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勇者な幼馴染と村人Aな俺  作者: 松田利斗
初めての勇者
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6

 変わらずウサギと戯れる俺達……っていうか俺。あれから彩乃は一度もウサギを攻撃できず、結局俺1人で戦ってるというね。


 さておき、実はここまで何度かこいつと戦ってみて、わかったことがある。それは攻撃を受けるとHPは減るものの、あまり痛みはないということだ。


 正直、戦闘ダメージと同様の痛みを感じないのはありがたい。いくら死なないと言っても、やっぱり痛い思いはしたくないからな。


 ただ、攻撃などによる衝撃は受けるので、それの大きさや微妙な痛みから攻撃を受けているとかダメージを判断することはできる。


 そんな戦闘システムを少し理解し始めた俺の攻撃。


「ふん!」


 ――カキーン!


 という効果音が聞こえてきそうなほどのクリーンヒットに、ウサギモンスターは放物線を描いて飛んでいく。


 そして俺達はファンファーレと共にレベル2となった。


「おぉ、ついにレベルが上がったな」


 早速ステータスを確認してみると、お情け程度に数値が上がっていた。


 うん……まあ、こんなもんだろうな。村人だし……。


「彩乃、何か変わったか?」


「うん……こうやって純真な心は少しずつ荒んでいくんだね……私はずっと子供のままでいたかったよ……」


 なんか知らんが、彩乃の目は淀んでいる。


 別に心境の変化なんて聞いとらんがな。


「……何わけのわからんことを言っているんだ」


「わけわからなくないよ! こんなことしてたら動物虐待で捕まっちゃうよ!」


 またそれかよ! さっきから同じこと何回も聞いたわ!


 極悪ウサギを倒すたびに受ける苦情に辟易する。


「だからモンスターだし、架空の生物だって何度も言ってるだろ。倒してしばらくすると消えるしよ」


「でも、たまに兎肉が残ってるよ」


 兎肉――それは極悪ウサギを倒すとたまに落とすアイテムで、食べるとHPが少し回復する代物だ。それ以上の何物でもない。


「ただのアイテムだろ」


「ううん、あれはあの子達からの精一杯のメッセージだよ」


「……参考までにどういうメッセージなのか、ご説明願いたいんだが」


「コロサナイデ」


「いや……」


 なんでカタコト。


「それに見た目、完全にウサちゃんだしさー」


「どこが!?」


「え、こう全体的に」


 ば、ばかな……こいつの目には、一体どう映ってるんだ。もはやお互いの目を交換する以外に解決法はないんじゃなかろうか、ってくらい見え方が違ってそう。


「あのな、本当に人畜無害なウサちゃんは攻撃してこないし、鋭いキバもないんだよ。わかるだろ?」


「きっと新種なんだよー」


 新種であんな悪いウサギが大量発生してたまるか!


「そんなわけないだろ……ってか、仮にそうだとしてもこっちに攻撃してくる時点でいかんだろ」


「んー、人見知りしてるだけじゃないかなー」


 こいつ、次々にとんでもない理論を展開してきよる。


「人見知りなら、攻撃なんてしないで逃げると思うぞ……」


「それは何か深い事情があるんだよ」


「俺達、ウサギ界の深い事情によって攻撃されちゃってんの!?」


「そう、ふかーいね」


 そう、不快ね。


「もういいから、とりあえずレベル上がって何か変わったことがないか見てみろ」


 いつまでもこいつの狂言になど構っておれん。


 俺が確認を促すと彩乃は渋々ながら頷く。


「うーんと、ステータスの数値が増えたのと……ヒールっていう魔法を覚えたよ」


「なんだってー!」


 レベル2でもう魔法を覚えるのかよ!


「か、回復魔法か?」


「うん。HPを少し回復するみたい」


 こいつ……こんな大事なことより先に、どうでもいいウサギの問題を取り上げるなんて……! くっ、暴れそうになる衝動を抑えねば……静まれ俺の右手!


「ほ、ほう……そりゃよかったな」


「勇ちゃん右手どうしたの。痛いの? 回復してあげようか?」


 彩乃は右手首辺りを掴む俺を見て、怪我でもしたと思ったのだろう。


 だが、痛くないし大きなお世話だ。


「心配するな。ダメージは受けていない……おそらく腱鞘炎か何かだろう」


「それって、もしかして棍棒でウサちゃん殴りすぎたせいじゃないのかなー」


 うるせえ。誰のせいだと思ってる。


「使うなら俺じゃなくて自分に使ったらどうだ。お前、結構HP減ってるし」


 なにせこいつときたら、ウサギに蹴られるままだからな……。


「わかったー。こうかなー……ヒール!」


 彩乃がヒールと唱えると、輝くエフェクトと共に減っていたHPが回復した。


 かっこええ。羨ましい……。


「おぉ、回復したー」


「うむ」


「ところで勇ちゃんは?」


「ん?」


「勇ちゃんもヒール覚えたんじゃないの?」


 こ、こいつ……俺が必死に右手を抑えているというのに! 誰もが平等に何か覚えていくと思ってやがる……。


「……覚えてねえよ」


「え、なんで?」


 え、なんでときたよ……無知という毒素によって俺の精神が崩壊する日も遠くないかもね。


「え、なんだって?」


「何で覚えないの?」


「え、なんだって?」


「あれ、勇ちゃんってそんな耳悪かったっけ」


 こいつ本当に空気読めんよな!


「村人はそういうの覚えないんだよ。普通に考えりゃわかるだろ」


「んー……でも、これってゲームの世界なんでしょ。村人でも何か覚えたりするんじゃないの?」


「ふむ」


 そういう発想もあったか。


 確かに普通に考えたら、村人は村人でしかない。だが、ここはゲームの世界だ。


「そ、そうだな……可能性はゼロではないよな!?」


「そうだよ、自分を信じないと!」


 本気で俺を励ます彩乃の言葉に、なんだか少し力がみなぎってきたぞ!

 

「俺は信じるぜ! 自分の可能性を! 村人の可能性を!」


「いえーい!」


 ……あるよね、可能性?


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