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勇者な幼馴染と村人Aな俺  作者: 松田利斗
初めての勇者
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7


 レベルも無事上がったところで、俺達は王様と謁見するために移動を開始。途中ウサが現れては殴り彩乃が文句を言うというサイクルをしつつ歩を進めると、ようやく目的の場所が姿を現した。


「あっ、なんかお城っぽいの見えたよー」


「おう。あれは間違いなく城だな」


 俺達の前方、やや遠目に洋風のお城が見える。ここからでも重厚さを感じさせる立派な佇まいで、見たところ城下の町も大きそうだ。


「凄いね、凄いね!」


 大げさにはしゃぐ彩乃をみて微笑ましく思う。ただ、その気持ちはわからんでもない。現実では滅多に見る機会なんてないものだしな。


 そんなわけで俺もちょっとワクワクしちゃってる。けど、俺までこいつと一緒に騒いでは色々と収拾がつかなくなるからな。


「あんまり今からはしゃぎすぎんなよ。まだ着いてもいねえし、目的は王様に会うことなんだからな」


 いつも通り平静を装って彩乃を諭し、気持ちを落ち着かせる。


「なんか楽しくなってきたねー」


「……聞けよ」


 この流れもいつも通りだ。世界が変わっても割といつも通り。そしてそんな俺達の前にぴょんぴょんと跳ねて近付く影が一つ。


「またウサか」


 と思いきや、見ると半透明でゼリー状の生物が迫ってきていた。


「ちょっと待って。何あれ……ウサちゃんじゃないよ!」


「あー、スライムか」


 今度のモンスターは皆さんご存知スラさんのようだ。ちなみにこのゲームでの名前はどうやらスラプリンというらしい。


「ス、スライム? 何……気持ち悪っ!」


「RPGでよく出てくる雑魚モンスターの一つだ」


「ひいぃぃ!」


 スラプリンに対し必要以上に気味悪がり、じりじりと後退していく彩乃。


「おい、いつまでも気持ち悪がってないで攻撃するぞ」


「無理だよ。こんなの触れないよ!」


 彩乃は両手と頭を全力で振って拒否した。


「別に触らんでもいいだろ。棍棒で叩けばいいんだから」


「無理、無理!」


 俺は棍棒を取り出しぶんぶん振って見せたが、彩乃の拒否は度を増すばかり。


「なんでだよ」


「びちゃってなったらどうするの!」


 ……そりゃ、こんなんでゼリー状の何かを殴れば、おそらく飛び散るだろうけどよ。


「びちゃってなりそうなのわかるんだ……」


「それくらいわかるよ。私どれだけアホだと思われてるの!?」


 まごうことなき、最強のアホ。


「とにかく殴れよ。お前ウサギの時、一回も参加してないだろ」


「無理。勇ちゃんがやって」


 こ、こいつ意地でも戦わない気かよ……。


「勇者なんだから、そういう好き嫌いすんなよ」


「無理!」


「おい――」


「無理!」


 ついに彩乃は無理しか言わなくなったとさ。


「わかったよ……ったく」


 どうやら敵も攻撃態勢に入ったようだし、いつまでもこんな無駄な問答してる場合じゃない。


 俺は棍棒を振り上げ、スラプリンに向かって振り下ろす――びちゃっと飛散するスライムの破片。そこに更にもう一撃加えると、スラプリンは完全に動きを止めた。


 まあ、なんというか予想通り弱い。


「ふう、これでいいか――」


 俺はため息一つ、振り返ってみると彩乃はいつのまにか遠くに離れていた。


「――って、おい! なんでそんな遠くにいるんだよ!」


「跳ねたらやばいと思って……」


 やばいって……まあ、実際に結構飛び散ったわけだが……。


「お前人に殴らせて下がるとか非常識だぞ」


「だって、無理なんだもん」


 駄目だ、こいつ……。


 がっくりと頭を垂れると、スライムの破片でドロドロになった自分の体が見えた。


「……なんで俺だけこんなドロドロにならなきゃいけねえんだよ」


 こんな状態、多分小学校低学年でも引くわ。


「きっと宿命だよ」


「ふざけんな。野郎がドロドロになった姿なんて誰も期待しちゃいねえんだよ!」


 これじゃ、何のサービスにもならねえだろ!


「き、期待? 勇ちゃん、何言ってるの……?」


 彩乃に問われ、一気に冷静さを取り戻す。


「あ、いや……なんか少し気が動転していたようだ。気にするな」


「う、うん。ドロドロだもんね。無理もないよー」


 そんなやり取りをしていると、潰れたスライムの残骸と俺の体にこびりついたドロドロが消滅した。


「消えたか……」


「あ、ドロドロも消えるんだー。へぇー、よかったね」


 やだ、怖い。この人まるで他人事。


「よかねえよ。次出てきたらお前もちゃんと参加しろよ」


「無理」


 彩乃は右手を前に突き出し、断固拒否体勢。


「いいじゃねえか、消えるんだから」


「うん。いいじゃん、消えるんだから。ということでこれからも勇ちゃんお願いねー」


 彩乃はそれだけ言うと、これ以上議論したくないとばかりにさっさと歩き始めた。


「待て。勝手に行くんじゃない」


「お城は目の前だー。ブーン」


 俺を無視し、両手を広げ走り出す彩乃。


「スラが出ても知らんぞ!」


 彩乃はその言葉にぴたりと止まり、振り返って一言。


「そしたら、勇ちゃんになすり付けるからいいもん」


「ふざけんな!」


 その後スラプリンに遭遇した彩乃は有言実行、俺になすり付けたとさ。


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