まだ自分が何者かを理解していませんでした
目の前いっぱいにトラックの鮮やかな原色が広がる。
「_____________!!!!!!!!!!」
私の名前を叫ぶ君の声。
スローモーションでこちらに向かってくる大きな鉄の塊。
こんなに動きが遅いなら、走れば逃げられるかもしれない。
でも体が全く動かない。
あぁ、私このまま死ぬんだな。
トラックに轢かれるなんて、なんてありがちなんだろう。
こんなんじゃ恰好がつかないなぁ…
そんなことを考えているうちに、体に体験したこともない大きな衝撃が走る。
私の体は吹き飛ばされる。
よく痛くもなかったなんて言うのは嘘なのか。
とてつもなく痛い。これだったら、今すぐ死んだほうがましだ。
ああでも私が死んだら君は泣くだろう。
最期に、ずっと伝えてきた想いをもう一度。
力を振り絞って叫びながらこちらを見つめている君の方を振り返る。
「愛してる」
この声は、君に届いたかな。
小さすぎて聞こえなかったかな。
君の双眸から涙が零れる。
もう地面が目の前に迫っている。
私が最期に見たものは_____
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「京香さん、行ってきまーす!!」
「はい、行ってらっしゃい。」
私、鏡 京香はここ時雨町で喫茶店を営んでいる。
時雨町は冷涼な気候で、病気療養で有名な土地だ。
だから、お客さんは身体の弱い人が多い。
実は私もその一人だったのだが、治った後も町の人たちの温かさから離れることができず、
ここで喫茶店をしているのだ。
今元気に走っていったのは、涼宮 凛音ちゃん。
この近くにある夕凪学園にかよう高校2年生だ。
明るい性格で人気者らしく、いつもたくさんの友達に囲まれている姿を見かける。
あの子も昔は病気がちだったのだが…
「京香さん、おはようございます」
「あ、おはよう早ちゃん」
この子は東雲 早ちゃん。
凛音ちゃんと同じ、夕凪学園にかよう高校3年生だ。
生徒会長をやっているらしく、言葉遣いもとても丁寧だ。
早ちゃんはこの町に生まれた時から暮らしているらしく、風邪なんかをひいたところを見たことがない。
というわけで私はこの町で充実した生活を送っている。
この平凡な暮らしがずっと続けばいい、そんな風に思っていた。