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第6話 会長、副会長、僕


さて、この6話で俺も蛍にキスするぞ!


作者様も読者様も、きっとそのような展開を望んでいるはずだ!!


うぉっしゃぁああああああああー!!!


やる気が出てきたぁあああーっ!!!



「兄さん。何を思っているかはわかりませんが、この6話には甘いラブシーンは含まれていませんよ?」



「な、なにぃいいいいいいいー!?」



「……本当です♪」



「……ぐはっ!」



「そんな吐血のふりをしなくても……。まぁ、兄さん。残念でした♪」



「ふ…ふ……は…っ」



「……へ? 兄さん?」



「ふ……ふふふっ! あっはっはっはっは! 蛍よ。いつか、いつかお前の唇に熱い口付けを交わしてやるからなぁああああああああーッ!!!」



「……はぁ〜(やっぱり、いくら話が進んでも成長しない人だな、兄さんは)」



キーンコーン・カーンコーン……――




授業のチャイムが鳴り、生徒達は席についていく。

六時間目は現代文だ。

僕は鞄から教科書を出して、机に置いた。

さりげなく、後ろを見てみる。


「……」


後ろの席に座っていた海斗が、無言で僕を見つめていた。

だが、僕と目があうとすぐに窓側に顔を逸らす。


「……はぁ〜」


さっきから、ずっとこの調子だ。

……非常に辛い。

やっぱり、あの保健室での事を気にしているのだろうか?

なんだか、すごく気まずいんだけど……。

僕の方まで、変に意識してしまう。


先生の合図で授業開始の礼を終えた後も、海斗はずっと僕の方を見ていた。

その様子は、僕の席の前にある掲示板に掛けられた鏡から、はっきりと映っている。


「はい。では、次の所を伊藤さん。読んで」


「あっ、はい」


先生に本読みを当てられたので、席を立つ。

そして、指定した場所を読み始めた。



「……春の新緑は素晴らしい。未明、ふと目覚めると、窓が青々と染まっている。鳥達のさえずりが……」



本を読みながら、さっきの保健室の事を思い返す。

あまりにも衝撃的な出来事だったので、鮮やかに記憶に残っていた。



……海斗の体、すごく大きく感じた。



前までは僕とそんなに変わらなかったのに、今ではすごく大きく感じてしまう。



それに、あの時に重ねた唇の感触……。





って、駄目だ、駄目だっ!





なんて、アブノーマルな事を想像しているんだ、僕は!


い、今の事は早く忘れなきゃ……っ!



「はい、そこまで。ありがとう、伊藤さん」



先生に止められて、僕は席に座る。

はぁ〜……、なんだかなぁ〜。

僕の方まで、気が参りそうになってしまう。

今日は海斗と一緒に下校しない方がよさそうだ。

とりあえず、距離を置かなきゃ……。


「はぁ……」


かったるい嘆息を終えた後、窓から見える大空を見た。

快晴。輝かしいくらいに晴れていて、眩しい。

こんな良い天気なのに。

本当に……やれやれだ。



神様の……馬鹿。












放課後、僕は兄さんに呼ばれて生徒会室へと向かった。



何か話す事があるって言っていたけど……。


……話って何だろう?


兄さんの事だから、ろくな事じゃないだろう。

まぁ、海斗と顔を合わせずにすむので助かったといえばそうなのだが……。



生徒会室の前に立ち、ドアを軽くノックする。

数回ノックした後、女性の声が聞こえた。


「どうぞ。入りください」


「あっ、はい」


僕は優しそうな女性の声に誘われて、ドアを開けた。

少し軋んだ音をたてながら、ドアを抜ける。

生徒会室には、長机が縦横に二つずつ並べられている。

それぞれの役員の席だろう、椅子の数は九席あった。

隅っこには、過去の学校のファイルが本棚にびっしり収まっていた。

その隣には、幾つもの優勝トロフィーが飾られている。

長机の一番奥の椅子に座っていた兄さんが、僕を待ちわびていたかのように喜んでこちらを見ていた。

隣には、さっきの声の主であろう女性が立っている。


「やっときたか、蛍!」


椅子から立ち上がった兄さんがこちらへと向かってきた。


「……兄さん、何をするつもりですか?」


兄さんは僕の肩を深く掴んで、顔をこちらへと近づけてくる。






「何って……。も・ち・ろ・ん! キスだ!」






はぁ〜……。

兄さんの言葉には、毎度毎度、ため息しか出ない。


ああ……。なんて、うっとおしい人なんだ。


会ってすぐに弟にキスを迫るなんて、もうアホを通り越している。



「顔を近づけないでよ、兄さん!」



僕は兄さんの頬を思いっきり、押し出す。

だが、兄さんは僕の反攻に粘り強く耐えながら、その顔を寄せてくる。


「ぐ、ぐぅぅぅぅ……む、無駄だぞ! 蛍ぃ〜!」


「や、やめてください! そんなくだらない事しませんよ!」


「ぐぅぅ……そんな事を言うな、マイ・シスター!」


「し、しつこい! あなたはそれでも実の兄ですか!」


「ぐぐぐぅ〜! 男にはなぁ! 一度、やらねばならぬ大義があるのだ!!!」


「ア、アホ兄さんっ! そんな大儀、普通の男にはないよ!」


「ふっふっふ! 俺は選ばれた男なのさ!!!」


「く、くだらない事に選ばれすぎですっ!」


「まぁ、くだらないかはさておき……だ! 蛍のファーストキスを是非、この俺に!!」


「ちょ……っ! さておかないでよ!(そ、それにファーストキスはもう奪われましたよっ!)」


「ふふふっ!! 愛があれば、後はどうとでもなるのさっ!!!」


「その笑い方、気味悪いよっ! それに兄妹の愛は結ばれませんっ!!」


と、悠長な事を言っている間も、兄さんの顔がだんだんと迫ってきている。




駄目だ! このままでは、海斗の時と同じ目に……!






「……そこまでですよ、会長」



あと数センチで唇が奪われる所を、その言葉に兄さんの動きが止まる。


……助かったの?


「えぇ〜! 早瀬君! もう少しでいいところなのに〜っ」


「会長、妹さんが嫌がっていますよ。いい加減、その辺にしといたらどうです?」


「ちぇ〜」と愚痴りながらも、兄さんはおとなしくなり、さっき座っていた席へと戻っていった。


まさか……、あの兄さんが素直に人の言う事を聞くなんて……!

今まで、一緒に時を過ごしてきたのにこんな事を見るのは初めてだ。

他人の言葉……、ましてや同い年、それ以下の年の人の言う事を聞くなんて……!



あ、ありえないっ! 本来なら、絶対にありえない!



「あの、どうかしましたか?」


僕が唖然に取られていたのを気にしたのか、女性は尋ねてきた。


「あ、いえ……。ありがとうございます」


助けてくれたお礼を言いながらも、僕は彼女をまじまじと見ていた。

和服の似合いそうな清楚正しい雰囲気を漂わしている。

見つめていると吸い込まれてしまいそうな黒い瞳に、腰まで掛かった黒い髪。

整った顔つきで凛としたその体は、大和撫子を連想させてしまう。


見とれてしまう程、綺麗な女性だった。



「自己紹介がまだでしたね。私は早瀬湊<はやせみなと>、2年よ。よろしく、伊藤さん」


「よ、よろしくお願いしますっ」


綺麗なお辞儀をされて、僕も慌ててお辞儀を返した。


「そうそう、早瀬君は生徒会の副会長だ」


兄さんが話に割って入ってくる。

なるほど、早瀬さんは生徒会の副会長だったのか。


「会長、伊藤さんに本題を……」


「ああ、そうだった。すまん、すまん!」


早瀬さんの言葉にあっさりと頷く兄さん。



……す、すごい。あの兄さんを尻に敷いている



それだけで、何だか早瀬さんを称えてしまいそうになりそうだ。

この人が我が家にいたら、僕もすごく助かるだろうな……。


「さて、本題だったな。なぁ、蛍……」


兄さんがニッコリと笑顔を見せながら、僕を見て話し出す。

こういう時の兄さんの笑顔は本当によくない事が起こりそうで、不気味そのものだ。

用心しながら、僕は聞いた。


「な、なに? 兄さん」


「……生徒会に入らないか?」


「……へっ?」


何を言い出すかと思えば、生徒会への勧誘だった。

風見学園では、生徒会の役員を決める際に現生徒会長が、優秀だと思った生徒を生徒会役員に入れる事ができるという、そういう制度が組み込まれている。

てっきり、またとんでもないお願いをされるのかと思っていたのだが……。

何だ、そんな事だったのか。


……でも、なんで僕なのだろうか?


他にいくらも、生徒会役員となる逸材がいるというのに。


「どうだ? 生徒会に入ってくれるか?」


「えっと、兄さん。ごめん、それは無理だよ。僕、バイトがあるし……」


「いや、たまに顔を出すだけでいいんだ。だから、一応籍だけでも入れてくれないか?」


「ん〜……」


顎に手を当てながら、早瀬さんを見る。

早瀬さんも、「お願いします」と顔に表していた。

ふぅ、困ったな〜……。

正直、いきなり生徒会って言われても何をすればいいのか、僕にはまったく分かりもしないのだ。

兄さんは、顔を出すだけでもいいって言っているけど、それって生徒会に属している意味は果たしてあるのだろうか?


「う〜ん……」


少し曇った声を上げて、真剣に考える。

どうしよう……。


「兄さん、他の人は誘わないの?」


「蛍じゃなきゃ、駄目なんだよ。頼む!」


兄さんが真剣な眼差しで僕に頼んでいる。

はぁ〜。ここまで言われると、断ろうにも断れない……。


「本当にたまにしか顔出せないよ? それでもいいの?」


兄さんが何度も首を上下に振る。


「……なら、仕方ないから……入る」


「蛍、ありがとぉ〜〜〜〜っ!!!」


兄さんが、また席から立ち上がり、僕の体を抱きしめる。


「に、兄さん?!」


「蛍、本当にありがと! 俺、マジ嬉しいよ!!」


「……もう」


隣では、「良かったですね、会長」と早瀬さんが笑いながら、そう言っていた。

ふぅ……。

まぁ、これだけ大喜びされたら、悪い気もしない。

それに兄さんの役にも立てた事だし、これで良かったかな。








……ムニュッ、ムニュッ






「蛍の胸、ホントにや〜らか〜いっ!」



「って……〜〜〜〜ッ!! ド、ドサクサに紛れて、胸を触るなぁあああーっ!!」



……うぅ!


や、やっぱり、前言撤回!


このアホ兄さんの役に立てて、良かったと思った自分が愚かでしたっ!




「もぉーっ! 兄さんの大アホ〜〜〜〜ッ!」




 







話が片付いた後、僕は兄さんと一緒に下校する事となった。

さっきから、カラスの鳴き声が何度も聞こえてくる。

あの話の後、兄さんのせいで無駄に時間が掛かってしまい、もう外は夕暮れに変わっていた。


「それにしても、綺麗な人だったね。あの人」


「ああ、早瀬君か!! 去年の学園祭のミスコンで一位だったからなぁ〜、彼女」


「へ、へぇ〜……そうなんだ」



ミスコンって……。


学園祭ではそんなくだらない事もしているのか。



「蛍も今年のミスコンに参加してみたら、どうだい!?」


「却下します」


即答で僕は返事を返す。

だが、兄さんは即答で返された言葉に凹むまず、それどころか僕に脅しを掛けてきた。


「生徒会に入った以上、会長特権の“会長命令”を蛍に下すから、強制だぞ!」


「そ、そんな横暴な事、聞いていませんよっ」


「ふっふっふ! 言わなかっただけだ!! ちなみに命令に従わない場合は、バイトの校則を即直すからな!」


「そんなの卑怯ですっ!」


「だったら、参加決定だなぁ〜!! 蛍のミスコンでの衣装に期待だ!! わっほぉおおおおおーっ!!」




……うぅ。


こんな事になるなら、生徒会に入るべきじゃなかった。

それに衣装なんか着ませんよ。着たくありません。

はぁ〜。










僕達は帰り道に近くのスーパーへと立ち寄った。

家の冷蔵庫に入っている材料はかなり少なく、今晩のご飯に持つかどうか怪しかったためだ。


「兄さん、今日何が食べたいですか?」


僕は兄さんに希望を聞いた。


「う〜む、そうだな〜」


隣でのんきそうな顔になって、兄さんは考え込んだ。

最近では、ほとんど僕が三食全て作っている。


というか、兄さんにそうさせられているのだ……。


兄さん曰く、「女になった蛍の作った料理は三倍旨い」らしい……。

はぁ〜。

まったく、意味がわかりません。


「ハンバーグがいいな、ハンバーグ!」


ハンバーグか。


そういえば、最近作っていなかったな〜。


「わかったよ。それじゃあ、今日はハンバーグね」




「いやっほぉおおおおおおおー!! ハンバーグだぁああああー!!」




兄さんが片腕を上に伸ばして、ガッツポーズをとってみせる。


に、兄さん……

僕まで恥ずかしいから、やめてください。

……あぅ。




「蛍のハンバーグ、ハンバーグ!!」




大はしゃぎしている兄さんは放っておいて、僕はミンチ肉をカゴに入れた。

後、他に必要なものをカゴに入れて、レジへと向かい買い終えた。





買い物を終えて、スーパーから出る頃には日は沈んでいた。


「すっかり暗くなっちゃったね」


「そうだなぁ〜!」


「ごめんね、買い物持たせちゃって」


兄さんの手にはさっきスーパーで買った食材、それが入ったビニール袋が持たれていた。


「軽いし、別に大丈夫だからな。気にするな!」


兄さんは首を振りながら、笑って言った。


「それに、まぁ兄貴だし。当然の事だよ」


本当に……、当たり前のように言ってみせる兄さんの昔の記憶が重なる。





“僕は君のお兄ちゃんなんだから。当たり前だよ”





昔、兄さんがよく口癖ていた言葉だ。


この人は、今でこそ“変態”の印象が強いので忘れていたが、本来の兄さんは人一倍優しい人だ。

自分の兄だからと言って、大げさに褒めているつもりじゃない。

昔から、本当に心優しい性格なのだ。













僕は幼い頃、近くの総合病院で入院していた。

原因は事故。海斗と路上でボール遊びをしていた時に、ボールが転がってそれを僕が取りに行って、偶然車に牽かれてしまったのだ。

持っていたボールがクッション代わりとなり、奇跡的にも大きな怪我はなかったが、念には念を医師に入院を勧められた。

入院中は本当に暇だった。

周りには知らないおじさんとおばさんだらけ。

僕と同い年の子なんて、誰一人いなかったから、本当につまらなかった。

だけど、お昼の3時になるとそんな事も思わなくなった。

兄さんがお見舞いに来て、色んなおもしろい話を聞かせてくれるからだ。

だが、どうしてこんなにも良くしてくれるのだろう?

本当はこんな話ばかりさせて、兄さんはつまらないのだろうか?

まだ少し幼かった僕はそう思いながら、兄さんに聞いてみた。


「お兄ちゃんは……どうして僕にこんなに優しくしてくれるの?」


『どうしてって言われてもなぁ〜』


「ねぇ、どうして? どうしてなの?」


『だって、放っておけないだろ? 俺は君のお兄ちゃんなんだから。当たり前だよ』


あの時、兄さんが僕に言ってくれた言葉は凄く嬉しかったのか、今でも一言一句声まで憶えている。











「あの頃の兄さんは、本当に優しかったな〜」


過去を思い返しながら、僕はボソッと呟いた。

それが兄さんの耳に聞こえていたらしく、反論してくる。


「……おいおい! あの頃だけじゃなくて、今もだろ?」


「さぁ、どうでしょうね。兄さん」


からかうような口調で兄さんに答える。

あの頃と比べたら、確かにおかしくなった部分はある。

というか、本当は直して欲しいんだけどね〜……。


まぁ、それでも、根っこの部分は全然変わっていない。



あの頃のままだ。



「ねぇ、兄さん」


「な、なんだよぉ〜」


兄さんは顔をむくれながら、そっぽを向いていた。

その姿がまた、面白おかしい。

本当に困った兄さんだ。


でも……。


「今日、兄さんの好物のハンバーグも作ってあげようか? ちょうど、材料買って置いたし」


「え、マジで!? 蛍、最高だぞぉ〜! さすが、マイ・シスター!! 愛してるぅうううう〜!」


「兄さん……別に愛してくれなくてもいいです」


「はっはっはっはっは!」


「はぁ〜、またすぐに調子に乗るんだから」


「調子に乗るのが、この壮士さんだからな!! ……それにしても、蛍の胸やわらかかったなぁ〜っ! あの時の感触がまだ、手に残っているぞ!!」


「ばっ、ばかっ! 兄さん、不潔ですよっ」


「いやぁ〜! あのマシュマロみたいな感触がまた、たまらんぞぉおおおー!」


「……あぅ。やっぱり、ハンバーグ作らないでおこうかな」


「蛍様、すみませんでした! 俺を許してください!!」


「……ぷっ、あははっ! 冗談だよ、兄さん」


「なぁ〜っ!! くそぉ〜! 図られた〜!!」


「えへへっ。兄さんのばーか」


……それでも、僕の兄さん。

僕だけの兄さんだから。

だから、どんな事をしても全て許せるんだろう。



だって、僕達は兄弟だから。





「おっ! 流れ星だ!!」




空を眺めていた兄さんがいきなりそう叫んで、僕もすぐに空を見上げる。


「あ、ホントだっ」


ギリギリだったが、星が消えかけの瞬間を捉えることができた。


「おっと、願い事をしないとな!」


兄さんが目を瞑って、何か小声で呟やき始めた。

一応、僕も願い事を祈っておいた方がいいだろう。

僕は目を瞑り、手を合わせてこう呟いた。




――これから先も僕達兄弟が仲良くできますように……――




願い終えた後、僕達はまた歩き出した。


「蛍は何を願ったんだ?」


兄さんが興味津々で聞いてくる。


「えっ……と、そういう兄さんはどうなんですか?」


「はっはっは! 俺か〜」


自分を指差して、笑いながら兄さんは答えた。

まぁ、どうせろくな事じゃないと思うんだが……。


「そうだな〜。俺は……」


その時、笑っているはずの兄さんの顔がどこか真剣な眼差しに見えてしまった。

僕を見ているわけでもなく、どこか遠くを見て言った。







「俺は、大好きな人に幸せになって欲しい……かな」







「兄……さん?」


その顔色は一瞬、切ない表情に見えてしまった。

あまりにも欲しいものが手に入りそうで、入らない。

そんな苦い表情を兄さんは浮かべていた。


だが、次に瞬きをした瞬間にはもう消えていた。


「ところでだ!! 蛍は何を願ったんだ?」


「え、あ……うん。僕はね……――」


自分が願った事を口にしながら、さっき浮かべた兄さんの表情を思い出す。



兄さんはなんであんな表情をしたのだろう。


それにさっきの兄さんの願い事。



あれじゃあ、まるで。



叶わない恋をしているように聞こえるよ……?



 

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