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第7話 『温かさ』


皆さん、こんにちは!

 

伊藤蛍です。


第7話からこのコーナーを兄さんから剥奪……じゃなかった。


えーと、譲り受けました♪


とりあえず、今後は私が司会です!


今後ともよろしくお願いしますね。



「それでは、第7話をどうぞお楽しみください!」





家に着くと、時間はもう6時前だった。



随分と遅い帰宅になってしまった。

兄さんは疲れ果てたようにぐったりと、リビングのソファに座り込む。


「うぅ〜……」


ソファにもたれこんで、兄さんの眠たそうな声を聞き、僕は苦笑をしながら台所へと立った。


「今から、夕飯作るんだから寝ちゃだめですよ。兄さん、わかっています?」


「わ、わかってるぞぉー。なんたって、今日はハンバーグだから……な……ん、ぅ……」


返事をするものの、兄さんの声はいつもみたく元気がない。


「あはは」


苦笑しながら、ミンチをこねていく。

はしゃぎすぎもあるとは思うが、生徒会の仕事の疲れだろう。


なんというか……、本当によく頑張る人だ。


任された仕事は、責任を持ってこなす。

兄さんのそういう所は常に感心してしまう。


「兄さん、起きてますか?」


「むぅ……お、起きて……いるぞ……ぉ〜……ん……」


兄さんの声はだんだんと小さくなってきている。

多分、もう半分寝ているな……。


「やれやれ……」


出来上がったミンチをフライパンに乗せて、焼いていく。

それがある程度、焦げ目が付いたところで裏返しにして、もう片面を焼いていく。


うん、……いい匂いだ。

我ながら、今日のハンバーグは中々の出来かもしれない。


「兄さん、もうすぐ御飯出来ますよ? ちゃんと、起きていますか?」


「……すぅ……すぅー……」


「……寝ちゃいましたか」


兄さんの寝息を聞いて、つい、笑みを漏らしてしまう。


ハンバーグをひっくり返すと、丁度良い焦げ目が裏面にも付いていた。

ハンバーグの内、一つをまな板に乗せて、中身を切ると、中もよい具合にしっかり焼けている。

お皿にハンバーグを乗せて、同時進行で作っていたデミグラスソースを上にかける。

ふわっ、と香ばしい匂いがキッチンを漂った。


「出来たっ」


美味しそうに出来上がったハンバーグを、テーブルへ持っていく。

もちろん、フォークとナイフも忘れずに、セットで。


「兄さん、出来ましたよ」


「う……ぅ……ん……」


「ほら、起きてください! 兄さん」


兄さんの肩を軽く揺さぶるが、なかなか起きてくれない。


困ったなぁ……。


兄さん、一度熟睡してしまったら、なかなか起きてくれないしなぁ。

ホント、どうしようか。


「んぅ………け……い」


「ん?」


不意に僕の名前を、兄さんは寝言で呟く。


「……ブラコン兄さん」


この場合はシスコンだろうか?

いや、そんな事はどうでもいい。

まったく、この人は。

夢の中でも、僕の事でいっぱいなのだろうか?

……はぁ〜、困ったものだ。


「……け……い……」


またも、寝言で僕の名前を呟く兄さん。


「何? 兄さん」


そんな寝言に僕は笑いながら返した。

ちゃんとした会話にならない事は承知しているが、こういうのは結構やってみると面白い。

遊び気分で返した返事に、早速、兄さんの口が動きだす。


「……も……」


「も……?」




「……萌……え……」




「……こら。勝手に萌えるな」


すかさず、兄さんの額をつついてやる。

困った事に兄さんは現在、夢の中で僕に萌えているらしい。

というか、せめて夢の中くらい僕を開放してやってください。

お願いしますから、はい。


「すぅー……んぅ……」


寝息に反応して、改めて兄さんの顔をまじまじと見てみる。

すごく幸せそうな顔で寝ている。

はぁ……。

こんな顔で寝られると、起こすにも起こせないじゃないか。


「……アホ兄さん」


「ん……ん……すぅー……んぅ……」


僕の呟きに反応したかのように、僕の肩に兄さんの頭がもたれかかる。


「……もう」


右肩に兄さんの頭がもたれ、少し重さを感じた。

男だった時は、重いとかあまり思わなかったけど、やはり体は女の子。

体が華奢になったなぁ、と自分でも実感してしまう。


自分の左手を出して見つめながら、今日の出来事を振り返ってみた。



海人とのキス。

あれは本当にハプニング続きだった。

正直、海人にはすごく申し訳ないと思っている。

僕が知る限り、海人も特定の彼女を今まで作っていないはずだ。

もしかしたら、海人にとっても、多分ファーストキスだったのかもしれない。


今日、後でもう一度ちゃんと謝っておかなきゃ……。



次に生徒会での兄さんの勧誘。

……うん、これはもうどうでもいいな。


それにしても、早瀬さん。

あの人、本当に綺麗だったなぁ。

兄さんが尻に敷かれていた事も驚きだ。

何か、兄さんの弱みでも握っているのかな?


……今度、聞いてみよう。



「ん……」


ちょうど、一日の振り返りに区切りがついた所で、兄さんが目を開け、僕の肩から頭を起こす。


「け……い?」


「あ、起きた? 兄さん、もう御飯できているよ」


「ん……あ、あ」


まだ完全に眠気から覚めていないのか、兄さんは目を擦って返事をする。


「ほら、早くしないとせっかくのハンバーグも冷めちゃうよ」


兄さんの腕を掴んで、一緒に立ち上がる。


「ハンバーグ……?」


立ち上がった後、兄さんはテーブルの方を向く。

テーブルの上に置かれたハンバーグを見て、眠そうな目が一気に覚醒したかのように、大きく開けていく。




「ハンバーグ、キタァァアアアアアアアーッ!!」




いきなり大声で叫びだした事に反応が遅れて、僕は耳を塞げずにその大ボリュームの叫びをすぐ隣で聞いてしまった。


「ッ〜〜〜〜!」


耳の中でキーン、と遠くで鳴ったような音が何度も聞こえる。


「ふっはっはっはっは! 壮士、完全復活!」


「に、兄さん! き、近所迷惑だって何度言ったらわかるんですか!」


「ああ、蛍! すまん、すまん! でも、少し寝たらすっきりしたぞ」


先ほどまで、大人しく寝ていたのに今は打って変わって、豪快な笑い声でリビングを響かせている。

ああ……、なんだか急に頭痛が……。


「はぁ〜……」


溜息をつきながら、先にテーブルへと移動する。

席に着くと、後に続いて兄さんも椅子に座る。


「いただきまーす!」


「……いただきます」


ボソッと呟くように言う僕とは対照的に、元気有り余るくらいの声で言う兄さん。

ああ、急に兄さんの事がうっとおしく思えてきた……。


「……さっきまで、あんなにテンションが低かったのに……馬鹿兄さん」


聞こえないようにボソボソと愚痴を垂らす。


「ん、何か言ったか? 蛍」


「別に何も言っていませんよ、はぁ〜」


再び、溜息をついた後、ナイフとフォークを持ち、ハンバーグを口に入れていく。

美味しい、美味しいんだけど……。

少し冷えて温くなったからか、味の美味しさが軽減しているような気がする。


「……冷えたから、あんまりだね」


「そうか? 俺は美味しいと思うけどな!」


「僕はもっと早くに起きて、出来立てのハンバーグを食べて欲しかったです」


「ごめん、ごめん! ……でもさ、蛍」


「……何ですか?」


兄さんが手の動きを止める。

そして、笑いながらだが、どこか真剣な眼差しで僕を見る。


「ハンバーグってさ。こう……なんというか、熱すぎると口が火傷しそうでさ。逆に冷たすぎると、美味しくなくなる。それは人で例えても同じでさ。熱すぎる奴は人気を帯びるけど、冷たそうな人はやっぱり係わりにくいだろ?」


「まぁ、……それはそうですけど」


「だから、俺はその間である“温い”がいいと思うんだ。熱すぎず、冷たすぎず……ちょうど良い温かさで満たす……ってな!」


「ぁ……」


意外な言葉に僕は唖然としてしまう。



熱すぎず、冷たすぎず……、自分は『温い』がいい。



何故だろう……?

そう言った兄さんの言葉に何故だか、心が温かくなるのを感じた。


「ん? 蛍、どうした?」


「な、なんでもないです! ただ、兄さんがあまりにも真面目な事を言ったので……」


「そうか? 俺は常に真面目だが?」


ニコッ、と笑いかける兄さんに僕は動揺してしまう。

「ま、まさか……!!」と言って、驚愕の顔を浮かべ、兄さんが顔を近づけてくる。





「蛍よ、兄さんに惚れたか!?」





「違いますよ、そんな事ありあえませんから」


「ぐはっ! 即答とは……っ! さ、さすがだ……マイシスター、もといフラグ・クラッシャー、蛍」


「勝手に変な称号をつけないでください! というかまず、フラグ・クラッシャーって何ですか?」


「だが、だがな!! 俺にはまだ最終兵器があるのだ!!」


「……そこ、スルーですか。それに最終兵器って……、なんだか怪しげで嫌な感じがするから使わないでください」


「今こそ、最終兵器の出番だ!!」


「ああ、僕の言うことは完全に無視なんですね。はぁ〜」


嘆息をつきながら、ハンバーグを口に入れる。



……なんとも、温い。



絶対に出来立てのハンバーグの方が美味しいと思うのに……。

だが、兄さんの言葉では、きっとこの温さがいいのだろう。

さっきの言葉が頭に過る。




――熱すぎず、冷たすぎず……ちょうど良い温かさで満たす……――





「ねぇ、兄さん」


「おっ! なんだ!! ま、まさか……! 俺の最終兵器を受けてくれるのか!?」


「……違いますよ」


「ん? なら、なんだ?」と疑問を表情に浮かばせる兄さん。


僕はこれを言おうか迷いながらも、ゆっくりと口を開けた。


「ハンバーグ……だけどさ」


「ん? ああ! ハンバーグがどうかしたのか?」


「ちょうど良い“温かさ”……だね」


僕の言葉に兄さんは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔を見せた。



「……だろ!」


「まぁ……ちょっとだけね」


兄さんは、うんうんと頷きながら、手の動きを再開して、ハンバーグを口に運んでいく。


「やっぱ、蛍の料理、美味いよ」


「ん、……ありがと」


すごく美味しそうに食べている兄さんを見て、満足する。

僕もナイフとフォークを動かして、ハンバーグを食べていった。


それからその後、お互い会話もなく黙々とハンバーグ食べていったが、どこか温かい雰囲気につつまれているような……そんな感じがした。



















「ふぅ〜」


つい、気の抜けた息を吐いてしまう。

それにつられてか、ピタッ、と蛇口の先から雫が床に落ちた。

浴槽から出る蒸気を眺めながら、僕は笑みを浮かべた。


「気持ちいい〜!」


タオルを体に巻いたまま、浴槽にゆっくりと肩まで浸かる。

やっぱり気持ちがいい。

この時間で一日の疲れがとれると言っても、過言ではない。


「はぅ〜……、いい湯加減」


両手でお湯をすくい、それを顔にかける。

パシャパシャッ、と水が弾く音が浴室を満たす。

お風呂に入っている時が一番幸せだ。



だって、この時間帯のみ、兄さんに何もされないんだよ?



あの変態妄想の兄さんの魔の手から、一時でも逃げられると思うと、これ程幸せな事はありません。

いや、本当に。

それくらい、僕にとってはお風呂の時間は重要なのだ。


「はぅ〜……もう、最高だよ〜」


両手を頬に当てて、嬉しい声を上げて喜ぶ。

ああ、この時間が一生続けばいいのに。


でも、さすがに一生だと上せてしまうよね……。



「惜しいな〜……はぁ〜」


天井を眺めながら、浮かばれない溜め息をつく。




……その時だった。





「――お風呂、お風呂……っと」






溜め息を吐き終えたと同時に、浴室のドアの向こう越しで兄さんの声が聞こえてきた。


「……は?」


つい、声を上げてしまう。

なんだか、とてつもなく嫌な予感がする。

モザイクミラーで飾られた浴室の扉を見つめる。

そこには、服を脱いでいる兄さんの姿がぼやけて映っていた。


「ちょ、待っ――!」


その言葉の続きを口に出す前に、ガランッ、とドアの開く音がする。

同時にドアの先から、腰にタオル一枚巻いただけの兄さんが……。


「あ、あれ? 蛍、入っていたのか!?」


少しびっくりしたような声色で僕へと話しかける。

僕は体に巻いていたタオルを手で押さえながら、兄さんを軽く睨む。


「に、兄さん……」


「あ、あははは……! いや、その……とりあえず、すまん!」


僕の睨んだ視線を逸らしながら、兄さんは頭を掻きながら謝罪した。

兄さんも故意でやったわけではないのか、顔を真っ赤にさせて同様していた。

そんな兄さんの顔を見ていると、なんだか怒る気も失せてしまう。


――あれ……?


兄さんの目をよく見てみると、視線がある一点に集中している。

僕はその視線を辿っていき、そして兄さんがどこを見ているのかを分かり、思わず赤面してしまった。


「に、兄さんっ!」


「な、なんだ? 蛍」


「……さ、さっきから……僕の胸ばかり、その……見すぎです!」


「あ……っ、いや、すまんっ!」


「っ……も、もうっ! しっかりしてくださいよ! 兄弟なんですからね、僕達は!」


「あ、ああ……っ」


「とりあえず、出て行ってもらえますか?」


「そ、そうだなっ! ごめんな!」


兄さんはそう言って、浴槽から出ようとドアへ手を掛ける。


「……あれ?」


兄さんが呆気のない声を上げる。

何度もドアを引いたり、押したりしているが、ドアが開く気配はない。

兄さんの顔つきが険しく変わっていく。


「どうか……したんですか?」


僕がそう聞くと、兄さんが額に冷や汗を垂らしながら、笑い顔を見せる。


「ドアがな、……開かないんだ!」


「……へ?」


「いや、だからさ……。ドアが――!」


「に、二回も同じ事を言わないでください。それよりも、ドアが開かないってどういう事ですか!」


僕の苛立った声が浴室を響かせる。

兄さんは何かを思いついたのか、手を打つ。

額から出る汗の量が、更に増している中、兄さんが口を開く。


「あー……。 多分、俺が浴室に入る前に出した体重計が遮っているのかもしれない……かも」


「……ああ、やっぱり。兄さんのせいなんですね」


「そ、そうなる……よな! あ、あははは……はは……」


げんなりした顔を浮かべて、僕は兄さんを睨んだ。

たじろぎながらも、兄さんは笑顔を崩さず、なんとか保っている。


「あははっ、すまん!」


すまん、じゃありませんよ。

はぁ〜……。

まぁ、幸いにも海人が、保健室の件についての話で九時に家に来てくれるから、それまで二人で待っていれば助かるのだが。


……あれ? ……二人で……?


「……っ!」


思わず舌を噛んだような声を上げてしまう。


「ん、舌でも切ったのか? 大丈夫か? 蛍」


兄さんが心配そうに伺うが、そんな事を気にしている場合ではなかった。


海人が家に来るのは九時。

僕が入る前の時間が八時だとして、それから十分くらい経ったとして、後五十分。

その五十分間、兄さんと二人きりでこの狭い浴室の中を一緒にいなければならない。

お互い、体にタオル一枚巻いた程度。

さすがに兄弟だと、変な事にはならないとは思うのだが……。



でも、これは……もしかしたら、すごく不味い状況じゃないのだろうか?




久しぶりの更新となります。。。

読者の皆様。

長々、待たせてすみませんでしたw!


この「僕、女になりました」はモバゲーでも連載しております。

そちらの方では、多少改良しておりますので、モバゲーをしている方はそちらも目を通して頂けると嬉しいです^^


次回の更新は少し遅くなるかもしれません。

ほんと、すみません……orz


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