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勇者な幼馴染と村人Aな俺  作者: 松田利斗
初めての勇者
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「まっ、じゃあとりあえず坂野のことはもういいわ」


 軽いやり取りにより少し緊張感がほぐれたところで、山本がまたしてもとんでもないことを言い始めた。


「ぅおい! そんなかるーい仲間の斬り捨て方あっていいのかよ!」


 こいつ、さっきは心配そうにしてくれてたのによ。


「誰も斬り捨てるなんて言ってないでしょ」


「いや、もういいわって、お前……」


「だって判断待ちってことは、とりあえずは現状維持なわけじゃん。やれることはもう何もないんでしょ?」


 そう言って山本は俺からGMに視線を移した。


「そうですね、今できることはありません」


「なら、まずは外の敵をどうするかよ」


 なるほど、そういうことか。確かにできることから潰していくというのは間違いではないが。


「でも……俺、不安で押し潰されそうなんだけど……」


「勝手に一人で潰れてなさい」


 俺の不安な気持ちを一言で切って捨てる会長……優しさが恋しいです。


「そっちの廊下にいる敵はバグじゃないのよね?」


「はい、正常な動作を確認しております」


「あいつ攻撃が効かないんだけど、あれで本当に正常なの?」


「攻撃が効かないという表現が正しいかどうかといったところですが……ともあれ、あれが正常であることは間違いありません」


 ふむ……ここまではっきり正常と言うのなら、勘違いということはなさそうだ。


「何か特殊なイベントとかじゃないわよね?」


 続けて質問する山本に、GMが渋い顔をする。


「ゲームの進行や攻略については、基本的にアドバイスしてはいけないことになっておりまして……」


「まあ、そうでしょうね……」


「……参ったわね」


 このままじゃ、また立ち往生になっちまう。少しでも情報をもらわないと。


「ちょっとくらい教えてくれてもいいだろ。もう手詰まりなんだよ」


「そうですねえ。ゲームが進まないのはこちらも望んでないんですよね」


 そう言ってGMは少し悩む素振りを見せたあと、再度口を開いた。


「実はあの敵、通常攻撃がほとんど効かない代わりに、魔法攻撃や属性を帯びた武具などがよく効く設定になってるんです」


「あー……」


 そうか、ただ物理攻撃に強いってだけだったのか。


 GMが教えてくれたネタバレも聞いてみたらどうということはない、ゲームではよく見られる設定の一つだった。


「……すっかりそういうの頭から抜け落ちてたわ」


 山本も俺と同じように失念していたことを悔やみ、会長や瑠花も渋い顔で頷いた。


「え、なになに? どういうこと?」


 彩乃だけが、もはやお馴染みになりつつある反応だ。


「つまりバグや無敵などではなく、ちゃんと倒せるってことだよ」


「しかしタネがわかれば、どうって話でもなかったわね」


「まあ、よくあることだからなあ――」


 と、俺はここで重大なことを思い出す。


「――って、俺ら攻撃魔法使えるやついなくね?」


 当然ながら、属性付きの武器など持っているはずもない。


「そ、そういえば……」


「……結局倒せないってことじゃないの」


「そりゃ、手詰まりにもなるわ」


 倒せる手段を持ってないんだから、無敵も同然だ。


「なに? どうなったの?」


「要するにだな、手品のタネは教えてもらったものの、実際にやろうとしてもできないようなもんだ」


「え、勇ちゃん、手品するの?」


「いや……」


「ん、どゆこと??」


「まあ、気にするな」


 喩えて説明してやるも、余計わかりづらかったのか、目がハテナマークの彩乃。今回は少し自信があったんだが残念!


「……ってか、これってハマりじゃねえの?」


「はい?」


 俺の言葉に意表を突かれたのか、とぼけた返事をするGM。


「いやさ、倒せる手段がないんだから、完全に手詰まりなわけじゃん。どうすることもできない状況に陥るとかゲームとしてどうかと思うんだが……」


 せめて救済措置みたいなものがあるならともかく、そういうのもないんじゃどうしようもない。


 「うう……今更ですが、勇者さんのレベルをあと一上げてもらえていれば、攻撃魔法を覚えたんですが……」


 そりゃ本当に今更だ。モンスターが消えた今、もうレベルは上げられない。


「うーん、そういうのも全部含めて、とにかくハマりの状況ができるのはどうかって話なんだけどなあ」


「さすがにこの段階で魔法が必須になるなんて思いもしてなかったしね」


「そう、ですよね……」


 俺と山本の言葉に対し、消え入るような声で縮こまる少女。


 なんだかこっちが悪いことしてるみたいな気持ちになって来たんだが……。


「何か他に方法はないの?」


 罪悪感に苛まれる俺の横から会長が問いかける。


「……ない、かもです……」


 小柄な体を更に小さくしていくGMに、ついに会長までもが言葉を詰まらせる。


 このゲームの運営あざといな! こんな子がGMじゃ、クレームが出せないよ!


「……ここはTVとゲームの回収を撤回してもらって、皆で――」


「だから、お前は黙ってろって」


 俺の叱責に妹は『ぶう』と頬を膨らませた。よくこの空気の中でそういう言動に至れるな、お前は……。


 そこで、しばらく考え込んでいたGMが、意を決したように口を開く。


「そう、ですね……こんな状況に陥ったのは、こちらの不手際でもありますし……今回は私が何とかします」


「お、まじで?」


「はい、お任せください」


 強く頷くGMに、一安心といったところだが。


「ところで失礼な質問になっちゃうけど、あなたに何とかできるの?」


 ああ、そういえば、この子修正とかはできないって言ってたよな。


「大丈夫です。要は今あるデータやシステムの範囲内で解決すればいいわけですから、っと……」


 山本への回答として、GMは何やら薄汚れた杖を取り出した。


「……杖?」


「はい、これをお貸しします」


 こちらに差し出されるかなり年季の入ってそうな杖。


「ごめんなさい、私はいいわ」


「いくらなんでも汚すぎでしょ……」


 それを見て、会長が真っ先に受け取りを拒否し、山本は悪態を吐く。


「お前ら、そういうこと言うなよ。せっかく出してくれたってのに」


「だって、相当汚いわよ」


「んー……まあなあ」


 確かに汚い。それは認めざるを得ない。何しろ埃かぶってるし、あちこち染みも付いてるし、女の子からしたらこれは直には触りたくないだろう。実際GMはさっきまでしてなかった手袋しちゃってるしね。


「待ってください。これは由緒正しい、古の杖で――」


「要するに超古いってことでしょ」


 GMの説明に被せるように言う山本。


 言ってることは間違いではないのだが、なんというか身も蓋もないな。


 そんなやり取りをしていると、彩乃が何かに気付いたように目を見開いた。


「え、ちょっと待って! 虫が付いてるよ、それ!」


「ええ?」


 彩乃が指差す先、杖の先端あたりを見ると、何やら芋虫らしき生物が蠢いていた。


「きゃあああああ!」


 絶叫と共にGMの手から放り投げられた、由緒正しい古の杖。


 そして黙り込む一同。


「……と、とにかくそれを使えば、外の敵を倒せますから」


 打ち捨てられた杖に視線は注がれるものの、誰も拾おうとしない。


「あの、聞いてます?」


「私は結構よ」


「私もいい、杖ってキャラじゃないし」


「虫、無理!」


 会長、山本、彩乃と三者一様にそっぽを向く。


「ええっ……」


 GMのか細い声が途切れたあと、今度は全員の視線が俺に集まる。


 どんだけ不人気なんだよ……かわいそうすぎるだろ、古の杖。同情にも似た気持ちを抱きながら俺は杖を拾い上げる。


「うわっ、勇ちゃんきったなー」


 誰も拾わないんだから、しょうがないだろ……。


「これ、俺でも使えるのか?」


「はい、大丈夫なはず……です」


 GMは答えながら、俺から離れるように後ずさる。


 ったく、失礼な……。


 と、杖の先を見ると、まだ芋虫が元気に這っていた。


 なるほど。この子、まだ落ちてなかったのね。


「……」


 杖を力強くぶんぶん振ると、虫はポトリと振るい落とされた。


「きゃあっ!」


 それを見て飛び退き、こちらを信じられないような目で見るGM。他の面々も血相を変えて距離を置く。


「ちょっと、あんた……ッ!」


「ゆ、ゆ、勇ちゃん、な、何……!」


「いや、そりゃ虫は落とすだろ」


 そこまで苦手ってわけでもないが、手に乗ってこられたらさすがに気持ち悪いしな。


「なんでそこでやるのよ。そういうことはもっと離れたところでやりなさい」


「もし瑠花に付いたらどうする気だったの!」


 四面から怒号が飛び交う。


「ご、ごめん……悪かったよ」


 そこから全員が同時にあれこれと文句を言って来たが、俺は聖徳太子じゃないのでまるで聞き取れなかった。

 とにかく物凄く怒ってることだけはわかったので、ひたすら平謝りしていると、しばらくして皆は落ち着きを取り戻した。

 めでたし、めでたし――――じゃなかった。


「それで、これどうすりゃいいの?」


 それと、なんで皆俺から離れてるの? 虫はもう付いてないよ?


「それには魔法の力が宿ってまして、使用すると炎属性の魔法が発動するんですよ」


 なるほど、道具として使う感じか。


「ちょっと使ってみても大丈夫かな?」


「はい、一応人には向けないでくださいね」


「もちろん」


 俺は皆から少し距離を取り、何もない空間に向けて杖を使用すると、小さな火の玉が射出された。


「おお、すげえ!」


 なんだか魔法使いになった気分。そうだよ! ゲームはこうでなくちゃ!


「まあ、そんな感じです」


「よーしよし、わかった! じゃあ、皆行くか!」


 俺に付いて来い! あんなやつ、蹴散らしてやるぜ!


「なんか、俄然張り切り出したわね」


「気持ち悪い……」


 ……君達って、人のやる気に水をかけるのうまいよねー。

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