町のおかし屋さん
わたしはおかし屋のテッちゃんが大好きです。
学校がおわり、家に帰っておこづかいをもらったあと、わたしはいつもそのお店に走って行きます。
テッちゃんはわたしをあたたかく迎えてくれます。
他にたくさんの子供たちが来ていても、わたしを見ると「やあサッちゃん」と元気に声をかけてくれるのです。
わたしはアメやスナックよりも、おもちゃが目当てでよく行きます。
メンコやベーゴマもいいのですが、今日は刀をもとめに来ました。
なぜかというと、きのうテレビで見た時代劇に、忍者が登場したからです。その活やくする姿はたいへんかっこよく、わたしはさっそく忍者のとりこになりました。
テッちゃんのお店には、おもちゃの日本刀が売っています。
わたしは少しずつためていたおこづかいで、それを買いました。
お金をはらって受けとったとき、抱きしめながらとてもほくほくした気持ちになったのです。
これで今日からわたしも忍者の仲間入りです。買ったおまけとして刀を背負うヒモをつくってくれました。
このあとすぐに、公園に行ったわたしは、男の子にまざって時代劇ごっこをやることにしました。
もちろん忍者の役をやりたいと手をあげてせんげんしました。
けれど、わたしは足がおそいし、木のぼりもニガテなので、他の子たちみたいに活やくできません。
木のとちゅうから落ちたり、転んで土ぼこりをかぶったりして、しまいにはヒザやヒジをすりむきました。
それでもがまんして、いっしょうけんめい走りました。
でも男の子の背中は遠くなるばかりです。息が苦しくなってもう動けません。
すべり台の足にもたれて空を見上げると、あたまがクラクラしてきました。するとそこに男の子たちがぞろぞろとやってきて、とり囲まれたんです。
「サチコ。お前はダメな忍者だな。いや、忍者というよりも、ただの冷や飯食いだ」
ひとりの子がそう言ったとたん、みんながいっせいに笑いました。
わたしはどういうことか意味がわかりませんでした。
でも見下げてくる男の子たちの顔がどれもゆがんでいたので、だんだんつらくなってきたのです。
泣きたくなって顔をふせていると、変な声でいろいろと悪口をあびせられて、母さまに編んでもらったおさげを引っぱられました。
つづいてあたまから砂をかけられたり、刀で何度もぶたれました。
わたしはやられているあいだじゅう、地面にぽたぽた涙を落とすことしかできませんでした。
しばらくして男の子たちはいなくなりました。顔をあげると、遠くのほうで楽しそうにチャンバラごっこをして遊んでいます。
わたしはもうあの輪にまざりたくありません。近づくとまたひどい目にあわされるからです。
しかたなく公園をでて一人で歩きました。
道のとちゅう、知っている金魚屋のおじさんや、とうふ屋さんとすれちがい、心配そうに声をかけられます。
わたしは鼻水をすすって、なんでもないよと答えました。
気づくといつの間にか、テッちゃんのお店のまえまで来ていました。
「サッちゃん、どうしたんだい。顔も服も汚れてるじゃないか」
ゲタがカラコロと鳴って、テッちゃんが近づいてきます。わたしはどう説明していいか分からなかったので、だまってうつむきました。
すると目の前にしゃがみ、腰にさしていた手ぬぐいで、わたしの顔や手足をふいてくれました。
「擦りむいて血が出てるね。すぐに手当てしないといけないな」
言ってすぐに店のなかへ入っていったのですが、わたしはこんな姿をテッちゃんに見られるのがとてもはずかしかったのです。
だからそのすきに、自分の家に帰ることにしました。
心のなかでテッちゃんにあやまっていると、またぼろぼろと涙が出てきました。
キズの手当ては家にもどったあと、母さまにしてもらいました。
「たとえおもちゃでも、刀を使って男の子と遊ぶから怪我を負うのです。サチコ! 聞いているのですか」
和服姿の母さまは、てのひらをタタミに打ちつけて叱っています。
サビオだらけのわたしは正座をさせられて、母さまの目をじっと見ていました。
どうやらこれから先、時代劇ごっこはいっさいやってはいけないそうです。なぜ母さまはなにかにつけてこんなに心配するのでしょう。
わたしはすなおに「はい」と返事をしました。どっちにしろ、すでに刀は男の子にうばわれていたのです。
のちにそれは母さまがとりもどしてくれましたが、わたしのもとにかえってくることはありませんでした。
次の日。テッちゃんのお店に行ったわたしは、軒下の柱にもたれて、他の子たちが買い物しているようすをながめていました。
おこづかいは持っていましたが、なにかを買う気分にはなれません。
すると商品をえらんでいる子供たちのあいだをぬって、テッちゃんがやってきました。
「昨日はいきなり居なくなったからびっくりしたよ。……それにしても、ずいぶん元気がなさそうじゃないか。何かあったのかい?」
話しかけられたけど、わたしはだまって下を向いたまま小石をけります。
「ん? 刀はどうしたんだ? 昨日店で買ったやつ。今日は持って来なかったのかな」
刀のことを聞かれ、わたしは悲しくなってきたので、公園であったできごとをぜんぶ話すことにしました。
話しながらよほどつらい顔をしていたのでしょう。また泣きそうになっていると、あたまをやさしくなでてくれます。
「よしわかった。じゃあこっちにおいで。おーいみんな、今日はもう店じまいだ。さあ帰った帰った」
手を二回パンパンと叩いて、まだ買い物とちゅうの子供たちを追いはらうように、店の外へ出しはじめます。
わたしはそのとき、まるで庄屋さんみたいだなと思って、ついおかしくなりクスリと笑いました。
ちょっとお腹が出ていて太った体をしているので、まえからもそう思っていたからです。
文句をいってる子供たちが全員はけたところで、入り口のガラス戸をガタピシいわせて閉め、カーテンまで閉じてしまいました。
わたしはうすぐらい店のなかで、なにがはじまるのだろうときょとんと見上げました。
テッちゃんは「だいじょうぶ。だいじょうぶ」と明るく言います。
それからタタキのところでズックをぬいで、ざしきの奥に通されました。
「とっておきの名刀を見せてあげるよ。サッちゃんは特別だよ。自慢の一振りだから、それを使って僕と忍者ごっこをしようね」
わたしはうれしくなって両手をあげてよろこびました。自信のありそうな顔だから、きっとすごい刀なのでしょう。
障子を閉めたあとこっちに背中をむけて、せわしくズボンのベルトをはずしています。なぜメリヤスのシャツまで脱いでいるのかはナゾです。
いったいどんな刀が出てくるのか、ワクワクした気持ちで今か今かと待ちわびました。
でも、期待していたのとはちがうものが出てきました。
「これが……カタナ?」
「そうだよサッちゃん。こんな立派なもの滅多に見られないよ。もっと近くでよく観察してごらん」
わたしはふしぎに思って、まゆをひそめます。
てっきり和室にかざってあるような、カッコいいやつを見せてくれると思っていたのに、とてもこれが刀には見えません。
「毎日手入れは欠かさないんだ。だからほらっ、いい光沢を放っているだろう」
見せつけるように、前に突き出してきました。よほど自慢なのでしょう。けれどわたしにはその良さがまったく分かりません。
「ふつうのカタナはないの……?」
「今日はこいつで忍者ごっこをするんだ。それで実はねサッちゃん。この刀には、刃を納めるための鞘がないんだよ」
腰を落としてやさしくほほえんでくれます。
「それで、ものは相談なんだが、サッちゃんが手伝ってくれないか」
言うなり立ち上がって、鼻先に近づけられました。わたしは顔をひいて口をめいっぱいに閉じ、首をはげしく横にふったのです。
もしもうなずいていたら、それが生きたヘビに変化して、うねりながら口のなかへ入ってきそうな気がしたからです。
部屋には生あたたかく湿った空気がただよい、なんだかもうこの人にはかかわってはいけないと、気味のわるいものを感じはじめました。
だからワキをしめ、ふるえてきた足を閉じて、ゆっくりとうしろの障子を見ました。
あそこを開くとタタキがあって、ズックをはけばお店の外に出られます。
そういえばさっき、入り口のカーテンを閉じるまえに、ガラス戸のねじりカギを閉められていたことを思い出しました。どうやらすぐには外に出られないようです。
それにこのままだまって帰ろうとすると、キゲンをわるくして叱られる気がしたのです。
いったいこれからどうすればいいのでしょう……。
わたしが困った顔ばかりしていたのがいけなかったようです。
上を見ると、いつもとはちがう口をしめた仁王さまみたいな顔つきに変わっています。
「早くこの刀を使って遊ぼうよ。……それとも、僕と忍者ごっこをするのが嫌なのかい」
とちゅうから、あきらかにフキゲンな低い言い方をして、わたしの肩口をものすごい力で突きとばしました。わたしは尻もちをつき、はしってきた痛みをこらえました。
どうしてだろう。こんならんぼうなことをする人じゃないと思っていたのに……。
おそるおそる見上げると、なぜか今度はどんよりした目でわたしの足のつけ根を見ています。
はいているスカートがめくれていました。
わたしは首にトリハダが立つのを感じ、あわてて股のあいだに手を入れて、なかを隠しました。
いつもならめくれても気にしないのですが、(公園のてつぼうにぶら下がって遊んでいるときは、よくそのままにしていました)、このときはゼッタイに見られてはいけないキケンなものを感じたのです。
自慢の刀は時計のふりこみたいに左右にゆれています。
わたしはいつまでもこの部屋に長居するのが息苦しくなってきました。
それにおちょうずにも行きたくなってきたので、四つんばいになり、はうようにして障子をめざしました。
けれどいきなり足首をつかまれて、思いっきりうしろに引っぱられたんです。片足がちぎれそうな勢いでした。
それから両足首をにぎられ、軽々と持ちあげられました。
逆さまになって、わたしはお昼に食べたソフトめんやコッペパンをもどしそうになりました。
テッちゃんはよくわからないひとり言をぶつぶつ言っています。
つづいて足を引きさくように左右にひらかれ、股のスジが切れそうになったから、「痛い!」とさけびました。
「ほら見てごらん……。鞘のありかを探して、刀がさまよっているよ」
わたしはおそろしくて、手で顔をおおうしかありませんでした。
そのあいだ、いろんなところをガソゴソとされました。痛くて、くすぐったくてヘンな気分がおそってきます。
なにをされているのか見たくなかったから、ひたすら歯をくいしばってガマンしました。
おびえて声などまったく出せませんでした。のどがうまくふるえないのです。
いくらか過ぎて指のすきまからのぞいてみると、口のはしから落ちそうになったヨダレを、赤い舌でなめとっています。
両目が血走ってて鼻息があらく、いつものやさしい姿とはちがい、まるで遠足のときに見たエサをほしがっているブタのようでした。
その顔面がだんだん大きく近づいてきて、はき出された息のにおいにわたしは顔をそむけました。
なみだをぬぐう間もなく、両ほうの手首をタタミに押しつけられ、バンザイのかっこうにされました。
そこへ大きな体がのしかかってきたんです。重くてどうやっても動けません。
そして、どのくらい時間がたったでしょうか……。
天井からつるされた電球がゆれていました。
いえ、ちがいます。どうやらゆれているのは電球のほうではありません。
テッちゃんは、こうふんしたように、「おーっ、おーっ、おーっ」と変な声を出しています。
なにが起こっているのか分からなかったわたしは、まるで自分ではない誰かを外から見ているようでした。
でもこのままつづくと、心をどこか遠く知らない場所へと連れていかれるようで、とてもこわい気持ちがおそってきました。
それといっしょに少しずつあがっていく階段の先に、あたたかそうな光が見えています。
まだわたしは、その近づいてくる光のなかへ入ってはいけない気がしました。
だからわたしはとうとうガマンができなくなって、悲鳴をあげたのです。
「助けて。助けて母さま! こんなのイヤだよう!」
泣きさけんだ声にいっしゅん、ひるんだようでしたが、少ししてまた汗にぬれた肌が動きだしました。
「暴れるな!」
「イヤだ。もうやめてよ! テッちゃん。テッちゃん!」
必死に首をふって抵抗したその時です。
わたしが名前をよんだせいでしょうか。テッちゃんが、ものすごいスピードで飛んできました。
それまで文机のうえにいたのに、てっぽう玉みたいにまっすぐやってきて攻撃をはじめます。同時に汗のにおいがはなれました。
目といわず鼻といわず、あちこちかまれているせいで、おじさんは痛そうに転げまわっています。
それでもテッちゃんは羽をばたつかせ、クチバシでついばむのをやめませんでした。
「こら。やめないか! あっちに行け!」
おじさんはみっともないかっこうで、手をむちゅうに振っています。起きあがったわたしは大声で、「テッちゃん!」とさけびました。
するといつもおじさんにしているように、わたしの肩にトンと乗ってきたのです。
わたしは足をもつれさせながらテッちゃんといっしょに部屋をとび出して、ズックをつかみ、ねじりカギをけんめいに回します。
そして無事に外へ出られたあと、テッちゃんをおさえたまま道を走ってにげました。
おっかなくて一度もふり返ることはできません。足を動かしてるあいだじゅう、体に痛みがあったけどそこはガマンしました。
息をきらして家に帰ると、台所にいた母さまがのんきな顔で、キュウリやナスをさくさく切っていました。
「あらお帰り。どこへ行っていたの? 暇なら手を洗ってお夕飯の手伝いをして頂戴」
さっきまで必死になって転げるように逃げてきたのに、母さまはそしらぬ顔でいたって平和そうにしています。
入り口に手をそえたわたしはそんな姿に腹が立ち、少しうらめしく思いました。
「その大きな鳥はどうしたのかしら?」
わたしの肩に乗っていたテッちゃんには、すでに気づいていたのでしょう。母さまは包丁をとめて聞いてきます。
テッちゃんのお店であったできごとをしゃべるつもりはありませんでした。
あのことを母さまの耳に入れたら、なんとなく、ものすごいおとがめを食らう気がしたのです。
もしかすると今後いっさい外へ遊びに行けなくなります。だからわたしは、「公園であそんでた」とウソをつきました。
「じゃあどうして、お菓子屋のヨウムがあなたの肩にとまっているの?」
母さまも何度かテッちゃんのお店に行ったことはあるので、どこで飼ってる鳥か知っているようです。
わたしはあたまをひねって考えました。
少したったあと、「一日だけあずかることになった」と、またウソをついてしまいました。
母さまはいろいろとしぶっていました。
だからわたしは、お夕飯のお手伝いだけでなく、食器洗いもする、という条件つきで、一日だけならいいとみとめてもらったのです。
そのあと納屋からお古の鳥かごを出してくれました。
母さまが言うに、どうやらウチもむかし、鳥を飼っていたらしいです。
わたしはお夕飯のあとでテッちゃんとおしゃべりをして遊びました。
今日はあんなコトがあったけど、大好きなテッちゃんといっしょに過ごせるなんて、とてもしあわせです。
だからなるべくカゴから出して、夜は枕もとに置いていっしょに寝ることにしたのです。
翌朝。部屋のあちこちにフンが落ち、起きぬけから母さまにこっぴどく叱られました。
わたしは寝まきのままテッちゃんをカゴに入れて、眠気まなこをこすりながら雑巾がけをしました。
それから学校がおわったあと、テッちゃんを返しにお店にむかうことになりました。
またあのお店に行くのはおそろしかったけど、母さまが、「これ以上ヨウムなんて飼いません!」と厳しく怒っていたので、しかたなくもどしに行くことになったのです。
テッちゃんを肩にのせて、くもった気分で道を歩いていると、お店のあたりにたくさんの人が集まっているのが見えてきました。
一度たちどまったわたしは、ふしぎに思いながらも肩のテッちゃんに手をそえて、近くまで走りました。
お店のまえには、きれいな赤色がピカピカ光る車がとまっています。防火用水のそばにも同じ色の車がありました。
どうやらそれらはパトカーのようです。
おとなたちの足元をぬって進むと、ちょうどその時、お店のなかからおじさんが出てきました。
左右から知らないおとなの男の人たちにはさまれて、らんぼうに歩かされているようです。
どうしてか左のホッペがムラサキ色に、はれあがっています。手首には上着がかけられていました。
わたしは目が合ったので、思いきって声をかけてみました。
「どこへ行くの?」
そうたずねると、こっちを見ながらやさしくほほえんで、こう言いました。
「やあサッちゃん。実は僕、お殿様に呼ばれたんだよ。だからこれからお城へ向かうところなのさ」
「お城!?」
お城と聞き、わたしはうらやましくなって、自分も行きたいとおねだりしました。おじさんとふたりきりはイヤだけど、お殿さまのいるお城にはすごくキョウミがあります。
けれど、そばにいた男の人にとめられ、なぜかお店のなかへ連れていかれたんです。
こっちを見ていたおじさんは、「テツをよろしく頼むよ」とさびしそうに言いました。
店の奥にはおとなの女の人といっしょに、わたしと同じ年の女の子がいました。教室はちがうけれど、知っている子です。
その子は顔に手の甲をよせて、しくしくと泣いていました。
肩からおとなのせびろをかけられています。あの子がそんな大きな服を身につけていると、まるで長いコートを着ているようです。
そばの女の人になぐさめられ、もう一人のメモ帳をもった女の人から質問されてるみたいです。
その時、うしろから大きな声が聞こえました。
「ハハハッ、やれやれ。こりゃあとんでもねーおかし屋だな」
やじうまのなかにいる、ハチマキをしめた大工の人たちが、おかしそうにゲラゲラ笑ってはやし立てています。
パトカーのうしろを見ると、中でおじさんは座らされて、なにやら疲れたような顔でうつむいていました。
たぶん自慢の刀がみとめられて、お殿さまにほめられるから、きんちょうしているのでしょう。
わたしにはあの刀のかちなんてちっとも分かりません。けれど他の人ならその良さがわかるのだと思います。
――あれから数日がたちました。
わたしは言いつけどおり、テッちゃんをウチでお世話することにしました。
母さまは、はじめはとてもイヤがっていたけど、このごろはなれてきたのか、わたしよりもかわいがるようになっています。
テッちゃんのお店は、今もおじさんがお留守らしいので、あれから一度も行っていません。
聞くところによると、お店は落書きでいっぱいになり、石をぶつけたあとだらけなのだそうです。
きっとお殿さまにみとめられたおじさんに、みんなヤキモチをやいているのでしょう。わたしもその気持ちは今でもあります。
ところでわたしのなかでまえとはちがう変化がありました。
それは……なぜかあの日にした忍者ごっこを思い出すと、ムネが高鳴って楽しい気持ちになってくるのです。
大好きな味のキャンデーを口のなかで転がしているときのような……なんとも甘くてしあわせな気分にそっくりです。
そのままずっと思い出していたら、腰の奥からうっとりしびれるような心地がひろがっていきます。
そのしゅんかんは、最初はおちょうずに行って出したあとの感じににていると思いましたが、どうもそれとはちがうようです。
どうしてあの遊びが忍者ごっこなのかはわかりません。なにかとくべつな忍法がふくまれているからでしょうか。
だからそれをたしかめてみようと思いました。
今日は学校がおわって、わたしはひとり、いつもの公園に来ています。
わたしはひとりでかくれんぼをしているのです。しきちのすみにある林のなかに隠れています。
そこから楽しく遊んでいる子供たちをじっとながめていました。そしていくらか時間がたって、ひとりの子にめぼしをつけたのです。
その子は、まえにわたしから刀をうばったグループにいた男の子です。
一番おとなしく、わたしがらんぼうされていたときに仲間からこづかれて、ムリヤリやらされているような子でした。
どうやら今日は仲間はずれにされているのでしょうか……。ひとりぼっちでボールをけって遊んでいます。
わたしが林のかげから半分だけ体を出していると、その子と目が合いました。
それから他の子に見つからないよう小さく手まねきをしてみました。
男の子はまわりをキョロキョロしたあと、不安そうな顔でこっちにやってきます。
わたしはその顔を見て、つい口だけで笑ってしまいました。
「ねえ、わたしと忍者ごっこしない?」
こっちをのぞくようにして体をかたむけた男の子は、なんの話だろうというふうに、首をかしげます。
とてもはずかしかったけど、わたしは木に背中をつけて、上目づかいのまま思いきってたのんでみました。
「あのね……。ちょっとわたしに、カタナを見せてほしいの」
――このあと、わたしがその子とどんなふうにして遊んだのかはヒミツです。
もっと成長して大きくなったら、その時にまた話せるような気がします。