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勇者な幼馴染と村人Aな俺  作者: 松田利斗
初めての勇者
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 ――次の日の朝。


 俺は今、宿屋の前で一人佇んでいる。


 昨晩先生と別れた俺達は、何とか倒壊を免れていた宿屋に宿泊した。


 男の俺は当然ながら女子達とは別の部屋で寝ることとなり、朝待ち合わせをすることになったのだが――どんだけ待っても誰も出て来ないとか!


 明確に待ち合わせの時間などを取り決めてなかったから仕方ないとはいえ、もうそこそこ日も登って来ている。一体いつになったら出て来るのか……。


 俺だって疲れなども考慮した上で、のんびりしたつもりだったんだがなあ。


 ちなみに途中、部屋まで呼びに行くことも考えたが、ドア開けて着替え中で爆発とかもありそうなのでやめておいた。


 まあ、実際はノックすりゃいいだけの話なんだけどさ。ただでさえ、昨日先生がしでかしてくれた件のせいで、某お二人さんからは目の敵にされてそうだしな。危ないことは怪我のうちとかなんだとか。


 そんなこんなで俺は暇を持て余し、ただひたすらぼんやり辺りを眺める。


 もしかすると『朝起きたら普段通りの世界に戻ってるかもしれない』などと思ったりもしたが、やっぱりそんなこともなく。

 目が覚めた場所は自分の部屋でもなけりゃ家でもなく、外に出て見えた景色も当然見慣れたそれとは全く異なるものだった。


 そしてその景色と言えば、昨晩ドラゴンにぶっ壊されまくっていたはずなのだが、驚くことに建物は早くも全てが復旧されていた。

 俺達が寝ている間にきっと先生達が頑張ってくれたのだろう。昨日の喧騒がまるで嘘のようだ。


 こうしてみると、これまで過ごした風景と違うことを除けば、静かで平穏な朝と言えなくもない。何しろ遅刻の心配はなく、当然朝一から校門にダッシュなんてこともないのだから。


 しかし一晩明けて冷静になってみると、危ない橋も渡ったもんだ……。その上、色々と勢い任せの言動ばかりで、今考えるとこっ恥ずかしい。


「あら坂野君、早いわね」


 昨晩のことを思い出し、一人感慨に耽っていると後ろから会長に声をかけられた。


 それに続き、ぞろぞろと宿屋から出て来ては『おはよう』と挨拶を投げるメンバー達。


 ったく、やっと来たか……。


「いや、早かねえだろ。俺がどんだけ待ったと思ってんだよ……」


「しょうがないでしょ。男と違って女は準備に時間がかかるもんなのよ」


 俺の文句を受け、山本がさも遅れて当然のように言う。


 だったら、その分もう少し早く起きればいいだけの話だろ――そう思いつつもやはり口には出せない。


 なにせうっかり言おうものなら、朝一から面倒なことになりかねないからな。

 ……これが逆に俺が待たせた場合は批難轟々に違いないから口惜しいわ。


「勇ちゃん、ごめんねー」


 爽やかに謝る彩乃の髪の毛は、いつも通りあちこち寝癖がついたままだ。もう見慣れすぎて実はこういうヘアースタイルなのではないかと思うようになって来たとか、来ないとか。


 実際のところは聞くまでもなく、こいつがなかなか起きなくて、出て来るのが遅くなったといったところだろう。状況証拠も十分だしな。


「まあ、お前の寝坊は今に始まったことじゃないからいいけどさ、よくそこまでグースカ寝れるよな……」


 ちなみに俺は環境が変わったのと、色々ありすぎたせいか全然寝付けなかった……。


「えっ、なんで私が寝坊したってわかったの?」


「自覚ないの!?」


 彩乃への突っ込みに、顔をしかめる山本。


「あんた、朝っぱらから声でかいわね……」


 暇つぶしも何もない状態で、延々と待たされたら声もでかくなるわと言いたい。


「学校もなければ遅刻もないんだし、別に寝坊したって問題ないでしょう」


「いや、問題あるだろ。俺随分と待たされたんだけど?」


 そんな俺からの苦情に、きょとんとした表情を浮かべる会長と山本。


「別に問題ないわよね」


「ないわね」


「そりゃ、そっちはねえだろうよ!」


「じゃあ、皆ー今日もレッツゴーだよー」


 俺が叫ぶ隣で、拳骨を天に突き上げ、リーダーっぽく声を張った彩乃。


 ばかな。寝坊して待たせた張本人が既に話を聞いてないだと!?


「「「おー」」」


 そして同じように手を上げ、それに応じる俺以外のメンバー達。


 ……今日も朝からなんてこっただよ。

 でも彩乃が自主的にやる気になってるのはいいこと、かな。


「んで、レッツゴーはいいけど、これからどこに向かうのか知ってんの?」


「知らないよ」


「ぅおい!」


 答えはわかっちゃいたけども……そんなんで、よくレッツゴーとか言えるよな。


「ええっと、次はですね――」


「ちょっと待って。君が教えるとネタバレになっちゃうからさ」


「別にいいでしょ、そのくらい」


 次に向かう場所を言おうとする春奈ちゃんを止めると、山本がうんざりした顔をする。


 我が友よ……お前、いつからそんな腑抜けたことを言うようになってしまったんだ。


「いや、そういうのはちゃんと情報収集をして知るべきだろ」


 それはゲームをやる者として、最低限の礼儀というものだ。


「んー……私、お腹が減ったかもー」


 ゲームの王道を説く横で、またも脈絡のない発言が彩乃から飛び出す。


「おい……俺は今、結構大事なことを――」


「それなら、まずは食事にしましょうか」


「そうね。腹が減っては戦ができぬって言うし」


「賛成です」


 再度彩乃の言葉に次々と乗っかる仲間達。


 確かに彩乃は勇者でPTリーダーではあるけども。そして確かに俺も腹は減ってるんだけども。


「んじゃ、坂野は情報収集がんばってねー」


「ちょ……俺も飯は行くって!」


 手を振り、置いて行こうとする皆の後を慌てて追う。


 誰も食べないとは言ってないのによ。ってか、俺だけ昨日から何も食べてないことも知ってるくせによ!


「よーし! じゃあ、皆で朝ご飯にレッツゴー!」


 澄んだ空に、勇者の号令が響き渡った。


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