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勇者な幼馴染と村人Aな俺  作者: 松田利斗
初めての勇者
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4

 村をぐるりと見て回った俺達は、とある二階建ての家に目星を付けた。ここ以外の家は全て似たような小さな家ばかり。そんな中、高台に建つこの家は一軒だけ大きく他と異なっていたからだ。


「どうやら、村で一番大きい家はここみたいだな」


「そだねー」


 歩き疲れたのか、隣で気のない返事をする彩乃。


 こいつもう飽き始めてるんじゃないだろうな……。そんな心配をしつつ、家のドアノブに手をかけると、


「ちょ、ちょっと待って、勇ちゃん。おうちの人に呼びかけもしないで入っちゃうの?」


 彩乃は呆けていた顔を焦りの表情に変えた。


「ん? ああ……」 


 まあ、これまでの常識で考えれば、確かに今のは驚くべき行動だろう。


 赤の他人の家に在宅の確認もせず無断で入り込む。そう……それは紛れもなく犯罪行為さ……さっきまでの世界ではな!


 だが、チミここはゲームの世界なのだよ。


「お前は知らんようだが、こんなことRPGの世界では日常茶飯事なんだぞ」


「ええっ……そう、なの。でも一応声かけたほうがいいんじゃないかな……」


 彩乃は俺の説明を聞いても、にわかに信じられないようだ。怪訝そうな顔で二の足を踏んでいる。


「ばっかだなあ。お前は勇者なんだから、堂々と侵入すればいいんだよ」


「し、侵入って……大丈夫なの……」


「付いて来るがいい。ゲームのお約束というのを教えてやろう」


 俺はそのまま躊躇うことなく扉を開け、いまだ及び腰の彩乃を手招きする。


「本当にいいのかなあ……なんか泥棒してるみたいだよう」


 はあ……何を言っているのやら。俺達は勇者一行、正義の味方。そしてこの世界では不法侵入すら許されるのだ。そんなことも知らんとは無知は怖いぜ。


「いいんだよ。時間がもったいないしさっさと上がるぞ」


「お、お邪魔……しまーす」


 まずはと、一階の探索を始めた俺達は、廊下の突き当たりにあった扉に手を付ける。


「ここは広間かな」


 そんなことを言いながら開けると、確かにそこは予想通り広間だったのだが……。


「えっ?」


 と、そこには驚いた表情をこちらに向ける若い女性が一人。


「きゃああああ!」


「うわああああ!」


「ひえええええ!」


 女性の悲鳴を合図に俺と彩乃も悲鳴を上げる。


「だ、誰か、助けてえええええ」


 女性は叫びながら近くにある物を掴んではこっちに投げ付け、そのうちのいくつかが俺に当たる。


「うへえぇ――――いてっ!」


「えっ、えっ、えっ?」



 こちらに物を投げる女性、それから逃げ回る俺、うろたえるばかりの彩乃。


 そんな状況がしばらく続き、ひたすら『怪しい者じゃありません』と二人で叫び続けることで、女性はなんとか落ち着きを取り戻した。


「決して驚かすつもりはなかったんですけど……」


「無言でいきなり入ってきたら、誰だって驚くに決まってますよ」


 ですよね……。


「「どうも、すいませんでした」」


 二人で何度も頭を下げる。

 途中、ちらりと彩乃に視線を送ると恨めしい目で返された。


 ……いや、今回に関しては本当にすまんかった。


「いえいえ、もう大丈夫ですから。そんなに謝らないでください。ところでお二人は?」


 ようやく会話ができそうな雰囲気になったのだが、まだこの人が村長かどうかは定かではない。何しろここが村長の家というのは、飽くまで俺の推測でしかないのだから。


 ともかくまずは率直に自分達の目的を話す。


「実は俺達、村長さんを探して回ってるところなんです」


「ああ、そうだったんですか。それなら私が村長みたいですよ」


「おお!」


 期待通りの返答に内心ほっとする。

 ゲームの先輩として、これ以上彩乃の前で恥を掻くわけにはいかないからな。


「ふぇー、お若いのに村長さんなんですかー」


「みたいですねえ」


 そう言って苦笑いを浮かべる女性は、確かに村長というイメージで考えると随分と若く見える。さすがに俺達より年上なのは間違いないだろうが、それでもまだ二十代前半といったところだろう。


 ただ、この世界においては小さな子供が村長になっていたとしても、なんらおかしくはないのだ。


「まあ、ランダムで役を決めてるらしいからな」


「そっか……それっぽい人が選ばれるってわけじゃないもんね」


 ないわー。それっぽいで選ぶんだったら、お前の勇者とか絶対ないわー。


「それで、私に何かご用ですか?」


「ええ、実はこいつ勇者なんですけど、どうやら村長さんに会いに行くことになってるみたいなんですよ」


 村長さんとわかったところで本題に入る。

 俺が彩乃を指差し、訪ねた理由を説明すると彼女は大きく目を見開いた。


「あなたが勇者なんですか?」


「はい。どうやらそのようです」


 頭を掻くその姿たるや、まるで勇者の風格なし。

 そんな彩乃に対し村長さんが少し心配そうな表情を見せる。


「魔王を倒さないといけないんですよね。大丈夫ですか?」


「いえ……大丈夫じゃないです。全く倒せる気がしません」


 いや、そこは嘘でも大丈夫って言っとけよ。

 ほら……村長さんめっちゃ困った顔してるやん……。


「え……っと……きっと何とかなりますよ」


「でも私ですよ? 本当に何とかなると思います?」


「大丈夫です。自信を持ってください」


 いや、初対面なのに私ですよ? とか言われても困るだろうよ。さすがに年上だけあって大人な対応をしてくれているが……。本当にこの世界ときたら、とんでもねえのを勇者にしちゃったな……。


「って、すいません。話が逸れてしまいましたが、あなたが勇者ならお伝えすることがあります」


 村長さんは気を取り直してとばかりに、一度咳払いをして姿勢を整える。


「遥か昔、この世界を支配しようとした魔王は勇者とその仲間達によって倒されました。それから長らく平和が続いてきましたが、先日ついに魔王が復活し再びこの世界を支配しようと動き始めたのです」


「ほうほう?」


 ようやく出てきたRPGっぽい話に俺は前のめりで頷く。そしてそんな俺とは対照的に彩乃はうつろな目を浮かべ始めた。


「おい、彩乃」


「えっ? あ……起きてるよ。まだ起きてるもん」


 まだ……ね。もう少しほっといたら落ちそうだったけどね。


「魔王は勇者にしか倒すことができないという話です。そこであなたには勇者の血を引く者として、立ち上がっていただきたいのです」


「立ち上がりたくない場合はどうしたらいいんでしょうか」


「「…………」」

 

 とんでもない言葉を堂々と口に出す彩乃に俺と村長さんは絶句。寝かけてみたり、拒否してみたり。無茶苦茶や、こいつ!


「……話が進まないし村長さんに迷惑かかるから、とりあえず立ち上がっとけ」


「え、うん。わかった……」


「どうもすいません。話を続けてください」


「え、ええ……それで早速なんですが南のノンバー城では早くも魔王軍の幹部によって何か問題が引き起こされたようです。あなた方はすぐにここを出立しノンバー王に謁見してください」


「王って、王様に会うの!?」


「まあ、RPGにおいては結構定番だなあ」


 といっても、王様も当然ランダムで選ばれてるだろうから、それらしくない人がなってる可能性が高そうだが。


「王様って、やっぱりでっかいお城にいるのかなー?」


「まあ、そらそうじゃね」


「おぉー」


 どうやら彩乃は勇者だの魔王だのという話より、王様やお城に興味を持ったようだ。心なしか生き生きし始めた気がする。


「ふむ。じゃあ次の行き先はノンバー城ってとこだな」


「お城に行って、王様と謁見するんだよね。それならなんとかできそうー」


 両手をぐっと握りやる気を見せる彩乃。


 うむ。目的はどうあれいい傾向だ。せっかくだから気合いが入ってるうちに出発するとしよう。


「では、これで失礼します。ありがとうございました」


「ありがとうございましたー」


「はい。がんばってくださいね」


 迷惑をかけた村長さんにもう一度頭を下げ、俺達はその家をあとにした。


「じゃあ、お城にレッツゴーかな?」


「いや、ちょっと待った。その前に何か装備を買いたいな」


 俺はすぐにでも村を出ようとする彩乃を引き止める。


 現状だと装備はもちろん回復アイテムなどもなく、初めて外界へ臨むには少し不安だ。


 そんな風に思いを巡らせていると、いつの間にか彩乃が目を燦々と光らせていた。


「え、お買い物するのー?」


「別にそんな楽しいお買い物ってわけでもないと思うぞ」


 と、そこで俺は買い物しようにもお金を持っていないことに気付く。


「あ……いや、よく考えたら金を持ってないから何も買えんな。すまん、やっぱり出るか」


 面倒だが、少し稼いでから買いに戻るしかないな――そんなことを考えていると、彩乃から思いがけない言葉が飛び出す。


「私多分お金持ってるよ」


「え、まじで!?」


「うん。これってお金だよね」


 差し出された彩乃の手に、Gと書かれた袋が現れる。


「なんだその袋……ってか、どっから出したんだ」


「よくわかんないけど、お金を使おうとすると出てくる、みたいだよ?」


「俺、そんな袋持ってないんだけど……」


「そうなの?」


 どうやらお金はデータとして管理されていて、必要な時は瞬時に具現化でき、不要な時にはしまえるようだ。おそらく他のアイテムなどもそんな感じなのだろう。


 これなら持っているものがかさばることはなく、持ち運びで悩む心配もない。なかなかに便利なシステムだ。


 彩乃が出した袋を確認してみると、中には100Gと書かれたコインが三枚入っていた。


 ずるい……というよりもはやおかしいだろ。お金持ってなくて、村人どうやって生きていけばいいんだよ。いくらなんでも差別がすぎるぞ!


 口を尖らせ、ふて腐れる俺の肩を彩乃がポンと一叩きする。


「元気出しなよ。私がおごってあげるからー」


「くっ……」


 悔しいっ……彩乃に上から発言される日がくるなんて! ただ、悲しいかな『やった! おごってもらえる』などと思ってる自分もいたりして。


「……これからずっとおごってくれるってのかよ」


「任せてー」


「あ、彩乃、お前いいやつだなあ!」


「テヘヘー」


 いやあ、持つべきものは気前のいい幼馴染……って、もしかするとこれヒモってやつなんじゃ!?


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