。

 ナマハゲの面を被り、見知らぬ異世界へと来た瞬間から感じていた違和感。その正体がこれだった。

「すごい! これが……私?」


 赤く燃えるような髪色はすこし恥ずかしいが、年頃の美少女の如く揺れ動く長い髪は嫌ではない。佳代は「美少女鬼っ娘」になった事を自覚する。


『オノレェアアアアアッ!』

『神のォオオ! ご意思に……逆らうのカァアッ!』


 残った二つの首が、計12本の手足をワサワサと動かし、起き上がった。左右から薙ぎ払って引き裂くように振り回した3本の腕の攻撃を、素速く避ける。


 右、左、そしてまた右。まるでイージーモードの格闘ゲーム、それもスローモーションのプレイ動画を眺めているような感覚だ。


「見える! これなら余裕……ッ!」


 上半身を後ろに引き一撃目を避ける。つぎに左からの薙ぎ払うような攻撃を、しゃがんでかわす。更に両足に力を込め、上へジャンプして連打を避けた。


『ナッっ!?』

『ニィ!?』


 身体が軽い。軽く飛んだだけなのに、ドローンからの映像をズームアウトするみたいに、視界の下の景色が一気に小さくなった。

「ひゃぁ、高い……っ!」

 5メートル、いや10メートルほど飛翔。自由落下に任せてそのまま隣の建物の屋根へと着地する。

 それさえ、屋根瓦を割ることもなく、まるで猫のようなしなやかな着地だった。

 しかし手に持った金棒だけは重力に引かれ、ズシリと肩に重さがかかりバランスを崩しそうになる。


「おっ……とと」


 向かい側の屋根から、二つ頭(・・・)の怪物が叫んだ。

 真ん中の頭部は熟して腐ったザクロのようにダラリと垂れ下がっている。頭部を一つ失っても活動は停止していない。


 ――ゴローちゃん、これが「試練」ってやつ? あれを倒さなきゃダメなの?


 とはいえ、改めて異形の化け物を見て、身の毛がよだつ。


 ナマハゲの面を被る前に小五郎から聞いていた話が脳裏をよぎる。異世界に行けば「試練」を課せられる。それは悪人から人を救い、怪物を倒す、というものだ。


『暗黒の神ィイイ!』

『ご加護ォゥオゥオ!』


「うぇ……? いきなり酷い化物ね」


 圧倒的な力があっても、相手に呑まれ心が負ければ、身体は言うことを聞かない。それはスポーツでも、こうした戦いでも同じこと。


 高校時代はソフトボール部だった。ここぞというときにヒットを打つ集中力と反射神経は、こういう場面でも役にたつものらしい。

 どんなときも平常心、平常心。佳代は人生経験の中で学んできた極意を思い出す。


「よし、やっちゃる……!」


 呼吸を整えて、改めて金棒を振り回す。とはいえ、間合いが遠い。

 また向こうまではね飛んで、金棒を振り回すのもリスキーだ。


 咄嗟に、佳代は足元の屋根瓦を踏みつけて砕き、ひょいっと蹴り上げた。


「ほいっ!」


 胸の位置まで破片が跳ね上がったところで、金棒を構え、ボールをノックする要領で、打った。


 ガギィン! という金属音を響かせて破片が飛ぶ。

 怪物の肩から血煙があがった。


『フヌガッ!?』


<つづく>

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