Episode.1 雪 と 出会い そして 始まり
今日からキミのために毎日ひとつづつ曲を書くよ
だから、365の曲ができたら僕と……
「結婚してくださいとでもくるんだろうなぁ」
なんてことをぼやきながら、僕は手にしていたそのうわ言の塊、もとい古本屋で398円で売られていた小説を閉じた
外では3月だと言うのに雪が降っている
時計の針は6時半を指していた
さて帰るか
僕はいつものごとく部室に鍵をかけ帰ろうとした
いつも通りに鍵を扉にかけいつも通りに職員室に鍵を返しに行く
そう、いつも通り…のはずだ
鍵を返し帰路に着いた僕の目の前には廊下をうろうろしてる女の子の姿がある
しかも、彼女はどういうわけだか右手をぶんぶんと愛らしく上下に振っている
よく見ると彼女の手にはケータイがしっかりと握られていた
「妙だ…」
僕は、あの風景を知っている
ケータイの電波が圏外などになると、ぶんぶん振って電波を何とかキャッチできないものかと無駄な努力をする
実際あれをやってつながったためしが無い
なにはともあれ、夜の薄暗い廊下で一人ケータイをぶんぶん振っている少女に出くわしたら誰しもが妙だと思うであろう
そんなことを考えている間にいつの間にかその子は僕の目の前に立っていた
僕を見る彼女の目はきれいな目をしている
僕は言葉を発せなかった
彼女の黒く長い髪が軽く動き彼女から甘い匂いがする
なんだこの、マンガみたいな展開は
僕は寝ぼけてんのか?
でも、見れば見るほどかわいい容姿をしている
僕は彼女に見とれてしまったのだ
頭の中でいろんな考えが議論を開始する
そして、さまざまな考えが浮かぶ中僕は一瞬手の中にある鍵の存在を忘れてしまった
忘れ去られた鍵は僕の手をするりとぬけ、僕と彼女のちょうど中間に落ちた
「あ」
僕がそう短くいうと僕が動くより早く彼女は部室の鍵を拾った
そして、その鍵についた札をじっとみている
「あ、あの、ありがとうございます」
僕はそう言ってとりあえずコンタクトを取ろうとした
ラノベとかではこれがテンプレなんだと、聞いたことがあるし
と、いうよりもそれ以外思いつかなかった
僕の思考は完全に麻痺していた
次の瞬間彼女は息をはくように小さく言った
「....こんなところにあったのか」
外では雪が部室を出たときより強く降っている
そう、それがすべての始まりだったのだ