はっきりと思い出しました
くぅーくぅー…
カモメの鳴き声が聞こえる。
私は旱ちゃんと凛音ちゃんに誘われ、噂の少年を迎えに隣り町の港に来ていた。
旱ちゃんは生徒会長の仕事の一環だが、凛音ちゃんは「旱ちゃんはちょっと無口で初対面の人は絡みにくいと思うから!」と無理やりついてきたらしい。
まぁ旱ちゃんと少年を仲良くさせたくない気持ちは見え透いている。
この町には男の子があまりにも少ないので、恋愛は女子で男子の取り合いなのだ。
羨ましいハーレムルートである。
「京香さん、ほら、来ましたよ!」
凛音ちゃんが指さす方向を見ると、白い小舟がゆっくりと沖からこちらへ向かってきていた。
_______どこかで。
その船は、ぐんぐん大きくなっていく。
船のエンジン音が近づいて、桟橋にそっとその身を寄せた。
そして船から出てきた少年に、凛音ちゃんが駆け寄っていく。
振り返った少年と凛音ちゃんが並ぶ姿は、まるで絵のようだった。
凛音ちゃんの白いセーラー服が強い日差しに照らされてまぶしく輝く。
明るい栗色のポニーテールが風に揺れる。
きらきらと輝く長い睫に縁どられた瞳。
そして少年の驚いた整った端正な顔。
青い空によく映える白い肌。
少し着崩したシャツの襟元から覗くペンダントに反射した光。
______どこかで。
2人のどこかデジャヴを覚えさせる姿に見とれていると、旱ちゃんの涼やかな声が響き、
わたしははっと我に返る。
「初めまして、東雲 旱です。よろしくお願いします。」
旱ちゃんを見ると、やはり絵を見ているような感覚に襲われる。
さらさらと艶やかに光をはなつ長い黒髪。
まっすぐに相手を見つめる少し切れ長の目。
小さな花と、微笑を湛える薄い桜色の唇。
綺麗にセーラー服を纏う長く伸びた手足。
目の下の小さな泣き黒子の不思議な色気。
そして少年が口を開く。
「沖野 翡翠です。」
その瞬間はっきりと分かった。
私が少年が出てきた瞬間、何故か絵を見ているような感覚に襲われた理由。
その瞬間はっきりと思い出した。
私がこの世界に生まれる前のこと。
そしてその瞬間理解した。
______ここは、美少女ゲームの世界なのだと。