#7
まさか、こんな短期間で大切な存在を失ってしまうとは思わなかった。それも、自分のせいで。
言いようのない喪失感と罪悪感が、僕の胸を締めつける。
僕は五時間目が終わると、教室に戻った。彼女と目が合って、話しかけようか迷ったがやめた。黙って席に着き、はあ、と溜め息を吐くと、隣の男子生徒が背中をバシッと叩いてきた。
「なんだよ、元気ねえな!ってか、さっきの授業無断欠課だろ?らしくねえな!」
彼はけらけらと笑っているが、何も面白い要素はない。
「まあ、そんなにくよくよすんなよ。時間が解決することもあるぜ?」
こいつ、意外と良い事言うな。確かにそうだ。彼女の事だ、ちゃんと謝りさえすれば、いずれ許してくれるはずだ。
学校からの帰り道、僕は無意識に彼女を思い浮かべていた。
「…はあ」
もはや溜め息しか出てこない。僕はどうしたいのだろう。どうしたらいいのだろう…なんて、くだらない自問を繰り返す。それが無駄な足掻きだという事くらい、僕は知っているのに。
僕は不意に、彼女の言葉を思い出した。
『死後の世界って信じる?』
僕は無、と答えたが、彼女は五次元だと言った。僕は、素直に面白いと思った。もし死後の世界が本当に五次元だとしたら、僕だったら行きたいと思った。それが例え、苦痛を伴うものだとしても。
そしてそれはきっと___彼女も同じ。
刹那、最悪の事態が僕の脳裏をよぎった。まずい、と僕の身体が言った。僕は弾かれたように走り出す。当てなんかない。彼女の居場所なんて、わかったもんじゃない。それでも僕は走った。
息を切らして走り続けた矢先に着いたのは、学校近くの小さな図書館だった。僕は僕に幻滅した。学校に戻るならまだわかるさ。しかしなぜ、このタイミングで図書館なのだ。今まで彼女と図書館に来た事も、図書館の話すらした事もないのに。
もちろん、彼女はいなかった。狭い図書館だから、いればすぐにわかる。全身の力がふっと抜けた。
僕はへなへなと近くにあった椅子に座った。溜め息を吐いて、目を閉じると、彼女の笑顔が浮かんだ。
「…またか」
いつのまに、彼女の事ばかり考えるようになってしまったのだろうか。最初は面倒だと思っていたが、今ではいない方が不思議なくらいだ。
「病気だな、もはや」
呟いて、僕は笑ってしまった。
日没が近づいて、図書館から徐々に人が減っていく。僕は立ち上がって、夕暮れの中を歩き出した。