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「ずびばぜんでじだ」
今俺達の足元には女子達の手により形容しがたい惨状を経た上、土下座して謝る上村がいる。
自業自得とはいえ恐ろしい話やでほんま。
あ、女子達と言ってももちろん彩乃は止めてたよ。俺は何も言えなかったけど、はは。
「まだ、殴り足りないわね」
まだ足りないんですか、そうですか。
拳を鳴らし、吐き捨てる山本を横目に思った。言動に細心の注意を払わねば、明日は我が身やも知れんと。
「待ってくれ、俺は洗脳されてたんだって。もう解けたから、二度とあんなこと言わないからもう勘弁してくれ!」
正座のまま手を合わせ拝み倒すも、見下ろす二人は冷ややかな目を送り続けている。
「何? あんた洗脳されてて、言葉は全部自動的に口から出たとでも言うの?」
「冗談も休み休み言いなさい」
「じ、自動というわけじゃないけど、ロールプレイだよ。ほら、キャラ作りってやつで――」
「つまり!」
山本の大声に上村はビクリと体を震わせる。
「何号とか胸が小さい順とか、全部あんたのアドリブってことよね」
「…………」
そんな山本の詰問に上村は押し黙り、全身はプルプルと震え出した。微妙に開いた口元からは涎でも垂れそうな勢い。
あ、いや、よく見たらもう垂れてたわ。きったね。
「やっぱり二度としゃべれなくなるくらい殴っとく?」
「許して! 助けて! 許して、助けて!」
地獄行きの提案に対し、一心不乱に首を振る上村。
必死なのはわかるが、唾やら涎を飛ばすんじゃない。もし女子の誰かに付いたら本当にやられるぞ、お前。
「もうやめてあげなよー。かわいそうだよー」
「そうね、やめましょう。もうこんな汚物に触りたくないし、関わりたくもないわ」
「確かにこれ以上こいつに触ったら腐りそうだしね」
彩乃の制止もあり、どうやら助かったようだがやめてあげる理由が凄惨すぎる。
「大丈夫か。殴られるよりも、厳しいお言葉頂いちまったな」
「うう、返す言葉もねえ……けど、ちょっと気持ちよかったかも」
俺の慰めに対し涎を手で拭いながら発したセリフは、友達を辞めたくなるレベルだった。というか俺の友達にこんなのいたっけレベルかも知れん。
「気持ち悪すぎるわ。さすがの俺も引くぞ……」
「はは、冗談だって」
さっきからお前冗談のK点越えまくってんだよ。だからそんなになってんだよ、いい加減わかれよ!
「で、瑠花はあの扉の向こうか」
いつまでもこんなアホに付き合っている暇はない。
しょうもない過程とはいえ、一応ここのボスは倒されたわけだ。ここにきたその目的を達成すべく、俺は奥にある扉に向かって一歩踏み出したのだが、
「ちょっと待ってくれ」
と、上村に服を掴まれ呼び止められた。
「何だよ」
「俺、設定だとこのあと屋敷の外までお前らに付いて行くことになってるんだけど」
上村の発言の途中、お前らに付いて――あたりで、それまでこちらのやり取りを完全に無視していた女子二人の目と表情が再び厳しいものに変わった。
「いや、それはちょっと無理なんじゃ……」
会長と山本の視線がやばい。目から光線かなんか出してるんじゃないかってくらいやばい。
「でも、そうするとこのあと俺どうしたらいいかわからんし……」
「う、うーん――」
「あっち」
さすがに気の毒な感情が少し沸いてきたのだが、それは無機質な会長の言葉でかき消された。
「「え?」」
「あっち」
短く言いながら、どこぞを指差し仁王立ちする会長。
「な、何がでしょう……」
「町、あっち」
上村がおっかなびっくりしながら聞くと、町という情報が加えられた。
ってか、雑すぎる……方角、多分合ってないし。
「す、すいません。もう少し――」
「あっち」
「あの――」
「あっちに行きなさい!」
「は、はいぃ!」
最後の一喝でついに上村は敗走していったとさ。
達者で暮らせよ……。




