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第4話 兄さんの意外な弱点

第四話になりました。


もう、お馴染みになりましたか?


蛍の兄、壮士です。


いやぁ〜……、今回の話は本当にね。


蛍には意外な弱点をつかれました。


いやはや、本当に情けない。


しかし、こんな事で兄さんは負けはしないぞぉおおおおおー!!




「でもさ……あの時の兄さん、凄く可愛かったよ?」




「ぶ、ぶはっ!! け、蛍!! 何をまた!!?」




「え、だって……。なんか凄く子供っぽくて、素直に可愛いって思ったんだけど」




「ぐはぁっ!!! ちょ、ま、まて!! 蛍! お、落ち着こうじゃないか!」




「僕は落ち着いています。兄さんこそどうしたんです? また、顔真っ赤ですよ?」




「こ、これはだな!! げ、幻覚だ!! 蛍の幻覚だぞ!!!」




「はいはい、そういう事にしといてあげますよ(幻覚って……、本当に素直じゃないな、兄さんは。というか僕、初めてこのコーナーで楽しく終われたな)」




 

 

各クラスから、生徒達の盛り上がっている声が廊下にまで、響いて聞こえてくる。

 

……きっと、どこの中学校から来たのか、話し合っているのだろう。

 

僕達のクラスも色んな雑談で盛り上がっていた。

僕は、自分のクラスの扉を開けて、教室に入った。

続いて、海斗も入る。

 

 

 





突然、さっきまで、うるさい程に盛り上がっていた声がピタッと止んだ。


 











そして、教室にいた全生徒達の視線が、僕へと注がれる。

 

 

 







え……っと。

な、何……どうしたの?

 

……って、ああ。

このパターンはあれだな。

うん、嫌な予感がしてきた。

僕のこの予感は、外れるわけがない。

 

あぅ……、本当は外れて欲しいんだけど。

 

 

「うぉおおおおおー!! 美少女だっ!!」

 

「俺達はついているぞぉおおおおおー!!」

 

「……楽園だ。このクラスは理想郷だ!」

 

「……ふっ! 絶対、狙い落とす」

 

 

……はぅ。

なんで、こう男は単純なのでしょうか……、神様?

 

それに最後の「狙い落とす」って……一体、何ですか?

 

はぁ〜。

一応、僕も男だけどさ。

でも、男子生徒の皆さん。

目をギラギラさせすぎですよ。

怖いです。

嫌な鳥肌が立つので止めて欲しいくらいです。

 

女の子って、本当に辛いよ。

……あぅ。

 

 

「すごく可愛いなぁ」

 

「……あのスタイル、ものにしたいわね〜」

 

「いいな〜! あんなに美人で」

 

 

女の子まで、僕を羨む目で見てくる。

 

 

はぁ〜。

 

 

僕の予想よ。

たまには、外れてもいいじゃないのかな?

 

本当に、なんでこんな嫌な予感ばかりが当たるんですか?

 

 

 

うぅ……。

 

か、神様のばか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






始業式が無事に終わった後、僕は一人で学校から帰っていた。

 

「はぁ〜」

 

何度もため息をついてしまう。

 

 

 

 

 

 



 

あの時の教室での騒ぎは、本当にひどかった。

教室に入って、自分の席についた後、男子生徒が目の色を変えて、僕の席を囲んだのだ。

 

 

「……名前はなんて言うんですか!」

 

「ご、ご趣味はなんですか?」

 

「部活は、どこに入りますか!?」

 

 

 

 

 

 



……などなど、多彩な質問攻めを受けた。

ホント、精神的に追い詰められた気分になる。

 

「はぁ〜」

 

美少女って、すごく羨ましがられると思うけど、実際はそうでもないんですよ。

 

ため息をつきながら、のそのそと帰り道を歩いていく。

 

 

 

ふと、通路に張られていた広告が目に映る。

 

「……アルバイトか」

 

広告には、「アルバイト募集中」と、大きく書かれていた。

バイトの内容を詳しく見てみる。

 

 

……場所は、喫茶店『ARMA<アルマ>』

 

 

割と好評の良い、近所にある喫茶店だ。

募集している年齢は高校生から、と書かれていた。

 

どうやら、16歳の誕生日を迎えてなくても、高校生なら大丈夫みたいだ。



……バイトかぁ〜。 



やってみたいと思っているのだが、学校の校則で、バイトは禁止されている。

バイトしている生徒を発見次第、「停学」と厳しい校則だ。

隠れてするにしては、リスクが高すぎる。

 

 

 

 

 







「どうしたんだ? 愛しのマイシスター!」

 

 

 

 

 






いきなり、背後から僕のよく知る声が、聞こえてくる。

 

……というか、僕の事を「マイシスター」と呼ぶのは、この世界でどこを探しても、一人しかいない。

 

「……に、兄さん」

 

「はっはっは! 蛍、会いたかったぞ!」

 

「……なんで、兄さんがこんな場所にいるの? 生徒会は? 会長の仕事は?」

 

僕がそう尋ねると、兄さんが笑顔になり、答えた。

 

 

 

 

 

 





「ああ! 事前に全てやっておいたんだ! ……そう!! 全て、この日のために!!!」

 

 

 

 

 

 

 




……アホだ。

 

なんというアホだろう。

そんなつまらない理由で、事前に仕事を終わらす事ができるなら、その力をもっと違う方向に使えばいいのに……。

やっぱり、兄さんはどこかおかしい。

どこかで頭のネジが一本、外れてしまっているのかもしれないな……。


 

はぁ〜。

ホントにアホだから、呆れますよ……。

 

「でだ、マイシスター! 何を見ていたんだ?」

 

「ん……、ああ。これです、兄さん」

 

僕は広告を指差した。

指差した方向を追いかけるように、兄さんが広告に顔を向ける。

 

「バイトかぁ〜。蛍はバイトしたいのか〜!」

 

「えーと、まぁ興味はあるんだけど。でも、僕達の学校ってバイト禁止だから……まぁ、仕方ないよね」

 

「ほぅ! そんな事で困っていたのか! うむ……なら、俺が学園長に交渉してみよう」

 

「……え?」

 

兄さんが携帯電話を取り出して、どこかに電話を掛け始める。

 

ま……まさかっ!

 

 


本気で学園長と交渉するつもりなのだろうか……!?

 

 



「三年生徒会会長の伊藤ですが、学園長はいらっしゃいますか?」

 

「ちょっ、ちょっと兄さんっ!! そんな事しないでいいから!」

 

僕は兄さんの携帯電話を奪おうと手を伸ばす。

だが、兄さんに頭を押さえされて、手があと一歩届かない。

 



……うぅ、男だったら絶対に届く距離なのに!

 



「あ、学園長! すみません、いきなりお電話を掛けて。実は相談がありまして……ええ。校則にあるバイトの件に関してですけど。……はい、そうです。はい……はい!」

 

ああ……、もう勝手に話を進めちゃっているし……。

いや……でも、こればかりは流石の兄さんでも無理なのではないだろうか。

 

いくら生徒会会長と言っても、兄さんは『生徒』なのだ。








一生徒の個人的なお願いなんて、学園側が聞くわけ……――

  

 






「ええ、ありがとうございます! では、そういう事でお願いします」

 

「……へ?」

 

 




――プツン!

 

 




話が終わったのか、兄さんは携帯電話をポケットに直した。

そして、僕の頭を押さえていた手を放して、僕の方を見てきた。

 

……兄さんの顔は、とても喜んでいた。

 

うん、それはもう清々しいくらいに。

 

あれ……?

となるとなんだろう?

えーと……。

も、もしかして……。

 

「聞け、蛍!! バイト禁止を校則から取り除いてもらう事にしたぞ!! 学園長も快く許可してくれた!!」

 

「え! ほ、本当ですか?」

 

「おう!! 兄さんに不可能はないぞ!! あっはっはっはっはっはっ!!!」

 

「あ、ありがと、兄さん」

 

 

でも、どうやって……?

 

そう疑問に思い、聞こうとしたが、僕はそれを止めておいた。

 

この人は理屈が通じない人だ。……一般常識に囚われない人と言っても過言ではない。

だから、そんな愚かな質問をしても、きっと意味がないだろう。

 

ああ……。

 

実の兄なのに、謎が深まるばかりだ。

深く考えると、頭がパンクしそうになる。

まぁ、なにはともあれ……、兄さんのおかげでバイトが出来るようになったのだ。

 

 

「本当に嬉しいよ、兄さん」

 

 

兄さんに向かい、深く感謝を込めて、言う。

兄さんは「おうっ!」と笑顔で答えてくれた。

 

「……ところでだ! 蛍よ!」

 

「ん? ……兄さん、何?」

 

兄さんの笑顔な顔が、徐々にヤラシイ顔つきに変わっていく。

そして、拳をギュッと握り締めながら、兄さんは大声で叫びだした。

 

  

 

 

 







「報酬として今晩、是非一緒にお風呂に入ろうじゃないかぁあああーっ!!」

 

 

 

 

 

 





「……はぁ?」

 

僕は思わず、呆れ声を上げてしまった。

……ああ、やっぱりね。

こういう事でしたか。

兄さんが、何か交換条件を出してくるのは大体予想がついていたんだけど……。

 

 

 

 

 

なんで……、なんで……お風呂なんですか?

 

 

 

 

 

はぁ〜……。


本当に流石だな、僕よ。

悪い予想だけは見事に、百発百中で当たってくれますね。

うぅ……。

こんな予想能力、本当に入りません。

 

 

「……さて、早く帰らなきゃ」

 

「あっ、おい、蛍〜! スルーしないでくれよ〜!」

 

「……お風呂を一緒に入るとか、今の僕の姿から普通に考えて危ないです」

 

「いいじゃないか〜! なぁ、蛍〜!」

 

「嫌です。僕の身が持ちません」

 

「そんな堅い事を言わずさ〜。たまには、兄弟で一緒にお風呂を浸かろうじゃないか〜!!」

 

ああ……。

 

本当にうっとおしいな。

ホント……、昔の兄さんが恋しいよ。



「兄さん……。僕、今は女の子ですよ? 仮にも“兄弟”じゃありません。“兄妹”です。この年で兄妹が一緒にお風呂なんて、問題にも程があります! 第一、もし……万が一、一緒にお風呂に入って、それが他人に知られたらどうするんですか? 僕達、今は兄妹なのに、世間から変な目で見られますよ?」

 

「……俺は別に構わんぞ?」

 

「そ、その言葉は危険ですからっ! 早く、撤回してください」

 

「ふっ! 何をまた……!」

 

目を瞑りながら、華麗に僕を強引に抱き寄せる兄さん。

 

……いやいや、そんなにキメても、発言が危ないので無意味に終わりますよ。

いや、本当に……ね。

 

 

 





「安心しろ! 俺は、周りの目なんか、まったく気にしないから!! 我が愛しのマイシスター!!」

 





 

 

「…………」

 

……駄目だ。

この人はどうやら、既にアホの領域を踏み越えてしまっているようだ。

 

もう、溜め息すらつけない。


そんな自信たっぷりに言われましても、こっちは全然安心できません。

……逆に凄まじい寒気がたちますから、やめてください。

うぅ……、この変態な部分さえなかったら、凄く良い兄なのに。

この際、どんな手段を使ってでもいいから、僕の一般常識を分けてあげたい。

 


ああ……、神様。



何故、どうして、僕はこんな変態な兄の弟として誕生させたのですか?

欲は言いません。

ただ、普通の兄が欲しいだけです、神様。

 

……はぁ〜。

 

本当にあんまりだ。

兄弟なのに、なんで兄さんはこんな変な性格になったんだろうか……。

 

「はぁ〜……」

 

 

「……あ! なら、こうしようか!」

 

 

兄さんは、ポンッと手の平に、手を置いた。

何か良い考えが閃いたのか、満面の笑顔になる。

 

……僕にとって、その笑顔は驚異的なくらいに、不気味に感じた。











「……今晩、一緒に寝るって事に――」

 










「そっちの方が余計危ないですよっ! なんで、難易度を上げたんですか!?」

 

「ぶぅ〜! 蛍は本当にケチだなぁ〜!」

 

 

……ケチとか、そういう問題じゃありません。

 


「せっかく、バイトを出来るように頼んであげたのにさ〜」

 

「それについてはちゃんと感謝していましよ。そんなに駄々をこねないでください、兄さん」

 

それでも、「むぅ〜……」と頬を膨らまして、納得のいかないような眼差しをこちらに向ける兄さん。

 

……そんな目を向けても、駄目ですって……。

 

はぁ〜……。

 

 

「……蛍よ」

 

兄さんが、拗ねた顔をやめ、今度は野心めいた瞳で僕を見つめてくる。

 

「今度は何ですか……?」

 

ため息をつきながら、僕がそう聞くと、兄さんは何故か、威張った様子で答え始めた。

 


 


 

 

 

 




「ならば、今晩の夕食を作る際は、裸エプロンで――!!」 

 

 

 

 

 







「即答で却下させていただきます」

 

「ぐは〜っ! これさえ、駄目なのか……っ」

 

兄さんが銃で撃たれたかのように、胸を押さえて地面にしゃがみこむ。

 

……はぁ、大袈裟すぎる。

というか、アホだ、この人 。

それに裸エプロンって……。

さっきの二つより、難易度が急増して、危険じゃないですか……。

 

そんな姿をしたら、僕は確実に兄さんに襲われると、自信を持って言えますよ。

 

「兄さん。そんなところで倒れこんだら、汚いですよ?」

 

兄さんへと、手を差し伸べながら、そっと話しかける。

 

「だって、蛍が……裸エプロン……拒否したし……」

 

「……あんなお願い、誰もが同じ状況に立たされたなら、皆が全員に拒否しますよ。だから、落ち込まないでください」

 

 

 

「ああ……、裸エプロン……」

 

 

 

……駄目だ。

 

拒否された事が、相当ショックだったのか、兄さんは上の空の状態になっている。


「……蛍の裸エプロン……萌え……」

 

兄さんが聞き取りにくい音量でボソボソと呟き始める。

 

……兄さん。

拒否されたからって、現実から目を背けて、妄想に浸らないでください。

 

 

 

 



「……蛍と裸エプロン、……新婚生活……赤ちゃん……」

 



 

 

 

……ちょっと待て。

 

「蛍と裸エプロン」はまだ、良しとしよう。

しかし、「新婚生活」と「赤ちゃん」って何ですか?

何故、そんな意味不明な単語が、兄さんのお口から出てきたのですか?

 

……ああ。

 

きっと、兄さんの頭の中では、自分通りの妄想が膨らんでいるんだな……。

 

そして、その妄想の中で僕、きっと兄さんに陵辱されているんだろうな……。

 

「兄さん、いい加減に立ち上がってください……!」

 

僕は兄さんの肩を強く、揺さぶる。

しかし、なかなか立ち上がらないどころか、兄さんは蛻の殻のような目で、僕を見てきた。







「は……だか……エ……プロ……ン」

 

 

 




まるで、死にかけ寸前に最後の言葉を言い終えた人……のような、そんな掠れ声で兄さんが僕に言いかける。

 

兄さんの顔は、まさに死人のようだった。

 

「ひ、ひぃ……っ!」

 

あまりの不気味さに、僕は思わず、後ろに引き下がってしまった。

 

は、はぅ……兄さん!

 




それ、ホラーです!





ジャンルが違いますよっ!

 

 

 







「は……だか……エプ……ロ……ッ」

 

 



もう一度、裸エプロンの名を言った瞬間、兄さんはぐったりと地面に倒れこんだ。

 

ああ……。

本当にこの場面から、見た人は確実に誤解するだろうな……。

 

「に、兄さん……、現実に帰ってきてください」

 

そう言いながら、僕は兄さんに恐る恐る近づいていく。


「いいんだ……、もう……いいんだ……」

 

兄さんは、起き上がったと思いきや、地面にガックリと四つん這いになって、しゃがみこんだ。

 

未だに何かボソボソと呟いていて、それが何なのか、よく聞き取りづらい。

 

「何がいいかわかりませんが、いい加減にしてください! 周りに人が通ったら、確実に変な人と思われますよ?」

 

「……いいんだ……もう……いいんだ……」

 

「よ、よくありませんよっ! 早く起き上がってくれなきゃ……“もう二度と口を聞きませんよ”!?」

 

その最後の言葉を言った途端、兄さんの体がピクッと反応して、動きが止まった。

 


……あれ?

 

……兄さん、もしかして……。

 

 

僕は、再度確かめるために、声のトーンを少し落とし、なおかつ、感情を込めて言ってみた。

 

 

 



 

 

「……もう、一生無視です……兄さんっ!」

 

 



 

 

 

そう言い終えると、兄さんの体がまた、ピクッと反応して、動いた。

 

そして、顔を上げた瞬間、ものすごい必死な顔で叫びだした。

 

 

 

 

 

 







「そ、そそそそそ、……それだけは……っ! それだけは、駄目だぁあああーっ!!」

 

 






 

 

 



あまりの声の大きさに耳を両手で塞いでしまう。

 

はぁ〜……。

兄さん、だから……近所迷惑ですってば……。

 

「な、なら……いつもの兄さんに戻ってください」

 

僕は兄さんの側に近寄り、手を再び差し伸べた。

 

「わ、わかった……」

 

兄さんは僕の手を掴むと、地面からゆっくりと起き上がり、立った。

落とした鞄を僕が拾い上げて、それを兄さんに渡す。

 

「兄さん……はい、鞄」

 

「……あ、ああ」

 

鞄を受け取った兄さんは、やりすぎたと思ったのか、反省の顔色を見せていた。

 

 

 

「ごめん、蛍」

 

 

 

これは意外だった……。

 

捨てられた子犬のような顔を浮かべて、兄さんが、ボソッと謝罪の言葉を呟いたのだ。

 

兄さんが自分から謝る事は、珍しい。

というか、滅多にない事だ。

 

 

……ちょっと……言いすぎたかも……。

 

「反省したなら、……いいですよ」

 

クスクスと苦笑しながら、僕は兄さんの頭に手を置いた。

 

そして、そっと、優しく、頭を撫でていった。


「あっ……蛍……っ」

 

「ん、何ですか……?」

 

「あ、兄の頭を……撫でるな」

 

「どうしてです?」

 

そう聞きながら、兄さんの顔を覗いてみると、紅葉した葉っぱみたいに顔を赤くさせていた。

 

……まさか。

 

兄さん、もしかして……照れてる?

 


「ねぇ、兄さん。……顔、赤いよ?」

 

「……それは蛍の気のせいだな」

 

兄さんの返事には、いつものような余裕が、こもっていなかった。

 

……やっぱり、照れてるんだ。

 

 

 

「えへへ、兄さん」

 

 

 

僕は、少し口元を緩ませて、軽く微笑んだ。

 

 

 


兄さんの照れた顔を見るなんて、子供の頃以来だ。

ちょっと、兄さんの意外な面を見たかもしれない。

 

僕は苦笑しながら、兄さんの頭を撫でていた手を、そっと離した。

 

「これで、さっき僕が言いすぎた分はチャラ……ですよ? 兄さん」

 

「あ、……ああ」


恥ずかしかったのか、兄さんが赤くなった顔を隠して、背中を向ける。

なんだか、いつもの困った兄さんではないので、可笑しい。


いつもなら、「蛍、最高だよぉおおおーっ!」とか「蛍、愛してるぞぉおおおーっ!!」とか言うくせに……。

 

まさか、兄さんにもこんな素顔が残っていたなんてね……。

 


「兄さん、大丈夫ですか?」

 

クスッと笑いながら、僕は兄さんにあえて、聞いてみた。

 

「い、いや……なんでもないぞ! 大丈夫だっ!」

 

平然と笑顔を繕い、その笑顔を僕に向ける兄さん。

 

だけど、兄さん。

 

顔が赤いのはさすがに直せていませんよ?

 

 

「あれれ……? 兄さん、お顔が真っ赤なままですよ?」

 

僕は追い討ちをかけるように、聞いてみる。

僕のその言葉で、兄さんの笑顔が完璧に崩れ、変わりに動揺した表情を浮かばせて、更に顔を赤くした。

 

「だ、大丈夫だ! 心配ないっ」

 

兄さんは、必死に顔を隠している。

 

こんな事を言うのは、変だと思うんだけど……。

 

それは、とても普段の兄さんからでは、信じられないくらいに、可愛らしい姿だった。


「ねぇ、兄さん」

 

「な、なんだ……?」

 

照れた顔をあまり見られたくないのか、口元を手で覆い隠しながら、兄さんは僕を見る。

 

 

 

……はぁ〜。

本当に素直じゃないんだから。

 

 

 

僕は兄さんの耳元で、囁くように口を動かした。

 








「……さっきの照れた顔、凄く可愛かったよ」

 








「っ〜〜〜〜!!」

 

兄さんの顔が、更にまた真っ赤に染め上がっていく。

それはもう、これ以上真っ赤にはなれないくらいに……。

 

「ほら、兄さん。また、顔が真っ赤に変わったよ?」

 

「う、うるさい! 兄をからかうんじゃないぞ、蛍!」

 

「えへへ、いやですよ♪」

 

そんなに顔を真っ赤にして、照れられても、全然説得力ありませんよ?

まぁ、ちょっと悪ノリしすぎなのかもしれないけど。

 

でも、普段の事を考えると、これくらい別にいいよね?

 

 

 

ねっ、兄さん♪

 


どうも!

筆者の桃月です。

読者の方々。毎度毎度、『僕なり』を読んでくれて、本当にありがとうございます!

第五話はまだ出来上がってないので、出来上がり次第、更新します!


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