第11話 キス、キス、ディープキス!?
はぅ……。
えっと、その……。
あまり、タイトルは気にしないでください、はい!
あ……あぅ、それにしても……。
「兄さんの性格が掴みきれません……はぁ」
さて、今朝に昔の記憶が戻ってすっかり女の子な私なのですが、やはり兄さんはそれに気づいていないために突然の態度の変わりようにも戸惑いを隠せない訳で……。
「ねぇ、兄さん。どうして、そんなつまらなそうな顔するの? ほら、もっと笑ってよ。せっかく、遊園地に遊びに誘っているのに……」
遊園地行きの電車の中で、私の隣に腰を掛ける兄さんに文句を垂れるように言う。
兄さんは相変わらずの困っているような表情で、私に視線を合わせてくれなかった。
運が良いのか悪いのか、偶然にも今乗っている電車はすごく人が空いていて、私達二人がいる電車の車内では、私と兄さんを除くと誰一人いない。
言わば、私達の貸し切り状態となっていた。
「……蛍。やっぱり、今日変だぞ、お前」
先程から、兄さんはずっとこの調子なのだ。
私の事が気に掛かるのか、それとも疑っているのか。
まぁ、どっちでもいい。
とにかく、兄さんの勘が今日はやけに冴え過ぎている。
危険だ、これは危険なのだ。
さっきから、心が何かの危険信号を訴えているかのように、ドクンッ、ドクンッ、といつもよりも早く鼓動している。
「いつも変態な兄さんの口から、よもやそんな言葉が出るとは思いませんでしたよ」
冷静に見せて対処するも、兄さんがそれでも疑いを探っていく。
「むぅ……。つか、蛍。なんか雰囲気変わってないか?」
「何をまた……気のせいだよ、兄さん。“僕”は常に毒舌でなおかつ腹黒い蛍さんだよ?」
ニッコリと兄さんに微笑み、兄さんはたじろぐ様子を私に見せる。
とりあえず、これで気をそらしたかな?
あ、そうそう。
女の子の記憶を取り戻したとは言え、私は兄さんの前では『僕』を使っている。
先程も言ったが、それはまだ兄さんに記憶が戻った事を知られたくないからだ。
今日中にはこの事は私の口から伝えるつもりなのだが、それでもまだ今は早い。
早いのだ。
この名残惜しい時間を楽しみたい。
いや、私は兄さんと新しい関係になりたいのかもしれないが、まだ心の何処かでは多分兄さんの『弟』でいたいのかもしれない。
……もう少しだけ、夢を見続けたいんだ。
「それにしても、電車の中でボーっと座っているだけだと眠くなるよな……」
兄さんが眠たそうな顔で、欠伸を漏らしてしまう。
目の下にはうっすらと隈が出ていて、目尻には微量だが涙が溜まっていた。
「昨日、やっぱり寝る事ができなかった?」
やっぱり、あのお風呂の件を気にしているのだろうか?
だが、私の質問に兄さんは首を横に振った。
「いや、寝たよ?」
作り笑顔で答える兄さんにため息をつく。
……明らかに嘘だ。
「兄さん。ほら、自分の顔を見て」
私は膝の上に乗せていた鞄から、折り畳み式の手鏡を持って、兄さんの顔を映す。
「え−と……、気にするな! 隈が出来たってなんてことはない」
「…………やせ我慢」
「が、我慢なんかしてないからな!」
聞こえないようにいったつもりが聞こえていたらしくて、兄さんが私に口論する。
「我慢しているでしょ? というか、本当はあんまり寝てないでしょ?」
「う……っ、寝たぞ…………2時間くらい」
語尾の部分をボソッと呟く兄さんに、呆れてしまう。
「ほら、やっぱりあんまり寝てないじゃない」
「いやまぁ、人間は二時間でも十分の睡眠は――」
「取れませんから」
「…………」
むくれたようにして、兄さんがそっぽを向く。
私と一緒で、兄さんの仕草もかなり変わった。
いや、多分これが兄さんの本来の姿なのだろうか?
私は思わず、クスクスと笑い声を漏らしてしまった。
「む……っ、何だよ。何か可笑しい所でもあったのか?」
兄さんが拗ねた口調で言う。
しかし、それは私にとってはまったくの逆効果。
その拗ねた姿が、またなんとも可愛らしいというか……。
余計に私を笑わせてしまいますよ。
「ふふ、ねぇ、兄さん」
「……なんだよ?」
すっかりご機嫌が斜めになってしまった兄さんに私は失笑しながら、話しかける。
「兄さん、今の方がなんだか生き生きとしているよ? やっぱり、今までが無理があったのかもね。うん、本来の兄さんは恥ずかしがり屋……と」
「う……っ、そんな事はないぞ。というか、恥ずかしがり屋でもない!」
兄さんが否定しながら突っ込んでくる。
やっぱり、立場が逆転したなぁ……うん。
なんだか、兄さんが前までの私みたいに見えて仕方ない。
……ご愁傷様です。
「なら、証明できる?」
挑発するような私の言葉に兄さんは、「証明って……何を?」と言い返してくる。
「ふぅ……」
一息ついて、間を置くと僕は続きを話した。
「……キス」
「…………え?」
拍子抜けた声で、兄さんが目を丸く驚いた顔つきで私を見る。
「だから……キス、だよ?」
「…………」
もう一度言った瞬間、兄さんが真剣な表情で黙り込んでしまう。
いや、私はからかうつもりで言ったんだけど、……マズイ。
もしかしたら兄さん、今の言葉を真に受けたかもしれない。
真剣な表情がそれを語っているように見える。
気まずい空気になってしまい、視線を逸らすために車両の窓を見てみると、外では電車が今まさにトンネルに入ろうとしていた。
ここのトンネルは結構長くて、電車が完全に抜けるのにも十五分くらいはかかってしまう。
トンネルを抜ければ、目的地である遊園地が見えてくるだろう。
……そろそろ兄さんに言った冗談を解いてやらないと。
さすがに、遊びに行くというのにぎこちない雰囲気のままじゃ、せっかくのデートも楽しくならない。
それにこのままじゃ、お風呂の二の舞になる。
早くこれが冗談だという事を言わなきゃ……。
「えーとね、兄さん。実は――」
続きを言おうとした瞬間、トンネルに入る。
「―――――――」
トンネル内に電車が突入した瞬間、ザーッとした音が車内に響き、私の声がかき消された。
なんて、間の悪いタイミングなのだろうか。
本当に自分の運の悪さにも嫌気がさしてきたよ、あぅ。
思わず、ぐったりとしてしまう。
電車にはまだ昼ごろなので、明かりがつけられておらず、車内は真っ暗になってしまう。
私は頭を窓につかせて、ため息をついた。
「はぁ〜……」
どうやら、自分のため息だけは聞こえるらしい。
なんとまぁ、不平な事だ。
嫌になって、私はもう一度ため息をつこうとする。
その刹那、いきなり顎をぐいっと掴まれて、引っ張られた。
兄さんの手だ。
何かが、唇に重ねられる。
次第に温かな感触広がっていく。
……柔らかい。
私の唇と重なったその柔らかなものが一体何なのか、すぐにわかってしまった。
だって、前に一度経験していたから。
あの保健室で海斗と誤ってキスした経験を。
「ん……んぅ……っ!」
嬌声が漏れてしまう。
すごく柔らかな感触が私の唇を包んだ。
次第に、ちゅっ、ちゅっ、と吸い上げるようにエスカレートしていく。
卑猥な音が互いの唇から発生する。
気持ち良い……のかはわからないが、だがなんだか無理やりされている感だよ、これ。
海斗の時は触れた感じのキスなのに……これは何か違う。
あぅ、これ、すごくいやらしいキスだ……っ!
「んっ!? んん……っ!」
さすがにこれはやりすぎだろうと思い、兄さんの唇から離れようと、手で押しのけるが、腕をぎっしりと掴まれる。
兄さんの力は私よりも上で、逃げる事ができなかった。
「んーっ! んぅ……ん……っ……!」
更にエスカレートしていくキスに私は成す術もないまま、怖いと思いつつも……それでも受け入れてしまう。
「ぷはっ……はぁ、はぁ……。兄さん、どうして……っ」
ようやく、解放されて、キスをしていた相手が誰なのか確信していた私は、息を乱しながら言う。
「蛍……」
兄さんが色っぽさを含んだ声で私の耳元に返事する。
「キスして欲しかったのは……お前だろ? それに、今日の蛍……すごく可愛すぎるから」
「兄……さん……」
この状況で、可愛いと言われて喜ぶべきなのだろうか、戸惑ってしまう。
「香水つけているだろ? 蛍の身体からすごく良い香りがする」
「ん……ひゃうっ」
兄さんは辺りが真っ暗なのをいいことに、私の首筋に息を吹きかけたり、舌でなぞったりしてくる。
なんともくすぐったい感触につい、ゾクッとしてしまった。
「僕達は兄弟だよ……こんなの、駄目だよ」
いくら車内に人がいないとは言え、度が過ぎている。
私は『兄弟』という肩書きを使って、言い返そうと試みた。
兄さんはその事を知っていて、なおかつ私がその事を今も知らないと思っているだろう。
そこをついて、最大限に活用した。
これで……、今の兄さんなら止めてくれる……はず。
だから、これ以上は――もう!
「残念だけど……蛍、お前――――もう知っているんだろ? “お前が元から女の子だった事”や“俺達が兄妹として血が繋がっていない事”も」
「な――――ッ!?」
兄さんが言ったその言葉に、背筋が凍った。
え……嘘、……バレたの?
でも、ちゃんと日記はひきだしに戻したはずだし、それに鍵だって元通りにもどしたはずなのに……。
それなのに、どうして!
私の疑問を解くように、兄さんが口を開く。
「お前、俺が気づいていないとでも思っていたのかよ。……あの机のひきだしを開けたら、仕掛けたシャープペンシルの芯が折れるように仕向けていたんだよ。まぁ、あくまで保険としてだし、まさか、蛍があの日記を読むとは思わなかったぞ」
どこの世界の秀才ですか、あなたは!
すごく無駄な才能に満ち溢れているよ! それ、ある意味すごいよ!
そう突っ込んでやりたかったが、今はそんな状況ではない。
早くも私の予定が、計画が崩されたのだ。
いや、そもそもこんな事は想定していない。
それに、いつの間にかだんだんと兄さんのペースに私が乗せられている。
はぅ、なんだか立場がまた逆転して、元の立場に戻りそうな雰囲気が出ているのは気のせいでしょうか、神様?
「あとちなみにだが、照れたり拗ねたりしたのは、お前が本当に見たのか試すためにふっかけてやったんだ。それに見事にお前はかかってくれたという事だな」
「それじゃあ……あれって、全部……」
「ああ、演技だぞ」
……今、殺意沸きました。
女の子の意識を取り戻しても、殺意が沸きましたよ。
つまり、あの朝の全てが演技だったという事になる。
私は見事に兄さんに踊らされていたわけか。
ああ、くそ、……なんで私はこんな人を好きなのでしょうか。
うぅ……アホ兄さんめ。
「でも、演技って言っても、実際に俺も照れたり拗ねたりしたのは、本当だから。まぁ……なんだ。演技であって、演技でないみたいな?」
「……兄さん」
「それにほら、蛍が過去を思い出してくれたのは……俺にとっては嬉しい誤算だったんだ。う〜ん……なんというか、これから俺のヤりたい放題?」
「なんか字が違うよ、兄さん! それ、危ないよっ!」
さすがに突っ込んではいられずにはいられなかった。
というか、ヤりたい放題って……あぅ。
その光景を想像してしまい、顔が熱くなる。
想像した自分が馬鹿でした、はい。
「とりあえず、風呂場での事は……ごめんな。記憶戻ったから今なら蛍もわかると思うけど、俺は……蛍を守ってあげる事が出来なかった。……ただ、見ているだけしか出来なかったんだ。俺は……卑怯な人間だ」
「……兄さん」
いきなりそんな謝罪を言われても、私が困ってしまう。
暗闇の中で顔は見えないけど、きっと辛い顔でいるのだろう。
「俺は、蛍の親父から蛍を守ってあげることができなくて……。それに負担が掛かりすぎた蛍の看病をする事だけしか、俺には出来なかったんだ。……ごめん」
「…………」
兄さんにどう返事を返せばいいのか、わからない。
多分、これを言葉だけで許したとしても、兄さんは引きずってしまう。
それは、日記の内容の重さから見て、……わかってしまったから。
でも、私の過去の傷で縛ってしまうのは、嫌だ。
兄さんを縛って手に入れても私は嬉しくないし、それをすれば、私が兄さんの心を逆に傷つけてしまう。
やっぱり、兄さんは優しいけど、……優しすぎる、ズルイよ。
だって、私に暇を与えてくれないもの。
本当にズルイ人だよ。
でも、だから私はきっとこの人の優しさに幼い頃から惹かれてしまった。
記憶を取り戻した時、その事を忘れずにこんなに愛しく思えた。
この気持ちに嘘はないんだ。
だから……もう、伝えてもいいよね?
「兄さんは……いつも“私”を助けてくれたじゃない。だから、私は兄さんをまた好きになった。」
結局、私から想いを伝える事になってしまった。
でも、想いを止める事ができなかったから。
「忘れていても、この気持ちだけは小さい頃から引き継いだままで、だから消えなかった。……好きです、兄さん。お兄ちゃんとしてではなく、一人の男として、私は伊藤壮士が好きです」
兄さんからの返事を待つ。
少し怖い。
でも、どんな返事でも後悔はしないと思う。
と言いつつ、えへへ、やっぱり……怖いかも。
「蛍……」
兄さんが私の名前を呼ぶ。
それに身体がビクッと反応して、強張る。
「……俺……は」
「……っ……」
ボソッと呟く兄さんの言葉に期待をこめる。
そして、紡がれる言葉は優しい声色で語られた。
「……俺もお前だけを見ていた。……男になっても、お前が記憶を失っていても、俺は……お前の事が諦め切れなかった。でも……」
「でも……?」
そこで言葉が区切られ、私は不安になる。
「俺で……本当いいのか? 俺、かなり嫉妬強いし、調子にのるし、それに……エロいぞ……? そんな奴でもいいのか?」
自分に自信がなかったのか、兄さんがなんだか弱音っぽい言葉を吐く。
その言葉に、当然のように私は言い返す。
「ん……、えっと、嫉妬してくれても構わないし、少し抑えてくれるなら調子にのってもいいよ。それに……えっちなのは、男の子だから仕方ないから。兄さんこそ、……私でいいの? その、私って結構面倒だと思うし、嫉妬もすごくするよ? それにわがままだし、すぐにかったるくなりし、それについ最近まで男の子で全然女の子らしくないと思うし……、他にもまだまだいっぱい良くないところを探せば出てくるよ。それでもいいの?」
「……関係ない」
きっぱりと兄さんからそう告げられる。
「俺は、面倒くさい女の子が大好きだ。嫉妬されるのも大好きだ。それにわがままな子だって可愛いと思うし、適度にかったるくなる所もギャップがいいだろ? それに……お前はすごく女の子をしているじゃないか。他にも良くないところが出てきても、それでもいいさ。俺は蛍の全部を好きになる自信があるからな」
それは、すごく嬉しい言葉で、でも本当に幸せでいいのかなって思えるくらいで。
「俺も……ずっと前から、お前だけを見ていた。好きだ、蛍」
頭を撫でられて、少しだけ涙を零して、泣いてしまった。
すごく、すごく嬉しいから。
こんなにも早く、でも時間は長かった。
それでも、兄さんと想いが伝わった。
そして、兄さんもずっと私の事を見てくれていたのだ。
「兄さん……ッ!」
兄さんの左腕にギュッとしがみつく。
……だがしかし、喜んでいるのはつかの間だった。
兄さんがとんでもない発言をする。
良い雰囲気だったのを台無しにしてしまうような、そんな言葉を。
「それじゃあ、二度目のキスを頂こうか、蛍!」
「へぁ……?」
私の口から、呆気のない声が出てしまう。
さっきまで、すごく真剣な声で告白してくれた兄さんが、ここにきてその声色に下品さが混ざったように聞こえた。
「えーと、兄さん。もう一度聞いていいですか?」
「いや、だから、ファーストキスは頂いたからさ、続きの二度目のキスだって!」
兄さんの声がいつもの、調子のいい声に戻っていた。
えーと……トンネルに入って、既に結構時間立つよね?
もうすぐでトンネルを抜けると思うし……、兄さんはまた何を大胆発言するんだろうか。
それに、兄さんには残念ながら……。
「えーと、その……私、これでキスしたら二度目じゃなくて、三度目のキスに……」
「え? 今、何を言いました、蛍さん? 兄さん気のせいなら、聞き流すよ。さぁ間違いを正しましょう。いますぐに!!」
「あぅ、……ごめんなさい」
「ぐはっ!」
私の謝罪と同時に、兄さんが吐血したような声を出す。
今、兄さんがどんな姿か大体予想がつく。
きっと、頭を俯かせて、口をあんぐりと開けているだろうな、うん。
「誰と……したんだ?」
兄さんの声のトーンが低くなる。
その声色には怒気が含まれていた。
自分がボロを言った事に早くも後悔してしまう。
「あ、いえ……その……海斗と……」
「なっ、か……海斗君……だとっ!」
「……はい……。でも、その……事故だよ? 故意でしたんじゃないから、その……気にしないで、ね?」
兄さんの怒りの雰囲気にシュンと身を縮めてしまう。
事故とは言え、私が悪い事には変わらない。
それに、お互い想いが繋がった直後でこういう話をしてしまうと……。
……許してもらえないかもしれない。
しかし、兄さんがこれまた意外な言葉を口にする。
「よし、なら……もう一度“今”キスしてくれたら、許す」
「…………へ?」
またもや、私から呆気のない声が漏れてしまう。
すごく簡易というか、兄さんは回数で優越感に浸りたいのだろうか?
むしろ、それで許してくれるという事が不思議で仕方ない。
兄さんが私の肩をがっちりと離さないに掴む。
「え、いや、それで許してくれるなら……でも、今は――」
「……だーめ」
そう言って、私の唇を塞いだ。
唇が重なる。
さっきよりも激しい、理性が溶けてしまいそうなキスだ。
兄さんが私の唇をこじ開けられて、口の中に舌を忍ばせようとする。
「ん、いや……待っ――――んぅ、ぁ……」
キスする事もまだ二回目なのに、兄さんはそんな事知ったことではない様子で続けていく。
私の舌を探って、そして淫らな音を立てて絡める。
――やだ、待って! だって、ここ電車の中なんだよ!? ディープキスなんて……っ! 駄目、駄目……っ!
思考の中ではそう思っても、でもそれを兄さんが許してはくれない。
「んぁ、ん、んぅ……ふぁ……!」
舌が絡まる際、淫らな音が聞こえた。
同時に私の口から出たとは思えないような、淫らな声が漏れていく。
さっき言ったと思うが、私達がいる車内には運良く他の乗客が誰一人いない。
そのため、いくら声が漏れても人に知られる心配はなかった。
って……そうじゃなくて!
こんな、こんな卑猥な事で私はされるままになってしまっているんだろ。
今なら、空いている手で抵抗する事ができるのに……。
……でも、もう頭がボーっとして……どうでもよくなってきた。
こんなの、卑怯だ……。
だけど、でも……兄さんのキスが気持ちいい。
こんな事、いけないと思うけど、舌が勝手に兄さんを求めてしまう。
絡めてきた舌を受け入れてしまうんだ。
「ん……、ふぁ……ぁぅ……」
こんなの、異常だ。
自分でもわかっている。
でも、頭ではわかっていても、身体がいう事を聞いてくれないのだ。
兄さんを求めている。
ずっと偽りの記憶でだまし続けてきた想いが、心が繋がった今になって溢れかえって兄さんを欲している。
私、えっちじゃないよ?
でも、兄さんは別なんだよ。
愛している人なら、女の子は何をされても嬉しいって友達が言っていたけど。
きっと、こういう事なのかな?
「ふぁ、兄さん……ん、んちゅ、……んぅ……んむっ」
「蛍、お前……意外とえっちな女の子だったんだな〜」
兄さんが唇を離して、感心するような声で言う。
「あ……。ち、違うよ! その、これは……っ」
弁解するも、余地がない。
はい、確かに私は兄さんのキスをせがまれて、されるがままで、それで気持ちよくなっていました。
あぅ、こんなの……意地悪だ……っ!
「とりあえず、これで許す。えっちな蛍を見る事が出来たから」
「あぅ……。だ、だから、それは……うぅ〜」
兄さんがクスクスと笑いながら、私の額を人差し指で小突く。
どうやら、完全に立場が元に戻ってしまったみたいだ。
それも今朝の私と兄さんの立場をそのまま入れ替えたみたいに。
私、有利な立場に立ちたかったのに……。
でもやっぱり、兄さんには勝てませんでした、うぅ。
電車はようやくトンネルを抜けて、久しぶりにみるかのような眩しい光が車内に差した。
それほど、トンネルの中にいる時間が長く感じていた。
「なぁ、蛍。」
「な、何ですか? 兄さん」
まだ、先程のキスに浮かれていた私は兄さんの笑顔を見るだけで精一杯だった。
「もう一度、キスしてくれるか? というか、これ兄さんの命令な」
「あっ、命令って……もう!」
なんだかんだ言いつつも、私は兄さんを受け入れる。
二人の影が重なる。
お互いの顔がはっきりと見える中で、本日三度目のキスを交わした。
それは一度目や二度目のような激しいキスじゃなかったけど、……でも、すごく優しいキスで心が満たされた。
「ちなみになんで隠していたんだ? 素直に俺に記憶が戻った事を教えれば良かったじゃないか」
兄さんがムスッと駄々を捏ねながら歩く。
私はその横で、兄さんの手を繋ぎながら、反論した。
「いや、そうは言ってもさ。やっぱり私は不安だったんだよ? 言ってしまったら、今の生活がきまずくなるし、そもそも私があの家にい続けてもいいのかな〜って、考えちゃって」
電車を降りてから、少し歩くと遊園地はすぐそこだった。
結局、あのキスの後に何度もキスをしてしまい、もう既に八回してしまった。
……四回目から全部、私がキスをせがんだ事は誰にも秘密です。
「お前はどうあれ、俺の家族なんだから。これからも……」
「それって、どういう意味なの? 兄さん」
口元を笑わせて、兄さんを見つめながら尋ねてみる。
その意味はもちろんわかっていた。
「……お前、それ確実に確信犯だよな? それ」
兄さんが呆れたように、ため息をついて私を見た。
どうやら、この今目の前にいる兄さんこそが、兄さんの素の本性であるらしい。
しかも、私とほぼ同じような性格のも持ち主だった。
「……確信犯? なんの事なのかな? 私は、兄さんの口から聞きたいんだけど」
「仕方ないな。……こういう事だよ」
そう言って、兄さんが頬に、ちゅっ、と軽くキスする。
「あ、ぅ……! 不意打ちは心臓に悪いからやめてください! そ、それに言葉じゃないし!」
周りに他の人がいるにも関わらず、キスしてくる兄さんに顔を真っ赤にしてしまう。
「あのカップル凄いな、周りに人関係無しにキスしちゃっているし」
「熱いね〜……羨ましい」
「お似合いのカップルだよね〜。男の方は背が高くてかっこいいし、女の方はスタイル良くて凄く可愛いし……」
周りでひそひそと話が耳に嫌って言うほど入ってくるのだが。
あぅ、皆さん聞こえていますよ。
もう少し、ボリューム下げて控えてください、うぅ……。
「だって、行動の方が蛍、嬉しいだろ? あと、顔すごく赤いぞ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら兄さんが、からかってくる。
そ、それは兄さんのせいですよ!
さっき、私と性格がほとんど似ていると言ったけど、違いました。
兄さんの方が色んな所でタチが悪いです。
それに色んな意味……ズルイよぅ。
「ふん……」
「あれ、怒った? 蛍、機嫌直せよ。俺が悪かったって」
「なら、何が悪かったか、十字以内でまとめて答えてください」
「そんな簡単な事でいいのか?」
兄さんが楽勝みたいな顔で、それでもって拍子抜けた声で私に確認してくる。
「自信があるなら、どうぞ」
「答えは……――“愛しているから”」
「なっ! こ、こんな昼ごろから愛を語らないでください!」
「……あれぇ〜? さっき、電車の中ではあれほど、『兄さん、もっとキスして〜!』ってえっちな声を出してせがんでいたのに?」
「ち、違います! 周りの人に誤解されるから、やめてよっ」
私達の様子を見て、周囲にいた人全てが笑っている。
傍から見ても、こんな会話をしていたらバカップルに見えてしまう。
……いや、訂正しよう。
完全にバカップルです、はい。
は、恥ずかしいよ……、兄さんの馬鹿!
そう思うも、当の本人は笑って楽しそうにしている。
本当に楽しそうな笑顔だ。
……残念ながら、今のこの状況では私は兄さんのその笑顔を素直に喜べません。
「兄さんのアホ」
「くっくっく! ああ、そうさ。俺はアホで変態な壮士さんだよ」
不屈な笑いを見せる兄さんに、ため息をつくも……でも。
それでも、やっぱり二人にとって変わった瞬間が今日と言う日なのだと、そう思わせるには十分な幸先だった。
「あれ? ……あれって……まさか……」
その二人から少し離れた所で、見た事のあるようなその姿に驚く少年がいた。
可愛らしい少女が兄と慕う男と手を繋ぎながら、……まるで恋人みたいに歩いている。
「“姉さん”……?」
少年がどこか懐かしそうにして、少女を見ながらそう口にする。
少年とその少女の容姿は、よく似ていた。
まるで、“その少女を男っぽくしたら、少年になる”かのように……。
そして、少年のその首に下げられているネックレスのタグには、『KEI&REN』と文字が刻まれていた。
久しぶりの更新ですw
皆さん、お久しぶりw!
長野県でゆっくりしてまいりました('A`)
いやぁ〜、やっぱり田舎って空気もいいし、景色も綺麗だから最高だよね、うん!
さて、本編の内容ですが……。
とりあえず自重しますwwwサーセンwwww
ごめん、俺ww欲望に耐え切れなかったwwwwwwwwww←おい
蛍さん、この場をお借りして謝りますw
本当にすみませんでしたwww
後、最後の方にちょこっと出てきた『彼』
物語の核……というか、まぁ、読者の皆さんも読んだら気づくと思いますが、あれは蛍の―――です。
あれ? 言葉に出ないな?←自重しろww
とにかく、次の話は遊園地で兄とのラブラブデート!
おちゃらけなギャグもほんのちょっぴり入れてみたり……w
よし、頑張って次の話も執筆しよう!
読者の皆さん、次回もお楽しみにw♪
ヾ(*゜∇^*)ノ~ see you next time !!
それと余談ですが……。
未だに蛍の一人称がたまに「僕」になっている事に作者もつい忘れがちな現状ですww
すみませぬwww
くそwwまだ「私」が慣れてねぇwwww