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勇者な幼馴染と村人Aな俺  作者: 松田利斗
初めての勇者
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5


「な、あるだろ」


 露天風に開かれた武器屋に到着し、俺はそれ見たことかとばかりに言うと彩乃は首を傾げた。


「ありー、本当だー……」


 この村はそんなに広くない。さっき村長の家を探す際にこの武器屋も見かけている。ここへはその記憶を頼りに来たのだが、彩乃は全く見覚えがないと言っていたのだ。


「本当にさっきこんなとこあったっけ……新しくにょっきっと発生したんじゃない?」


「するか!」


 さっきあったから俺の記憶に残ったんだろうが。


「えー、おっかしいなあ」


 ああ、お前がね。


 何やらいまだ得心がいかない様子だが、事実としてここに存在してるんだからそれで納得してもらいたい。


「もういいから、武器買おうぜ」


「ん、勇ちゃんに全部任せるよー」


 さすがにてけとーですね……。


 けどまあ、任せてもらった方が話は早く済むから好都合だけどさ。


「いらっしゃいませ。お客様、アイテムを購入されるのは初めてですか?」


「はい」


「それでは簡単に説明をしましょうか?」


「お願いします」


 俺が受けた店員さんの説明は以下の通りだった。


 まず手に入れた装備品やアイテムは基本的に道具袋に収納される。

 次に道具袋に入れられたアイテムなどは必要な時すぐに具現化できる。

 最後に武器屋等で購入したものは道具袋に送る他、直接手渡しすることもできるとのこと。


 やはり、さっき俺が想像してた通りのようだ。要するに道具袋は四○元ポケットみたいなもんだな。


「わかりまし――」


「やっほー!!」


 はぁ!?


 店員さんとのやり取りの最中、突然響く彩乃の叫び。振り返ってみると、何やら大声の主は『返ってこないなあ』などとつぶやいている。


「あ、これ一度やってみたかったのー」


 俺と店員さんの視線に気付いた彩乃がしれっとした顔で言い放つ。


 いや、何やってんだよ。確かに全部任せるとは言ってたけど話くらいは聞こうよ……。


「お前の金で買うんだから、一応参加くらいしろ……」


「はーい」


「で、では、うちにある商品はこちらです」


 彩乃も話しに加わると、取り扱われている品物が提示された。といっても、さすがに最初の村だけあって品数は少ない。


 棍棒  …… 100G

 鉄の剣 …… 500G

 

 あるのは二つの武器だが……確か彩乃の手持ちは300Gだったな。


「んー、棍棒を二本買うか」


「うん。わかったー」


「棍棒二本で200Gになりますが、よろしいですか?」


「はい」


 彩乃が袋からコインを二枚取り出し目の前の机に並べると、それを確認した店員さんがもう一度こちらに尋ねる。


「お二人とも、すぐに装備なさいますか?」


「へ……装備……?」


 とぼけた顔でこちらを窺う彩乃。


「はい、でいいよ」


「はいっ!」


 彩乃が元気よく頷くと、今度は店員さんから俺達二人に棍棒が手渡される。


 それは見た感じかなりごつごつした硬そうな木だ。布がぐるぐると巻かれただけの取っ手がいかにもといったところ。


「思ってたよりもごついねー」


 手に持ってまじまじと眺め、嘆息する彩乃。


「そりゃ一応武器だしな」


「でも軽いねー。もっと重そうに見えるんだけど」


 それは俺も手に持ってすぐに思ったことだ。なんか見た目よりも軽い。おそらく現実だったらもっと重量があるだろう。


「その辺は現実世界と違うのかもな。一瞬で出たり消えたりもするし」


 まあ、実際の重さにしたら大きな剣とかほとんどの人は扱うどころか、持ち上げることすらできなさそうだしな。


「じゃあ、いよいよ外の世界へレッツゴー……かな?」


「うむ」


 ついに旅立つ勇者一行――なのだが、勇者は無知だし唯一のお供は村人だし……ってまあ、俺なんだけどさ。とにかく不安要素でいっぱいだぜ。



 ようやく村を出て冒険の第一歩を刻んだ俺達。


 この外の世界には一体どんな危険が潜んでいるのだろうと、最初のうちは気を引き締めて歩を進めたのだが。


「なんか、のほほーんとしてるね」


 いや、のほほーんとしてるのはお前の顔だろう――と言いたいところだが、確かに今のところ非常にのどかで、まさにのほほーんである。


「ま、最初の村を出たばかりだしなあ」


 段々と気は緩み始めている。というか彩乃の気は既に緩み放題。


 しかし、このくらいで丁度いいのだろう。いきなり引っ切りなしでモンスターに襲われても逆に困るしな。

 

「えっと……確か南に向かうんだよね」


 そう言ってコンパスを取り出し、にらめっこを始めた彩乃。


 ちなみにコンパスは購入したのではなく、あらかじめ道具袋に入れられていたものだ。これについてはさすがに勇者だけでなく村人にも標準装備されていて一安心。


「お前、コンパス見てもわからんだろ」


 俺の言葉に『ニヘヘ』と変な笑い方で返す彩乃は極度の方向音痴だ。

 

「それと城に向かう前に、この周辺で軽くレベル上げをするからな」


「……レベル、上げ?」


 レベルという概念を知らないであろう彩乃が、またも小首を傾げる。


「ううむ……なんだろうな」


 これって知らないやつに説明するのって意外と難しい気がする……。


「今の俺達でも勝てる敵と戦って、経験を積んで強くなることだ」


 割とうまく言えた気がしたのだが、彩乃の首には変化なし。こりゃ駄目かと思いきや、


「んーよくわかんないけど……とにかく敵を倒せばいいのかな」


「うむ」


 なんとか要点だけはわかったようだ。


 こいつもこの世界に少しずつ順応してきてるのかな。


「それで、その敵はどこにいるのー?」


「まあ、そのうち出てくる――」


 などと話してる矢先、少し大きめのウサギみたいな生物がこちらに接近してきた。


「――って、なんか近付いて来たな」


 無害な動物がうろついてる可能性も十分あるが、あいつはおそらくモンスターだろう。なにせ顔付きが悪いし、尖ったキバ生えちゃってるし、『プシャー』とか言ってるし、どう考えても愛らしいウサギなどではない。


 俺がそんな推察をしてるいると、彩乃が不用意にそのウサギもどきへ近寄る。


「かわいいー」


「あっ、おい!」


 彩乃は撫でようとしたのだろう。ウサギの頭に手を伸ばすも逆にウサギもどきからキックを食らわされた。


 なんか攻撃的だし、名前も極悪ウサギってなってるし、絶対モンスターだな……。


「おぉ。じゃれてる、じゃれてるー。かわいいー」


 キックをされながら、尚も撫でようと手を伸ばす勇者。


 こいつ色々と頭の中の何かが飛んじゃってるんじゃなかろうか。


「おい、そいつ敵だよ。モンスターだよ」


「ええー、こんなかわいい子が敵なわけないよー」


 俺の発言に、彩乃は爽やかな笑顔を返す。


「かわいいから敵じゃないってどういう理屈だよ!」


「かわいいは正義でしょ?」


 というか全然かわいくねえし。かわいいウサギは『プシャーッ』とか言わないから。


「よく見ろよ。お前HP減ってるじゃねえか」


「ありー?」


 おかしいなと首を捻る彩乃。


 いや、おかしいのはお前の脳内だ。


「ありー、じゃねえ。早く攻撃しろ!」


「攻撃……ってどうするの?」


「決まってるだろ。さっき買った棍棒でそいつをどつくんだよ」


「そ、そんなことできないよ!」


 彩乃がありえないとばかりに首を激しく振る。


「あーもう……とりあえず、こいつは俺が始末するわ」


 棍棒を片手に彩乃とウサギの間に割って入る。


「ちょ、始末って――」


 何か言おうとする彩乃を無視し、棍棒を力いっぱい振るうとウサギは吹っ飛びそのまま動かなくなった。


「ああああっ! ゆ、勇ちゃん……ひどいよ…………」


 モンスターを倒しただけなのに、目に涙を浮かべて抗議してくる勇者とか……。


「いや、どこがひどいんだよ」


「完全に動物虐待だよ!」


 そう言って彩乃は動かなくなったウサギに駆け寄ったが、それは間もなく消滅した。


「ああっ、ウサミちゃん……」


 ウサミって誰だ。名前からするとメスだろうけど、性別なんかわからなかったろ。


「だから今のはモンスターだってば。放っておいたらお前がやられるんだぞ」


「で、でも……」


「でも、じゃない」


 そんな風に言い争っていると、再び同じモンスターがこちらに近づいて来た。


「ほら、次のやつ来たから、今度はお前が倒してみろ」


「ええっ!?」


 両手を地面に付け、うなだれる彩乃。


「ううっ……これは、早くもウサ詰まってしまった……」


「何詰まりだよ!? とにかく心を鬼にして攻撃しろ!」


「あああああああ」


 ついには勇者は『聞こえない、聞こえなーい』と耳を塞ぎだす始末……。


 このゲームどうやら前途は多難のようだ。


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