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〜えくすとら〜 海斗の気持ち

俺だって、まだ分からない。


だけど、なんでだ?


なんで蛍の事ばっかり、思ってしまうんだ?



「はぁ〜……」



「あれ? 海斗、どうしたの? ため息なんてついて……」



「ッ!! ……いや、気にすんな!」



「そ、そう……?(と、とりあえず、なんだか顔色が赤くなってるけど……)」



 


 

蛍の唇から、ゆっくりと離れていく。

見下ろすと、蛍の顔は真っ赤に変わっていた。

 

 

 

 

――俺達、キスをしてしまったんだよな……?

 

 

 

 

「……かい……と……」

 

唇をわなわなと震わせて、蛍が俺の顔を見つめ返した。

その声に、いつもの雰囲気が感じられない。

 

……すごく色っぽい声だ。 


赤く上気して染まった頬に少し涙ぐんだ目が、卑怯なくらい可愛く見えてしまう。

それは普段とのギャップの差が、あまりにも激しかった。

とてもじゃないが、男の子だった蛍からは、想像もできない姿だ。

 

さき程、体勢を崩した際に、蛍の着ていたシャツのボタンが何個か外れてしまい、ピンク色の下着が、シャツの間から垣間見える。

また、シャツにくっきりと付いたシワが、余計に淫らさを演出していた。

 

「ご、ごめん……!」

 

足の痛みを無視して、すぐにソファーから起き上がり、蛍に背中を向ける。

 

「その……。今、……俺達がしたのは――!」

 









「事故だよ……」

 









「え……?」

 

蛍の冷静な言葉に対して、俺は呆気のない声を出してしまう。

 

「事故だから。だから、……気にしないで」

 

淡々と言われたその言葉に、何故か胸が、チクリと痛んだ。 


……どうしてだろう。

「気にしないで」と言われて悲しんでいるのか、俺は……?

 

 

「海斗、……聞いてる?」

 

自分でもわからない複雑な感情が頭の中で入り乱れる中、蛍の顔が目前まで迫り、目がぴったりと合ってしまう。

 

「な……っ!」

 

上目遣いをして、俺を見る蛍の姿に、胸の動悸が更に激しくなっていく。

 

 

 

――なんで、俺……こんなに動揺しているんだ……っ! 蛍は、男なのに……! 男なんだぞ、蛍は……!!

 

 

 

 

「海斗……?」

 

蛍が不思議そうにして、俺の名前を呼ぶが、その呼びかけにどうしても反応する事ができない俺がいる。

 

頼むから、そんな目で見ないでくれ……と、そう言いたかったが、それを言えば蛍に確実に怪しまれてしまう。

 

キスをした直後だ。

そのせいで多分、俺は今、蛍に対して変な意識を持っているんだろう。

時間が経てば、この気持ちもすぐに冷めてくれるはずだ。

 

そうだ……。

きっと……そうに違いない……“はず”。











――キーンコーン・カーンコーン!

 

 

 









授業の終わりのチャイムが鳴る。

 

「あ、授業終わっちゃったね」

 

「あ、ああ……」

 

俺は蛍を見ながら、頷く。

まだ、意識しすぎているからだろうか。

……蛍から、視線を外す事ができない。 


これでは早くも、さっきの自信が砂の城のようにあっけなく崩れ落ちそうだ。

 

一方、蛍はいつものダルそうな表情で、保健室の先生に提出しなきゃいけない保健室の診断書を書いていた。

そして、それを書き終えると先生の机の上に置く。

 

「……それじゃあ、僕は先に行くよ」

 

「ああ……」

 

ガランと、扉が閉まるのを最後まで見届ける。

蛍は先に保健室から出て行った。

一人だけ、保健室にポツンと残っていた俺は、まだ動く事が出来なかった。

 

 

……熱い。

 

 

顔の赤らみが消えない。

蛍が出て行ってから、何故か保健室の雰囲気が急に寂しくなったような気がした。

 

手を胸の位置に重ねてみる。

バクン、バクンッ――、と心臓が脈打つように凄い速さで鼓動している。

 

この様子では、しばらく落ち着きそうにないな。

 

「くそ……、蛍は男なのに……」

 

愚痴をこぼしながら、顔を上にして天井を眺めた。 

  

 

 

 

 

―――俺。

 

 






――――――俺は……。

 

 

 

  

 







……蛍に、……惚れてしまったのかもしれない。

 

 

 

 



 

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