#4
それから僕らは、よく話すようになった。場所は主に屋上、雨の日は空き教室。そして昼休み限定だ。噂が立つのは好きじゃないから。
「しかし、よく飽きずに付き合ってくれるんだね」
いつものようにフェンスに手をかけて、彼女は下を覗きこみながら言う。フェンスはそんなに高くないから、僕はいつか落ちてしまうのではないかと内心ひやひやしていた。もっとも、彼女はそんな僕の気持ちなんて知らないのだろうけど。
「それはこっちのセリフだ」
僕が溜め息混じりに答えると、彼女はそうかもね、と笑った。
夏が近づいて、暑さが増してきた。そろそろ夏服に着替えたい頃。僕はカーディガンを脱ぎ、腰に巻く。そして徐に腕捲りをすると、彼女が僕をじっと見つめている事に気づいた。
「…なんか面白いか?」
「いや、男の子だなあって思って」
彼女は真顔でそう言った。これが軽い感じで言ってくれれば、僕も突っ込みを入れることが出来るのだが、あまりにもそんな雰囲気ではなかった。
「…ああそう」
数秒ほどの沈黙が苦痛で、僕はそんな間の抜けた返答をしてしまう。僕らの間を、生ぬるい微妙な風が吹き抜けた。
再び重い空気が空間を満たす。
僕は、この時初めて、早くチャイムが鳴って欲しいと願った。今すぐに、教室へ逃げてしまいたかった。
そんな事を考えていた僕の心情を知ってか知らずか、彼女がふと、沈黙を破った。
「死後の世界って信じる?」
僕は面食らった。せっかくこの空気から逃れられたと思えば、これか。あまりに突飛すぎる質問に、僕は思わず言葉に詰まる。
「死後って、死んだ後の事か?」
どう答えて良いかわからず、僕は見当違いな事を口にしてしまった。死んだ後、と書いて死後と言うのだから、死んだ後の世界について聞かれている事など言うまでもない。
「そうだよ。死んだら、どんな世界が待っているのかなあ?」
何なんだ、急に。しかもまるで旅行にでも行くかのような口ぶりで。
僕はふと、隣の席の男子に聞いた話を思い出していた。
『あいつ…死にたがり、らしいよ』
パチン、とパズルのピースがはまったような音が脳裏に響いた。いや、僕の早とちりだろうか?でも、もし合っていると仮定して、最悪の事態が起きたとしたら。
…僕は、何を言うべきだろう。
「考えとくよ。さあ、帰ろう」
僕は誤魔化すように笑って、彼女を連れて教室へと急いだ。