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第2話 脅威のランジェリー

やっと第二話になりましたね!


みなさん、元気にしてますか? 


というか、僕の事は覚えていますか?


蛍の兄の壮士です。


いやぁ〜……、本当に蛍ときたら、お風呂には一緒に入ってくれないわ、夜一緒に寝てくれないわで、最近冷たいんですよ。



「ああ……、兄さんは今日も枕を濡らしながら、一晩を過ごすんだね」



「……勝手にほざいててください(というか、いつになったらこのコーナーから解放されるんだろ、僕)」



「グスン……グスン…、け・い・ち・ゃ・んのいじわるぅ〜!」



「マ、……マジで気持ち悪いですよ、兄さん。読者がドン引きしています。……すみませんでした! それでは、気を取り直して、本編へどうぞ〜♪」


 

 

服に着替え終わった後、僕は一階へと降りて朝ご飯の用意をする。

それにしても、女の子になったからだろうか。

体のサイズが小さくなっている。

今着ているシャツがダボダボに感じるくらいだ。

 

「……動きにくい」

 

これが今の僕のサイズにあいそうな、一番小さい服だったのだが……、やっぱり無理があるようだった。

はぁ〜……、どうやら女性用の服を買わなきゃいけないようだ。

今まで貯めておいたお金を本当はこんな事に使いたくないのだが、まぁ仕方ない。

下着の方も買っておいた方がいいかもしれない。

とりあえず、今はお母さんの下着を使わせてもらっているけど替えが少ないので、このままだとすぐに尽きてしまう。


……それにお母さんには本当に申し訳ないのだが、サイズが合っていなくて体がキツい。

 

 

 

 

 


――……下着の事がもし兄さんに知られてしまったら……。


 

 

 

 

 

背筋から寒気が走った。

あのド変態な兄さんの事だ。

きっと、とんでもない事を僕にするかもしれない。

想像するだけでも鳥肌が立ってしまったので、すぐにその想像を頭からかき消す。

 

「あっ……でも、どうやって下着を買えばいいんだろ……」

 

僕自身、体は女になっても、心は当然男のままだ。

正直、女性の下着を買いに行くのは抵抗感がある。

はぁ〜、なんか僕も変態になってしまった気分だ……。

兄さんと同類は嫌だけど、……この際仕方ない。

 

このままでは、一人の獣によって僕の身が危険になるかもしれないのだから。

 

 

 

「おーい、蛍! 飯できたかぁ〜?」

 

 

兄さんが二階から降りてきて、リビングに入ってきた。

そして、台所へと入り込んで僕の隣に立つ。

 

「もう少しでできるよ」

 

「おお、そうか!」

 

「うん。……だからさ、テーブルの方で大人しく待っていてくれないかな?」

 

「え? なんで? 別に我が弟……もとい、妹の料理を見るくらい、いいじゃないかぁ〜!」

 

「なら……この手は何だろうね?」

 

兄さんの手は僕の肩に置かれていた。

その触り方ときたら、妙に気持ち悪い……。

 

「スキンシップだよ、スキンシップ! というか、胸大きくなったなー」

 

「……その言葉はセクシャルハラスメントに該当すると思いますよ?」

 

「えー? 男同士、兄弟なんだから、別にいいじゃないか」

 


……なんて矛盾しているんだ。


さっき、僕の事を妹扱いして、そこで男扱いするんですか?

……それに、そのいらやしい手つきで胸を触ろうと迫ってきているのは一体何ですか?

近親相姦ですよ、本当に変態になりますよー?

 

……いや、この人は既に変態だったか。

 


「それ以上、セクハラ行為を続けると叫びますよ? 兄さん」

 

「ええ〜! そんなぁ〜〜〜っ!」

 

「そんなぁ〜〜〜っ……じゃないですよ。それが嫌なら、今この手に持っている包丁で兄さんの手を切り落としましょうか?」

 

ニコッと笑いながら、僕は兄さんの顔へ包丁を向ける。


「え、遠慮するよ……」

 

僕の殺気を感じ取ったのか、兄さんは汗を垂らしながら、恐る恐る引き下がった。

はぁ〜……、ホントに疲れる。

兄さんの相手をするのは本当に神経を使ってしまう……。

 

「できましたよ、兄さん」

 

僕はようやく出来上がった料理をテーブルへと持っていく。

今日の朝食は、ご飯に味噌汁、それに玉子焼き。

お互いにお箸を持って、「いただきます」を言った後、料理を口に運んだ。

 

 

 

 

 

「おいしぃいいイイイイイーッ!!」

 

 

 

 

 

「そんな大袈裟な……」

 

「いや、我が妹の作ったこの玉子焼き。見事な味だ! この塩と砂糖、それにコショウの配分具合が絶妙なくらいにいい味を出している!! 俺は感動した!」

 

本当に大袈裟な言い方だ。

ただの玉子焼きなのに。

まぁ、悪い気分にはならないので、いいのだが……。

 

「ねぇ、兄さん」

 

「なんだ? 我が……愛しの嫁よ」

 

兄さんのその呼び方に即座に突っ込もうとしたが、我慢する。


「今日さ、も……もし暇だったらでいいんだよ? 買い物に付き合ってくれないかな? ……一人じゃ、心細くて」

 

 

 

 


…………………。

 

 


……………。

 

 


………。

 

 

 

 






「な、なにぃいいいイイイイイーッ!! そ、それは本当か!!?」

 

 

 

 






「え、あ、う……うん」

 


いきなりなんだ?


そんな大声で叫んで……。

明らかに近所の方々に迷惑だろう。

せっかくの休日の朝なのに……。

この人は近所迷惑という言葉を知っているのだろうか?

それに、今の止まった間隔は一体なんだったんだ?

本当に必要だったのだろうか?

 

……はぁ〜。



「け、けけけ、蛍が、俺をデートに誘ってくれるなんて……。兄さん、とってーも嬉しいぞ!!」

 

「そ、そう? ……あ、ありがと」

 

僕は兄さんの大喜びしている顔を見て、引いてしまった。

 


兄さん、弟からの買い物の誘いを受けただけで何でそんなに喜ぶの?



……なんだか、見ているこっちが哀れに思えて仕方ないよ。

それにデートじゃないし……。

まぁ、一人でランジェリーショップに入るのはさすがに恥ずかしいし、兄さんがついてきてくれるのは多少なりとも恥ずかしさが軽減されるから、僕の方は兄さんにどう思われても構わないけど……。

 

「それじゃ、10時までには行く用意をしてね、兄さん」

 

「うん! うん!!」

 

ああ、凄い笑顔だよ。この人。

どこから、こんな笑顔が出せるのだろうか。

僕にはまったくわからないよ。

本当に……謎だ。

 

「……あっ、そうそう。言い忘れたけど、海斗も一緒に買い物に来てもらうからね」

 

「…………へっ?」

 

あ、今顔がガッカリした。

……相変わらず、すぐ顔に出るよね。兄さんは。

本当にわかりやすい表情をしている。

「そ、それじゃあ、10時までに用意しておいてね!」

 

僕は食べ終わった食器を台所まで持っていって、そのままリビングを後にした。

 



「け、蛍と二人きりじゃ……なかったのね……、とほほぉ〜……」

 

 






 


 

 

 

 

 

 

自室へと戻った後、僕はどの服装で出かけるのかを考えていた。

……一応、女の子らしい服で行くほうがいいかな。

とりあえず、選びに選び抜いた服を取り出して、それを鏡で自分の体に合わせてみる。

 

「う〜ん、とりあえずこれでいいかな」

 

着る服が決まった後、僕はさっそくそれに着替え始める。

少し大きいが、外見上対して違和感がなかったので良かった。

 

よし、……上出来だ!


後はこの長い髪の毛だな。

腰まで長いとなると、うっとおしいし……髪の毛くくろうかな。

 

「さて、……どうしようか。普通に一つくくりでいいかな……」

 





 


 

「――待てぇえええエエエエーッ!!」

 

 

 

 

 




――バタンッ!

 

 

 

「……え?」

 

でかい叫び声と共にドアを打ちぬいて、兄さんが僕の部屋へと侵入してきた。

あーぁ、ドア完全に壊されてしまったよ。

……あれ、きっともう鍵が掛からないだろうな。

はぁ〜……。

これは修理代、結構するだろうな。


……お父さん、きっと嘆きそうだ。

 


「待てっ、蛍! くくるなら……!!」

 

「はぁ〜……くくるなら?」

 

また、変な言葉が飛び交いそうだったが、僕はあえて聞いてみた。

 

 

 

 





「ツインテールにするんだぁあああーッ!!!」

 

 

 

 





「……は?」

 

「だーかーら! ツインテールだ!」

 

「……はぁ〜!?」

 

また、何を言い出すかと思えば……。

ツインテールって、どこのアニメのキャラクターですか……。

そんなの今時流行っていないよ。

むしろ、この長い髪でそんな髪型にしてみたら、目立って仕方ないよ。


「なっ! なっ! ツインテール、ツインテール!!」

 

「……出て行ってもらえませんか? 兄さん」

 

「嫌だ! ツインテールにするって約束しないと、出て行かないぞ!」

 


……なんてわがままな人なんだ。


まぁ、今に始まった事じゃないのだけど。

ああ、これは素直に言うことを聞くまで、本当に出ていきそうにないな……。

なんて傍迷惑な人だろう。


うぅ……仕方ない。

 


「……はぁ〜。わかりました、……ツインテールにします。だから、早く部屋から出て行ってもらえませんか?」

 

「やっふぉおお―っ! 後でちゃんと見せるんだぞ!! 蛍、好きだぞ! 大好きだぞ! 愛しているぞぉおおおーッ!」

 



兄さん、最後のはいらないですよ。


……あ〜、やっぱり、最後の二番目からいらないです。

兄さんが部屋から出て行った後、仕方なく約束どおりのツインテールとやらにしてみる。

 

はぁ〜……正直、あんまり変な髪型にはしたくないのに……。

でも、しておかないと兄さんうるさいし……。

 

「えーと、……とりあえず、これでいいのかな?」

 

兄さんが出て行く際に渡してきたリボンを左右にくくり、ツインテールの髪型が完了する。



……ああ、本当にアニメみたいな髪型だ。



鬱だ。鬱病にかかりそうだ。

なんか女の子になってから、たったの1日で兄さんの遊び道具にされたような気がする。

 

「あ、そうだ! 海斗に連絡しなきゃ……」

 

僕は携帯電話に登録しているアドレス帳から海斗の電話番号を選択して、電話を掛けてみた。

 

 




プルルルルッ! プルルルッ! ――ブツンッ!

 

 




「あ、海斗。今日、買い物に一緒に行かない?」

 

「別にいいけどさ、お前何か買うものが……」

 

海斗がそう言いかけて、途中で言葉を止める。

 

「あ〜、服か!」

 

「そうそう! あと、下着の方も買わなきゃいけないんだ」

 

「し……下着なぁ〜……」

 

海斗が言葉を濁しながら言う。

きっと、察しがついたのだろう。


「えーと、……嫌だったら、無理しなくてもいいんだよ?」

 

「……いや、大丈夫。行くよ、俺」

 

「そ、そっか! ありがと! ホント言うとさ、兄さんと二人きりだと心配で心配で……」

 

「あははっ、だろうな!」

 

「じゃあ、10時に僕の家に来てね」

 

「10時か〜。後30分だな、わかった! それじゃ、また後で」

 

「うん、また後でね」

 

 



――プツッ!

 

 



海斗との電話を終える。

なんだか、海斗には悪い事しちゃったな……。

後でちゃんとお礼くらい言っておかないと。

 

約束の時間まで30分。

用意を終えた僕はテレビを見ながら、時間が来るのを待つことにした。

 





そして、ようやく約束の時間がきて、僕は玄関の方へと向かっていった。

玄関では既に兄さんが靴を履き終えていた。

 

「ちゃんと準備できたの? 兄さん」

 

「ああ、バッチリさ! それよりもだ……!」

 

ああ、また何かよからぬ事を言いそうな予感が……。

 

 

 

 





「そのツインテール、最高だぁあああーッ!! もう、本当に可愛いぞ!! 感動した!!!」

 

 

 

 




はぁ〜、やっぱり……。


なんで、ツインテールを褒めるのだろうか?

普通は先に「服が似合っているよ」とか言うだろう。

 

まぁ、変態に普通を求めても仕方ないか……。

 


「この髪型、なんか凄く違和感があるんだけど……」

 

「何をまた!! ツインテールこそ“美”なのだよ! それに、蛍にはその髪型がすっごーく似合っているぞ! イッツ、パーフェクト!!」

 

目の前でアホな姿を晒している兄さんに頭を痛くする。


……ああ。誰か、この変態を止めてください。

止めて下さった方には本当に何でも御礼をします。

 



あ、や……やっぱり、エッチなのだけはご勘弁を……。

 




――ピンポーン。

 

 

インターホンが鳴る。

きっと、海斗が来たのだろう。

まだ靴を履き終えていない僕は少し焦ってしまう。

 

「兄さん。先に出て、海斗と待っていて!」

 

「おう、わかった! 早くしろよ! でないと……――」

 

「いいから早く行ってください……」

 

「ちぇ〜! 冷たいな〜、蛍ちゃんは」

 

兄さんが文句を言いながら、玄関の扉を開けて先に外へ出る。

靴の紐を結び終えて、僕も扉を開けて外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗は大きな欠伸をしながら、兄さんと挨拶を交わしていた。

僕は玄関の鍵を閉めて、二人の方に駆け寄る。

 

「おはよ、海斗。……なんだか、眠そうだね」

 

「ああ、昨日は色々あって、なかなか寝ることができなかったからな〜……!」

 

海斗が僕の顔をニヤリと見て、言う。

これは僕のせいだよな……。

うぅ……、面目ないです。

 

「ご、ごめん……」

 

「あははっ、冗談だよ! 気にするな! それよりも……――」

 

海斗の目線が僕の頭の両サイドへと向けられた。

その目はまるで何か珍しいものでも見たように、瞬きをピクピクと何回もしている。

 

あぅ……。

頼むから、そんな憐れむような目で僕を見ないで。


「え、えーと……蛍、その髪型はどうした?」

 

「あ、えっと……これは……その……」

 

「海斗君。よくぞ、聞いてくれた!」

 

僕がどう返せばいいか困っていた所に兄さんが横から話に割り込んできた。 

 

……ああ、また面倒な事になりそうだよ……これ。

 


「海斗君。これはね、人類の“美”そのものであるツインテールなんだよ。わかるかい?」

 

「え、えーと……」

 

海斗が兄さんの言葉にどう返せばいいのか、困っている。

 

はぁ〜……。

兄さん、そろそろ勘弁してください。

……海斗、困っているじゃないですか。

見ているこっちが辛いです。

 

「ま、まぁ、その“美”が何なのかはわからないですけど、今の蛍の髪型は確かに似合っていますね」

 

「……は?」

 

海斗の予想外な言葉に僕は思わず、声を上げてしまった。

 

「おおーッ! 海斗君、君の目は素晴らしいくらいに輝いて見えるようだな! やっぱりそう思うだろう!! だろ!!」

 

「ええ。まぁ、確かにパッと見たところ、凄く可愛らしいですよ」


ちょ、ちょっと待て!

なんでこの二人が意気投合するんだ!?

おかしいよ! 海斗も悪乗りしすぎだよ!

 

「いやぁ〜、海斗君、君は本当にわかる男だな! もう、俺達は同志だよ!」

 

「あははっ……ど、同志ですか」

 

なんだか、頭痛がしてきた。

……というか、勝手に同志を増やさないでよ、兄さん。

海斗もそこで苦笑いするなら、初めからやめてよ。


………はぁ〜。

 


「あれ? 蛍、どうした? そんな不機嫌な顔して」

 

我がアホ丸出しの変態兄さんが僕の様子に気づいて、話しかけてくる。

……気づくのが遅いですよ、兄さん。

 

「どうしたんだよ〜、蛍ちゃ〜ん」

 

「……いや、何もないです。本当に大丈夫ですので、その呼び方はやめてください」

 

「わかったよ。マイ、シスター」

 

「はぁ〜、もういいです。……早く行きますよ」

 

私は先に市街のデパートへと向かい、歩き始めた。

後ろでは、兄さんが海斗にツインテールを語りながら、二人後をついてきていた。

 

……うぅ。

これから女性の下着と服を買いに行くというのに、もうここだけで十分疲れた気がした。

 

……はぁ〜、かったるいよ















先に服を買うために僕達は服屋へと向かった。


そして服屋に着くなり、兄さんが「蛍に似合いそうな服を必ず探してやる〜〜〜ッ!!」と言って、真っ先に店内へと入っていった。

そんなアホな兄さんを見て呆れながらも、僕は海斗と一緒に店内へ入っていった。

 

「へぇ〜……こんなに服の種類があるんだ、女の子って」

 

年頃の女の子はお洒落に気にするものだが、売り出されていた服は様々な部類に分かれていた。

向こうの奥では兄さんが僕に似合いそうな服を全力で探している。

 

 

 

しかし……。

 

 

 

本当に僕のためなのだろうか?

 

なんだか、兄さんの背中から黒とピンクのオーラが混じって出ているように見えるのだが。

気のせい……だよね?

 

「……なぁ、海斗はどんな服が僕に似合うと思う?」

 

兄さんの事は放っておいて、僕は海斗に聞いた。

 

「そうだな〜。まぁ、何を着ても似合いそうな気はするけどな」

 

「ん〜、ならこれはどう?」

 

僕は棚に置いてあったフードのついてある可愛らしい服を手にして、それを上から重ねてみた。


「お、なかなか似合うんじゃないかな」

 

「そっかぁ〜。なら、こっちはどう?」

 

今度はピンク色のシャツに黒いネクタイが巻かれていた服を上から重ねてみた。

 

「ん、それも似合っているよ」

 

またも海斗から、お褒めの言葉を貰ったが僕はしっくりとこなかった。

 

「……なぁ、海斗。本当にどっちも似合っていると思ったの?」

 

「え? 似合っていたと思うぞ?」

 

「そ、そうなのかなぁ〜……」

 

海斗のコメントは似たようなものばかりだったので、本当に僕に似合っているのか、わからなかった。

……そういえば、僕がまだ男で、一緒に服を買いに行った時も、同じ事を言っていたような気がする。

もしかして、海斗はこういう服選びに関してはセンスがないのではないだろうか? 


ためしに僕はいかにも似合わなさそうな服を手にとって、上から重ねてみる。

そして、その姿を海斗に見せる。

 

 

「じ、じゃあ、……この服はどうかな?」

 

 

僕は海斗の反応を伺いながら、聞いてみた。

これで、「似合っている」と言ったら、確実に服のセンスが悪い事になる。

 

 

 

 


「うん、似合っているぞ」

 

 

 


 

「……そ、そっか」

 

海斗はすごくさわやかな笑顔で言った。


初めてわかった事だったので、少し驚いてしまう。

だが、まさかここまでセンスが酷かったとは思ってもしなかった。

 

……う〜ん。

海斗って、女の子を傷つけてしまうタイプだな。

これじゃあ、せっかくの容姿もただの女の子泣かせになるかもしれないよ……。

 

「えっと……どうかしたか?」

 

「あ、いや。なんでもないよ! あは…はははっ」

 

「そ、そうか」

 

「なぁ、海斗。ちょっと兄さんを見ていてくれないかな? 変な事が起きないように監視して欲しいんだ」

 

「別にいいけど、服選びはどうするんだ?」

 

「そ、それについては自分でなんとか良さそうな服を選んでおくよ」

 

「……そっか。わかった」

 

海斗は納得した後、向こうで今も一生懸命に僕の服を探している兄さんの方へと向かっていった。

 

ふぅ〜。


これはなかなかの人選ミスだったのかもしれない。

まあ、呼んだのは僕自身だし、仕方ないか……。



僕は最初に選んだ二着の服と更にジーンズを一枚、赤と黒のチェックのスカートを一枚買って、服屋での買い物を終えた。

 




……え? 兄さんが選んだ服はどうしたって?





えーと、兄さんは兄さんで僕の服を買っていた。

なんだか、露出度が高そうな服ばかり買っていたけど……。

僕は毛頭着るつもりはない。


兄さんには悪いけど、お金の無駄遣いになるだろう。

 

服の買い物が終わり、僕達は本日の山場となる場所へと移動した。

 

 

 

 






ランジェリーショップ。

 

 







そう、……下着屋さんだ!

 

 

 

 







「……遂にこの時が来たか。蛍、兄さんも中についていくからな!」

 

隣で、もう気合い満々で言う兄さん。

 

……いや、もう兄さんには外で待っていて欲しいです。

というか、僕がこの人を買い物に誘った事自体が間違っていた……。

はぁ〜。

 

「悪いけど、兄さんはあっちの本屋で待っていて……ってもう入ってるしっ!」

 

僕の話を無視して、兄さんはランジェリーショップ内へと入っていった。

 

そのすぐ後にショップ内で「きゃあああー!」とか「この変態っ!」とか、様々な罵声が飛び交って、それが外にまで聞こえてきた。



……ああ、入りたくない。

 


何故、あの人はこうも身勝手に行動して、僕を悩ませるのだろうか。

こんな所で兄さんの変態に振り回されるのはいやだ……。

でもでも、今ここで下着を買わないと今後、兄さんに襲われてしまう可能性が増してしまう。

……神様、あなたは僕に素晴らしいくらい嫌な試練をお与えしてくれましたね。ホントに……。

 



「……俺も入らなきゃいけないんだよな?」

 



兄さんが罵声を言われていたのを聞いていた海斗が助けを求めているような顔で僕に聞いてきた。

体をビクビクと震わせ、まるで捨てられた子犬のような顔をしながら、僕の手を握っている。

 

いや、そんな顔で言われましても……ねー。

普通の女の子なら、一目見て助けたくもなるだろう。

 

 

 




でも残念ながら、僕は男ですので……。

 

 

 





「……ごめんね、海斗。僕一人きりじゃ、心細いんだ。……一緒についてきて欲しいんだ」

 

「だよ……な」

 

「うん、……ごめんね」

 

「いいさ……。俺も電話で“行く”って答えたしな。」

 

「海斗、ありがとぉ〜っ!」

 

「いいよいいよ。……あ、ちなみに入るのを断っても無理に連れて入るつもりだったろ?」

 

僕は満面の笑顔でこう答えた。

 

 

 

 

 


「もちろんっ!」

 

 

 




「やっぱりな……、はぁ〜」

 

海斗がいかにも嫌そうなため息をはく。

そして、僕に腕を引っ張られながら、ランジェリーショップ内へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 









その光景は僕達の予想を遥かに上回っていた。

 

「す、凄い数の量の下着だな……」

 

「そ、そうだね……」

 

白色にしましま模様や、ピンク、黒、水玉、……ああ、もう数え切れないくらい豊富な種類の下着が揃っていた。

僕と海斗は当然、目のやり場に困ってしまった。

 

「は、早くしてくれないか、蛍。俺、周りの人からすごい敵意の目で見られていて辛いんだが……」

 

今は女の子である僕の側にいても、やはり周りの女性からはランジェリーショップに男がいる事に許せないのだろう。

 

なんという……。

 

 


恐るべし、ランジェリーショップ!

 


 

「すみませーん!」

 

僕は店員を呼んだ。

すると、レジにいた店員さんがすぐに僕の方へと向かってくる。


「はい、なんでしょうか?」

 

「サ、サイズを測って欲しいんですけど、大丈夫ですか?」

 

「はい、大丈夫ですよ。では、こちらへどうぞ」

 

店員さんに案内され、僕と海斗は試着室へと向かった。

 

「海斗。すぐ終わると思うから、ここで待っていて」

 

「ああ、……なるべく早く頼むな」

 

僕は海斗をすく傍に残して、店員と一緒に試着室へと入った。

 

「では、上に着ている服を全て脱いでください」

 

「え……、あ、はい」

 

駄目だ、緊張してしまう。

なんだか、すごく恥ずかしい。

店員さんとはいえ、女性には変わりないのだ。

しかも、綺麗で年の若そうな店員さんだから、なおさら困ってしまう。

 

「どうしました?」

 

「い、いえ! なんでもありません」

 

僕は慌てながらも、女性の指示に従って服を脱いでいく。

そして、上半身を全て脱ぎ終えた後、店員さんにサイズを測ってもらった。


「ど、どうですか? ぼ……その、私のサイズはどれくらいなんでしょうか?」

 

声をガチガチに震わせながら、店員さんに話しかける。

そうでもしないかぎり、こちらの身がもたなかった。

 

「とても豊かな大きさですよ。羨ましいくらいです」

 

店員さんは僕の言葉がおかしかったのか、笑いながらそう答えてくれた。

 

はぁ〜……、やっぱり大きいんだ。僕の胸って……。

つい複雑な気持ちに浸ってしまう。

 

「はい、測り終えました。もう、服を着ても大丈夫ですよ」

 

「あ、ありがとうございます。えーとその、サイズの方は?」

 

「はい。バストの方は86です。次にウェストは……――」

 

店員さんから、サイズを聞いてそれを暗記しておく。


……うぅ、恥ずかしいな。

 


「そ、そうですかっ。すみません、どうも」

 

僕は顔を赤らめながら、店員さんにそう言った。

店員さんは笑いながら、「また何かあったら、声をかけてください」と言い残して、試着室から出て行った。


はぁ〜。

なんか、辛いな。これ……。

サイズとか聞いて……、女の子って大変なんだな……。

 


「はぁ〜、……早く、買って帰ろう……」

 

着替え終わって、試着室を出る。

 

「……か、海斗、お待たせ……」

 

「お、おう。どうしたんだ? ……顔、死んでるぞ?」

 

「うぅ……、今はそっとしておいてくれ……」

 

僕はサイズにあった下着を適当に四着選んで、それを試着せずにそのままレジへと持っていく。

 

覚悟はしていたのだが、やはり女性の下着を実際にレジに持っていって、いざ買うとなると心臓が飛び出すほど恥ずかしくなってしまう。

……お、落ち着け、僕!

店員さんに値段を言われて、僕はその値段ちょうどのお金を払う。

商品が渡されて、僕はレジからすぐに去ろうとした時に店員さんから声がかかった。

 

「お客様、レシートは要りますか?」

 

「あ、い、いりまへむっ!」

 

勢いよく言葉を噛んでしまって、僕の顔は燃え上がるように真っ赤へと変わっていく。

その様子を見ていた海斗は、今にも吹き出しそうな笑いを堪えていた。

店員さんや周りのお客さんも笑いたいのを抑えているのか、下を向いていた。

 

「ッ〜〜〜〜!!」

 

ああ、もう……。

はぁ〜、最後の最後で……なんでこんな恥ずかしい事を……。

うぅ、……もう死にたいくらいだ。

はぁ〜。

 

「か、海斗! 早く行くよッ!!」

 

僕は海斗の手を強引に引っ張って、ランジェリーショップを後にした。

 

 

 

 

 

 





 

 

 

「あははっ! あの時の蛍は最高におもしろかったぁー!」

 

「もう笑うなよ……、はぁ〜」

 

昨日に引き続き、本日もまた厄日だった。

こんな事なら、もういっそ泣きたいくらいだ。

……はぁ〜、僕の苦労は一体どこに消化されるんだろ。

 

「まぁ、でもなんとか必要な物は買えたんだし、良かったよな!」

 

「……うん」

 

「げ、元気だせよ! そんなに落ち込まなくてもいいだろ?」

 

「あまりにも恥をかきすぎた、もう駄目……うぅ」

 

「おーい………って、こりゃかなり重症だな」


もう重症ってレベルじゃないよ、ホントに……。

女になったとはいえ、店員さんには体を見せてしまったし、サイズを測る際に体を触られた……。

それに、最後は周りの人の前で言葉が噛み噛みになってしまったし……。


あ〜……、やっぱり最後の事が一番恥ずかしいよ。

 


「はぁ〜……」

 

「あっ! そう言えば、壮士さんはどこに行ったんだろ?」

 

海斗の言葉に僕はハッと我に返る。

確かにランジェリーショップで兄さんの姿は見なかった。

 

 



ま、まさか……兄さん、あのランジェリーショップのどこかに隠れていたりして……。

 




はは、……まさか、ね。

 


「さて。もう用事は済んだ事だし、この後お前暇だろ? 元気がない蛍に今日は一つ、ラーメンでもおごってやるよ」

 

「え、ホントに!?」

 

「おっ、いきなり元気になったな〜! それじゃあ、行くか」

 

海斗の後に続いて、歩き始める。

 

「ラーメンなら、あそこがいいな〜。ほら、名前なんだっけ。ん〜……こ、好……」

 

「ああ、好天か!」

 

「そう、そこそこ!」

「オッケー! ……あ、あんまし高いの頼むなよ?」

 

「えへへっ、わかってます!」

 

夕陽がかかった太陽の方角を歩きながら、海斗とまた他愛のない話をする。

 

 

 

今日の最後で、少しだけ……。

 

ほんの少しだけ、本当にこの日を楽しく過ごせるような気がした。

 

「……海斗」

 

「ん? なんだ?」

 

 

 

「ありがと……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








一方その頃、ランジェリーショップでは……。

 

「くそ、隠れたはいいものの下着が買えないとは一生の不覚!! しかし、我が最愛の妹のためにも俺はめげんぞ!!  全ては蛍の可愛い姿を見るために!! あっはっはっはっはっはっはーッ!!!」

 

「あ、見つけたわ! 変態がここにいるわよ〜!」

 

「なっ! しまった!! 全力で声を出しすぎた!!!」

 

「観念しなさい! この変態!」

 

 

――バキッ! ボキッ! ゴキッ!

 

 

「ぐ、ぐはぁ〜〜〜〜……ッ!! く……、け、蛍のためにも俺は……俺は下着を買うんだぁあああーッ!!」

 

夕陽が暮れても、変態が一人、ランジェリーショップ内の女性全てに戦いを挑んでいた。

 

 

 


……真性のアホだろ。

 


 

【キャラ紹介】

伊藤(いとう) 壮士(そうし)

18歳。風見学園生徒3年生

主人公の兄で、現生徒会の会長。

主人公を生徒会に引き入れようと企んでいる。

主人公と同じく容姿端麗で頭脳明晰なのだが、「ド」が付くほどの超変態の持ち主。

実の弟である主人公を溺愛しており、それは女になっても変わらない。(むしろ、悪化している)

ツインテール萌えの人物であり、主人公の髪型をツインテールにさせたのはこの人が原因。

女になってからは、主人公へと猛烈なアタックをかけている。(蛍曰く、見境がなくなった獣)

主人公からは「真性のアホ」、「ド変態」と呆れられているが、本人はまったく気にしていない。


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