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勇者な幼馴染と村人Aな俺  作者: 松田利斗
初めての勇者
3/32

3


 俺達は村長を探すため、まずは外に出た。


「村長さん、どこにいるのかなあ」


「わからんけど、この村で一番でかい家を探せばいいんじゃねえの」


「えっ、一番大きな家を探すの?」


 不思議そうな顔で俺を見つめる彩乃。


(なんで? どうして?)


 そんな心の声が聞こえて来るようだ。


 よかろう。RPG経験者として、そして村人改め勇者の参謀として教えてやろうではないか。うんまあ、実際は改まってないんだけどね。 


「うむ。一応、村の長なわけだからな。きっとでかい家に住んでいるはずだ」


 短絡的発想でもあるのだが、実際ゲームにおいてそういうわかりやすい設定になっていることは多い。


「なるほど。凄い推理だねー。勇ちゃん、もしかして探偵になれるんじゃないの」


 大げさなやつめ。だが、俺は褒められるのが好きだ!


「あとは見かけた人にできるだけ話しかけて情報をもらうとしよう。RPGでは情報が命だからな」


「勇ちゃん、さっすがー」


 再度言うが俺は褒められるのが好きだ。だからもっと褒めろ。俺を褒めるんだー!


「あっ、優奈ちゃんだ! おーい」


 悦に浸る俺を置き去りに、彩乃が駆け出す。その先に見えるのは、石川優奈いしかわゆな。俺達のクラスメイトだ。


 ってか、切り替え早すぎだろ。勇ちゃん、ちょっと傷付いたぞ……。


「彩乃ちゃん!」


 再会を喜び合う二人に、俺もゆっくり歩いて合流する。


「あ、坂野君も無事だったんだね」


「おう」


 軽く会釈を返してみたものの、実はこいつのことをよく知らない。もっと言うと、クラスの女子の半分以上と関わったことがない。ははは。


「ねえ、優奈ちゃんの役柄は何だった?」


 面倒な女子トークでも始まるかと思いきや、彩乃が振ったのは役柄の話だった。


 偉いぞ、ちゃんと情報収集を心がけるだなんて。なにせこいつは普段よく目的を忘れて、別の話をしたりするからな。


「私は教会のシスターだったよ」


「へえー、シスターさんか。かっこいいねー」


 うん、かっこいいね。ちょいと村人とチェンジしてもらえんかな。と、あまり交流のない石川との会話に参加できず、心でつぶやく坂野勇輝であったとさ。


「なんか照れるねぇ。それで彩乃ちゃんは?」


「……私、勇者だった」


 まるで外れくじを引いたかのごとく、沈んだ感じで言う彩乃。


 なんでだ。当たりだぞ! それ、大当たりなんだぞ!?


「凄いじゃーん! 確か魔王を倒す役だよね?」


 そうだ、凄いんだぞ。だからもっと喜べよ。……でないと俺が泣きそう。


「うん、でも何したらいいのかわかんなくて……優奈ちゃん何か情報ない?」


「うーん……私は教会に関する情報くらいしかないみたいだけど」


「何でもいいから教えてー」


 うん、教えて、教えて。


 いまだ一度も混ざれてない会話に、俺はひっそりと耳を澄ます。


「うんと……教会はね、蘇生や毒とかの状態異常が回復できて、あとは……全滅した時の復活場所にも設定できるみたい」


 たどたどしい説明ではあったが、ちゃんと要点は理解できた。


 ふむ、どうやらあのRPGの代名詞的なゲームにかなり近い作りのようだな。


「復活場所?」


 いまいち理解ができなかったのだろう、彩乃は部分的に聞き返した。


「うん。この世界には死ぬっていう概念がなくて、HPヒットポイントっていうのがなくなると復活場所に設定したところで自動的に復活するみたいだよ」


 石川曰くどうやら宿屋など他にもいくつか復活場所に設定できる施設があるらしい。


「へー、死なないんだねー」


「ただし、PTを組んでて他にHPが残ってるメンバーがいる場合は、魂になってその場に留まるんだってさ」


 なるほど。やられてリアルに死なないことがわかっただけでもありがたい。どうやらなかなか良心的な仕様のようだな。


「魂になったらどうなるの?」


「基本的には教会、蘇生魔法、蘇生アイテム等で復活が可能みたい。それから魂状態は移動することはできるけど、何かに触ったりすることはできないんだって」


「もしかして優奈ちゃん、蘇生とかできるのかな?」


「うん。私ここの教会の責任者みたいだから」


「すごーい!」


 いいなあ……俺も蘇生とかしてみてえ。ただ、よく考えたらあんまり出番自体は少なそうだよな。


といっても村人Aの出番はもっと少ないというか、もう終わっちゃったんだけどね……。


「でも彩ちゃんのほうが凄いよ。勇者だなんて」


「うーん……でも本当によくわかんなくてさー」


「まあ、私もよくわかんないんだけどねー」


 そんなことを言うだけ言って、盛大に笑い出す二人。


 こいつらわかんねえくせに、よくかっこいいとか凄いとか言えるよな。言葉の重みが羽毛以下だな。ふーってやったら、どっかに飛んでくレベル。


「ところで坂野君は?」


「え?」


 二人の会話に心で毒づいていたところ、石川から不意に問いかけられる。話の輪に加わることはないと思っていたこともあり、一瞬何のことだかわからなかったのだが……。


「うん、役柄は何かなって」


「あー……」


 そうだ、忘れてた。この話になったら俺も自分の役柄を明かすことになったりするんだよな……。一体これから先、何回この屈辱を味わうことになるのか……考えただけで気が遠くなりそうだぜ。


「……村人Aだよ」


「えっ、何? 村人?」


 だから聞き返すなよ! 恥ずかしいだろ!


「あ、ああ」


 できる限り、動揺を隠して頷く。


 よく考えろ。全員にかっこいい役柄が与えられるわけじゃない。なんなら俺のような役柄の方が多いはずだ。そうだ。平静を保て、大事なのは明鏡止水の心だ。石川がどんな反応を見せても軽やかに流してみせる!


 とまあ、俺はそんな感じで構えていたのだが、少し間を置いたあとの石川のそれは意外なものだった。


「いいなー!」


 え、いいの!?


「ねー、いいよねー!」


 村人を羨ましがる女子二人。


 お前らの脳味噌ちょっと見せてみろ。完全にとろけてるだろ。


「どこがいいんだよ……」


「だって何もしなくてよさそうじゃーん」


「うんうん」


 お前も彩乃と同じ理由かよ!


「あ、ところでAって、アルファベットのA?」


 怒りで震えそうになる体をなだめていると、石川からそんな質問を受けた。彩乃もだったが、そこは足を踏み入れてはならん領域だとなぜわからんのだ。


「そうだけど……」


「へー」


 不思議そうな表情を浮かべる石川。何となくだが、このあとの展開が読めた気がする。


「どうしてAって付いてるの?」


「やっぱり、そこ気になったんだ!?」


「私もさっき聞いてみたんだけど、わかんないみたいだよー」


「えー、そうなんだ」


 いや、本当は察しが付いてる。おそらく何人もいる村人と区別するために付けられた記号だろう……って、だから言えるか、こんな説明!


「……多分、エースとかそういうことじゃねえの」


「「エース!?」」


 我ながらひどすぎる回避の仕方だったと思うが、なぜか二人は向き合って楽しげにエースと連呼し始める。


 えぇ……そんな食い付いちゃうの?


「村人のエースって……やばくない?」


「やばい、やばーい!」


 何がやばいんだよ。やばくないし……笑うな!


「エース!」


「エース!」


 エースで、はしゃぐんじゃねえ!


 なんだこれ……なんで俺、エースなんて言っちゃったんだろう。とにかくこいつらを切り離さないとろくなことがなさそうだ。


「おい、彩乃、そろそろ探しに行こうぜ」


「へ……何を?」


 嘘だろ。こいつもう記憶から抜け落ちてるってのかよ。


「村長の家だよ!」


「あ、そうだったー」


 テヘペロすんな。こっちはお前達の会話のせいで、怒りのボルテージがマックスになってるってのに。もう一押しされたら、村人が暴動起こすぞ。


「じゃあ、優奈ちゃんまたねー」


「うん。勇者がんばってねー……あ、エースもね!」


 うがぁー!!


 村人Aは人知れず心の中で暴動を起こした。


 石川から少し離れたところで、さっきから気になっていたことを口にする。


「そういや、さっき石川がPTがどうのって言ってたよな」


「うん。どんなぱーてぃーなのかなー。おいしいものいっぱい出るのかなー」


 言って、ご馳走を思い描いてるのだろうか、遠い目をする彩乃。


 こいつ別のパーティーを思い浮かべてやがる……。


「いや、今話してるPTってクリスマスとかお誕生日会とかそういったパーティーとは違うからな」


「えっ、違うの!?」


「違うよ。RPGにおけるPTってのは、いわゆるチームのことを指すんだ」


「そうだったんだ……さっき優奈ちゃんが急にぱーてぃとか言い出したから、私もちょっとおかしいなって思ってたんだー」


 いや、そっちの意味で捉えてたんなら、ちょっとおかしいどころじゃないだろ。


「んで、そのPTの話なんだけど、お前作れないか?」


 ちなみに俺にそういう権限はないようだ。

 だって話が出てから密かに探してみたけど、どこにもそんな項目ねえんだもん。


「ほぇ。ちょっと待ってね、見てみるから」


 そう言って、また眉間にしわを寄せる彩乃。


「んー……なんか、それっぽいのあるよ」


「やっぱり、お前にはあるのか」


 くそっ……差別しやがって。

 とは言え、せっかくだからPTは組んでみたい。


「なあ、試しに俺をPTに誘ってみてくれよ」


「おっけー。やってみるねー」


 虚空を眺め、今回も彩乃はうんうんと唸り始めた。

 がんばれ、初めての勇者! 初めてのRPG!


「これでいいのかなあ」


 ――河野彩乃からPTに誘われています。加わりますか?


「おっ、来たぞ!」


「いぇー!」


 続けて『はい』『いいえ』の選択肢が出現し、『はい』を選択すると『河野彩乃のPTに加わりました』という文字と、彩乃の頭の上に緑色のバーが出現した。

 やべえ、テンション上がる。


「勇ちゃんの頭の上になんか出たー」


「おそらくHPのゲージだな。これでPTメンバーのHPが、今どのくらい残ってるのか大体わかる」


 俺の説明に彩乃は少し呆けたあと、ポンと手を叩く。


「……なんか便利っぽいね!」


 なんかわかってないっぽいね!?

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