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勇者な幼馴染と村人Aな俺  作者: 松田利斗
初めての勇者
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 西方へと進んでいく最中、俺達は一軒の古びた小屋を発見しそこで足を止めた。


 ぱっと見たところ屋敷というにはどうにも小さい。


 とりあえず俺達が目標としている場所じゃないことはわかるのだが、看板など指標となるものがなく、どんな施設なのか判断がつかなかった。


「ここって何かなー?」


「わからんがとりあえず入ってみるか。簡易的な宿屋かも知れないし」


 長い道程の途中に宿屋などが設置されているのはよくあるパターンだ。それなりに戦闘も重ねてきたし、ここでもし休息が取れるなら取っておいた方がいいだろう。


「休めるの?」


「まあ、宿屋じゃないにしても休憩くらいはできそうだし、人がいればこの先の情報くらいは聞けるだろ」


 そんな軽い気持ちで、小屋のドアノブに手を伸ばしたのだが、


「嫌よ……」


 そんな会長のつぶやきに、俺は思わず手を止めた。


「え?」


「麻衣ちゃん、どうしたの?」


 思いがけぬ否定の言葉に、彩乃も驚きの声を上げる。


「だってもし宿屋だとしたら、こんなところで坂野君みたいなのと一晩過ごすってことよね。私そんなの絶対に無理だわ」


「み、みたいなのて……」


 俺はノブにかかりかけていた手を、おずおずと引っ込める。


 ひょっとしてだけど、いやこれはひょっとしないかもだけど……。


「会長……もしかして俺のこと嫌ってる?」


 そんな俺の質問に会長は狐につままれたような表情を浮かべる。


「え? 別に嫌ってないけど」


 その反応や表情を見る限りは、嘘を吐いてるような感じではない。ひとまずはそれにほっとしたのだが、


「どうしてそんなことを聞くの?」


 どうやら今度は会長が俺の質問を不審に思ったようだ。


「あー……いや、俺と過ごすのは嫌って言うからさ」


 普通はあんな言われ方したら、嫌われてるんじゃないかと思ってしまうよな。


「それは嫌いだからってわけじゃないわ。こんな小さな掘っ立て小屋じゃ、まともに部屋も別れてなさそうだったから」


「でも、そういうのってなんか修学旅行みたいで楽しそうじゃなーい?」


 お前はこの冒険すらもきっと旅行気分なんだろうね。


「うーん……彩ちゃんはそうかもしれないけど、やっぱり私は異性と同部屋っていうのは少し抵抗があるわ」


「そっかー」


 なるほど。まあ、そりゃそうだよな。


「そういうことで、別に嫌いってわけじゃないから誤解しないで」


「おう」


 嫌われてないのなら何も問題ない――と思いきや、


「まあ、特に好きでもないんだけどね」


 会長がわざわざ声を大にしてそう付け加える。


「んー、つまり普通ってこと?」


 そしてやめればいいのに、会長の発言に乗っかる彩乃。


「お前いらんことを……」


「そうね、正確に言うと中の下ってとこかしら」


 ふむふむー。中の下と言えば半分以下、つまりどちらかというと嫌いな部類なわけか――って、なんだこれ!? 完全に人の心を傷付けるだけの蛇足だろ!


「中の下だと真ん中より下ってことー?」


 そしてお前はわざわざ口に出して確認するんじゃない。


「そうね。どうしてもそうなってしまうわね。特に嫌いな部分があるわけじゃないけど、色々な積み重ねを考えると真ん中より上にはならないわ」


「なるほど。塵も積もればってやつだねー」


「それだともう山になっちゃってるよね!?」


 俺の悲痛な叫びに『あ、そっかー』と言って笑い始める彩乃。


 いや、全然笑えないし。こういう女子トークはせめて当人がいないところでやってくれないか……。


「ってか、俺ってそんな積み重なるほど嫌なとこ出てるか?」


「いたるところでジャブのように放ってくるわね」


「うん。私も結構被害受けてるよー」


「ま、まじかよ……」


 嘘だろ……全然自覚がねえ。

 このまま嫌われてぼっちにされても敵わんし、話を聞いて修正できそうな部分は直していかないと。


「すまんけど……例えばどんなところが駄目だった?」


 聞くと、女子二人は顔を見合わせたあとこちらに向き直り問題点を告げる。


「例えば、私のゆうしゃの件とか」


「例えば、私のスラちゃんの件とか」


 ……おーい。


「ストーップ!」


「「何?」」


「いやさ、その二つってむしろ君達の方に問題があった件だよね」


「……確かに坂野君が原因とまでは言わないけど、坂野君が突つかなければどちらも問題は発生しなかった件よ」


「んな、あほな。問題が発生してたから口に出したんだろうが」


 俺の反論にむっとした表情を浮かべる女子二人。


 そ、そんな顔されましても、俺は悪くないですし……。


「あのね、勇ちゃんはデリカシーがないんだよ」


 珍しく彩乃が眉間にしわを寄せながら言う。


「はぁ?」


「ドロドロが付いて嬉しい女の子なんていないんだからね」


 いや、男の子だってドロドロ付いたら嬉しくねえし……。


「そうね。まるで紳士的じゃないわ。坂野君はもう少し相手の心情を考えて行動するべきよ。特に女性が相手なら、なお更ね」


「えぇ……」


 というかなんでこんな話になってきてんだろ。そもそも最初はドアノブに手伸ばしただけじゃん。勇ちゃん意味わかんないんだけど……。


「「わかった?」」


 思いもよらぬ展開に戸惑っていると、二人から同時に凄まれる。


「は、はい」


 そして俺は決して悪くないはずなのに思わず頷いてしまう。


「仕方ないわね。今回は許してあげるわ」


「あげるわー」


「……はい」


 そういえば昔、女の子が怒ってたらとりあえず『はい』と言っとけって、じっちゃんが遠い目をして言ってたっけ。俺少しだけわかった気がするよ。

 

「それじゃあ、そろそろ中に入りましょうか。坂野君、開けてちょうだい」


「はい……えっ?」


 って、結局中には入るんかーい!


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