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I・COLOR  作者: かたお
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決意

「生きる気力」とはなんだ?

「生きたいと望む力」=「生きる気力」か?いや違う。それならば周りの人間達はきっと赤だらけだろう。だって人間達は「生きたいと望む」事を基本的にしないから。生きていること、生き続けることは意識して、望んでやっていることではないのだろうと、私は思う。

では「生きる気力」とはなんなのだろう…。

俺は1つの結論を見いだした。「死にたいと思っている」「死にたくはないけど受け入れざる終えない」が赤だと考える。待てよ、結局ふりだしに戻っただけじゃないか。

これはもう少し調べた方がいいだろうか…。

彼女が「持病持ち」などで「死を受け入れざる終えない」のか何らかの理由によって「死にたい」と思っているのか…。

普段の彼女の振る舞いからはどちらも感じ取れない。

……画鋲事件も友妃とかいう友達が欲しい女の子が友達作りのためにしかけたイタズラが毎回本人が来る前に男子達により回収されてしまっていただけだしな。

え…あれ?今考えると実篤はどうして「真弓の靴の中にある画鋲」が見えたんだ…?いや、詮索するのはやめておこう。後戻りが出来なくなる気がする。

えぇいもとい…!!とりあえず今は真弓の事を考えねば。



「…い、直哉…。」



どうしたらいいんだ?まずは彼女の悩みなどを周りの人間から集めるのがいいかな。



「直哉…、き…えているのかっ!!」



だけど下手に詮索すると彼女にむしろ負担を与えてしまうかもしれない…。うーん…!



「直哉ぁっ!!お前聞いとるのかぁっ!!」



「うぇっ!?す、すみません!!考え事してました!」



しまった…、今は戸尾先生の世界史の授業中、その授業をまったく聞かずに真弓の事ばかりを考えていた。



「答えろ直哉!!世界が一度核戦争に限りなく近づいた事件があるっ!!それは何か言ってみろ!!」



な、なんの話をしていたんだ…?核戦争ってことは冷戦か?つまりソ連とアメリカ…社会主義と資本主義…。この手の話はゲームでやっている。



「き、キューバ危機だと思いますっ!!」



「ふん…いいだろう、今日は許してやる。だが次は無いと思えよ。」



戸尾先生は呆れたような顔をしている。…なんだか申し訳ないなぁ…。

隣の席の真弓に笑われ、有島を見ると笑いを堪えていた。実篤は……は?シャーペン持ったまま器用に肘ついて頭を支えてまるで勉強しているようなポーズで寝てやがる…!!

な、なんて執念なんだ…!ただ授業を受けたくないという行動原理だけで俺達にできないことを簡単にやってのけるっ…!そんなに勉強が嫌いか…!?


その後戸尾先生のチョークを額にくらった実篤であった。





「志賀くん、一緒にご飯食べよう〜。」



「おぉ〜武郎、俺もいまなおやんを誘おうとしてたんだぜ〜。…………つのる話しもあるわけだし。」



有島と実篤がそれぞれお弁当とレジ袋を持って近づいてくる。

つのる話しは無いがな。

有島が自分の椅子を持ってきて、実篤は前の席に逆方向にまたがるように座る。



「うーん…、俺今日朝慌てててさ弁当買い忘れちゃったんだよな…。だから購買行ってくるから先食ってて。」



「んー。ごくん。わぁった!!」



実篤が牛乳を飲みながら話す。あぁ…あれ牛乳を毎日飲んでるからでかいのかな。

実篤は慎重が187くらいある。俺が170ちょい…有島は168(自称)である。

実篤は正直デカイ。とにかくデカイ。

まぁ今は関係ないが。


教室の扉へ向かい扉をあける。そこには見慣れた奴の見慣れない姿があった。

……。

友妃がなんだかモジモジしている。今までの経験から察するにお手洗いじゃないのは確かだ。

ただ今日の彼女は髪型をポニーテールにしており…その…なんだか凄く可愛かった。

彼女の手にはお弁当がある。あぁなるほど…真弓と一緒に食べようとしているのかな?

そして恥ずかしがり屋の友妃は教室に入れずそこでずっとモジモジし続けていたのだろう。



「うっす友妃、大丈夫なのか?」



コイツ朝から俺の部屋で寝てたし。

起こすためとはいえ水の中に突っ込んじまったしな。



「お、おう!!大丈夫だ!!ちゃんと直哉の部屋の鍵は閉めた!」



「お〜いなおや〜ん?少し話をしようかぁ〜?」



実篤顔を近づけるなキモい。そして友妃は何を余計なことを口走っているんだろうか。



「へぇ…志賀君もスミに置けないなぁ…。」



有島が尊敬の混じった眼差しでこちらを見てくる。頼むからこの件についてはもうスミに置いてくれ。



「わりぃな友妃、今から俺飯買いに行かなきゃだからさ。真弓には自分から話しかけてくれないか?」



そう言って駆け出そうとするが、友妃により止められる。…たまには一人で行くのも勉強だぞ?



「な、直哉…その…これお弁当作ったんだけどさ…。ほら!今日の朝色々迷惑かけたじゃん!?」



まぁ、腕を持ってかれそうにはなった。



「だからお詫びと言うか…あの…。」



いや、あのね友妃。お詫びとか俺は気にしないんだ全然っ!そのご好意はとてつもなくありがたい。

だが、お詫びなら今すべきであろう。

………後ろから殺意を放っている大木に殺されそうな私に。



「なぁあおやぁああんっ!?なにお前調子こいとるんじゃボケェ…、なんでお前ばっかモテるんや!!ありえへんやろ!!なんでや!!なんで俺を見殺しにしたんや!!」



「知らねぇし!!俺モテてねぇし!!」



「うるさいな!!モテる奴は皆モテへんモテへんぬかしよる!!」



なんで実篤涙目なんだ…。そんなに必死なのか…。

俺もここ一週間で今まで経験したことないくらい色んな事を体験したが…。



「…実篤、悪くないもんだぜ。」



「ちきしょおぉおおおお!!」



その場に187cmもの大木が崩れ落ちた。

ちょっと勝ち誇った気分になった。まぁ実篤はイケメンだし長身だから性格さえどうにかなれば絶対にモテるよ。いや、モテてるのかもなモテへんモテへんぬかしとったのは実篤本人だと、俺は胸のなかで思うのであった。


あ、そうだ、友妃がお弁当作ってくれたんだったな…。

友妃から弁当箱を受けとると彼女は凄い速度でどこかへ去っていってしまった。

え…?何その反応。

…この弁当箱時限爆弾か何かが仕掛けられてんじゃねぇだろうな。

ともかくこれで昼食代が浮いた上にうめぇ飯にもありつける。

泣き崩れた実篤を有島と一緒に教室へ引きずり俺の前の席に座らせる。

自分の席に座り落胆した実篤を正面に見ながら弁当を開ける。色とりどりなおかずが凄く綺麗なまさにうまそうな弁当だった。



「うわぁ…、あの娘料理も上手なんだな。」



有島が尊敬のような眼差しを弁当に向けている。そう言う有島の弁当もザッツお弁当みたいなかわいらしい弁当だった。



「有島のはなんだかかわいらしいな。」



「あぁ、毎朝妹と姉さんが作ってくれるから。」



正面からぐはっ!?という声が聞こえてきた。実篤ー、実篤ぅー?返事がない、すでに屍のようだ。

しかし被害を被ったのは実篤だけではなかったようだ。遠い入口付近でご飯を食べていた宮下(みやした)、通称「ロリコン」が手をわなわなと震わせていた…あれ?コイツもノックアウトされたかと思ったらむしろいきり立っている…?

いや、何も見ていない事にしよう。

俺は箸をとり友妃の作ってくれた弁当の玉子焼きを食べる。あ、砂糖だ。玉子焼きには俺の知る限りでは甘い砂糖を入れたタイプとダシを入れるタイプの二種類がある。

俺は前者をこよなく愛している。まぁ、たんに甘いものが好きなのだが。

こうして、昼食の時間は実篤が起きること無く過ぎていった。




さて…、どうしたもんかな。

俺はまた考えに耽る。現在は英語の時間。ちっさい先生、あだ名はヤスちゃん先生が上まで届かない黒板に頑張って文字を書こうとしている。

この人の授業はサボりやすい。理由としてはその身長故にあろうことか立っていても生徒を一望できないからである。

……あと入口前でテンションが上がりまくっている宮下(ロリコン)のおかげで他の生徒まで手が回らないのだ。

だから俺は考える事ができる。まずは彼女、真弓についてどう知るかだ。彼女を尾行したり知人に話を聞いたりするのが一番だろう。だが尾行ってなんだかストーカーっぽくないか?でも彼女と普通に接しているだけでは彼女についての情報はあんまり得られない。

では、知っている人間に聞くか…、いや、これも前者とほぼ同じであろう。だって真弓から見れば俺も知っている人間も同じ「知人」だからきっと深く彼女の事を知らない。

くそ…、いい案が思い付かない…。何も先に進まない。彼女の事を本当に深く知っている人、いや彼女の家族とか彼女の周りにも詳しい人物の協力が欲しくなる。そんな人、彼女の親族か幼馴染みでもない限り…、いや待てよ…、あの人なら或いは、だが協力してくれるだろうか。うちの担任「戸尾先生」は。



「こら!志賀君、ちゃんと授業を受けているのかね!?」



先生の声で現実に戻される。というかなんで見つかったのだろうか…?

疑問に思い視線を「見えるはずの無い」先生に移すと先生はイスの上に立っていた。なるほどその手があったか。



「戸尾先生の時間も上の空で授業を受けてなかったみたいですね!!」



先生の高いアニメ声が響き渡る。その後俺は先生に罵倒され続けた。が、なぜ宮下、お前は俺に対して羨ましそうな視線を向けるのだ。そういう趣味なのか?

まぁ、考えない方がいいのかなと思い、俺は考える事をやめた。




授業が終わって皆が各自片付けをしながら帰りにどこかに寄っていくだの塾に行くなど他愛もない会話をしている。

俺はというと背中に嫌な汗を流しながらどうやって戸尾先生から情報を聞き出そうか考えていた。

すると教室の黒板上に設置してあるスピーカーから。



『2-1志賀!職員室まで!!』



というアナウンスが流れた。あれは戸尾先生の声だ…。



「なおやぁん何やらかしたんだぁ〜?今の戸尾の声じゃん。」



実篤が面白そうに笑っている。腹いせだろうか。だが先生に呼ばれるとしたら授業を聞いてなかった事位だろうか。だとしたら…犯人はヤスだ。

こちらから行く手間こそ省けたもののまだどうやって聞き出そうか考えられていない。

渋々席から立ち上がりニヤニヤした実篤をよそに教室を出て職員室に向かう。


真弓は既に赤色…もしかしたらすぐ死んでしまうかもしれない。だとしたら時間には文字通り一刻の猶予も無い気がする。


正直、戸尾先生なら…、何かその少ないとしても「俺の知り得なかった」情報を持っていると思う。

…もちろん成績なども含めて。

まさか成績が悪いから死にたいだなんて事はないだろうが…。

どちらにせよ、どうやって聞き出すかだ。あの先生は…隙が無い気がする。言葉で論破するのはまず無理だろう。

じゃあどうしたら…。などと考えていたら既に職員室に着いてしまっていた。

えぇいままよ。こうなったら意地でも聞き出すまでだ…!!どうやるかはわかんないけど!!

謎の決意をし職員室の扉に手をかける。なぜだろう扉の向こうからすごいプレッシャーを感じる。



「失礼します…、戸尾先生居ますか…?」



居る、物凄いオーラを漂わせながらそれでも静かに座っている。周りの先生達は少し避けているように見える。



「…はぁ。やっときたか志賀。」



「はい、授業中考え事をしていてすみませんでした。」



「……、お前の考え事とやらは授業を二つ潰しても足りないような、そんな考え事なのか?」



思いっきり怒鳴られるかと思ったらむしろ心配させてしまった…のだろうか?

先生は腕を組み頭を捻りながら苦い顔をしている。



「いろんな先生から話を聞いていた。『志賀の様子がおかしい』と。」



そんなにいろんな人に心配させていたのか。なんだか申し訳ないな。

先生は再度ため息を吐き凛とした表情であくまで落ち着いた声色で語りかける。



「なにか…、あったのか?一応私は君と母親の関係を聞いてはいるからな。」



あ、いらぬ心配をさせてしまった。先生は俺に対する母の感情が恨みであることを知っている。

母親とはもう何年も話していない、何かあったどころかもうこれ以上悪化する事もない。

たぶん、回復することもないだろう。



「いえ、母絡みの事では無いので。」



「そうか…。」



沈黙が訪れる。先生は指を組み頭の前にそえる。なんだか某ロボアニメのキャラクターがやりそうなポーズだ。

空気が重い、ずっしりとした重圧を感じる。まるで重力…もしくは引力が、この教室だけ強いような、そんな錯覚さえ覚える。



「お前は…一体何を考え…いや、悩んでいるのだ。」



先生が口を開いた、目は俺の目に合わせてくる。その眼差しには何かの決意のようなものが感じられる。



「…いえ…。たいしたものでは無いので。」



「……嘘、だな。俺には話せないような事なのか。」



俺は目を逸らす。逃げ、明らかに逃げだ。

わかっている。逃げるのはダメだ。だが、現に俺は逃げている。

それでいいんだよ。

頭の中で何かが囁いた。



どうせまた信じてもらえないんだ。



あの時、祖父との時のように気味悪がられて終わる…と、そう告げる。

また頭に声が響く。



なら、また無視すればいい。



(い…、嫌だ…。俺は彼女を救いたい。)



視界が暗く…光が無くなっていく。なにも無い空間に一人だけたたずんでいるような。



なんであの女の子を助けようとする?



(なんでって…、中村が心配だから…!)



じゃあ君は…、今まで街や学校や道端で出会った赤や黄色の人間を助けようとしたのか?



言葉がまるで刃のように胸に突き刺さる。

…してない、してなどはいない。俺はずっと逃げてきた。見て見ぬふりをしてきた。



(だからこそ、そう…だからこそ変わるべきなんだ!!)



…いいかい、君は今まで何人かの人間を見殺しにしてきたんだよ?

君のその覚悟が、君が優柔不断で弱腰だったせいで、彼らはその命を絶たれたんだよ?



(…………っ!!)



君が話しかけていれば、君が救おうとしていれば、助かったかもしれない命なんだよ?

それを君は見殺しにした。彼らを殺したのはもはや君だよ。君が彼らの人生を死に導いた。

君は最近彼女を助けようと救世主ぶっているがそれは君の自己満足…、自分が他人より優れているからってどうせ君にできるのは人の死を見過ごすだけだろ。

君は救世主なんかじゃ無い。君は自己満足の為に、自分の正義感を満たすために人を救おうとしている悪魔だよ。



違う…っ!!いや、違わない。だが違う!!そう思いたい。

俺は彼女を助けようとして自分の正義感を満たしているのかもしれない。

でも彼女を救えるのは俺だけだ!!

なら俺は彼女を救いたい!!


途端俺の足に手がかかった。すごく強い力で握られる。



(なんだ!?痛いっ!!)



下を見る、そこには目だけ黒く抉りとられたような顔をしたOL風の女がいた。

どこからかでてきて俺の足にしがみついている。



「ジャアナンデ…、タスケテクレナカッタノ…?」



う、うわぁあああああアアァアア!?

俺は悲鳴をあげ尻餅をつく。依然手は俺の足を握り続ける…、いや、何処かへ引きずり込もうとしている。俺は彼女を知っている。道端で憂鬱な表情を浮かべていた女性だ。



彼女はあの後自殺してしまったよ?君が止めなかったから。

君には止める術があった。やりようはいくらでもあったろうに。ただ君は関わりたくないと思って無視した。彼女は自分の悩みを自分だけに抱え込んでいた。健気だねぇ…。誰にも心配させないようにしていたんだよ、結果的には自分の首を絞めてしまったが。



また足に何かがしがみつく。

目の無い、男の子だ。

さらにしがみつく。今度は女性だ、同じく目は抉りとられたようだ。



「ボクハ…モットイキタカッタヨ…。」



(やめろ…。)



「ナンデ…スクッテクレナカッタノ…ッ!?コドモダケデモヨカッタノニ…。」



(やめろ…っ!!)



可哀想だねぇ…、君はわかってるだろう?だってこの二人は父親のせいで、心中に巻き込まれた哀れな被害者二人なんだから。

この家族が歩いている時に父親だけ真っ赤…、いやもうどす黒い赤だった。母親はなんとなく察していて黄色だっただろうに。

この時点で君は子供が一人になるのをわかっていて逃げた。



(だって!?そんなのわかるわけねぇだろ!!)



いや、君が父親を救おうとしていれば心中なんて無謀な事しなかったかもしれないじゃないか。



そうかよ…、なんでも俺が悪いのかよ。俺が殺したってのかよ。



そうだよ殺したのは。


そう聞くと暗闇に人影が浮かぶ。


俺だよ。


全く、全て俺と同じ容姿の人間が立っている。


俺は辛いんだよ。俺はもう苦しみたくないんだよ。だから彼女を救おうだなんて考えるな。

さっきのOLや家族だって君は覚えてなかっただろう。



……そうだ、その通りだ。



だったら彼女も忘れよう。もう彼女とは関わらなければいい、ひょっとすると自分以外の誰かが救って生きているかもしれない。



そうだ。その通りだ。また逃げる。そうするよ。



だから無視しよう。また無視する。そうだ、俺はまた。



「また…救わない。」



「どうしたんだ志賀?」



現実に戻ってきた、のだろう。視界に光が戻り先生が前に見える。

でももういいんだ。俺は逃げる。それは仕方ないことなんだ。

そう言い聞かせた。




志賀が俺の前に立っている。顔には不安や悲壮な感じが浮かび上がっている。



「…いえ…。たいしたものでは無いので。」



そう彼は告げる、だが俺にはわかる。

彼の目には何か、とても小さな希望、そしてそれを今にも覆いそうな絶望がある。



「……嘘、だな。俺には話せないような事なのか。」


彼は目を逸らす、逃げている。自分の本当にしたいことから逃げている。

途端彼の目から光が消えた。

もう絶望しかない、死んだような目になった。



「また…救わない。」



今彼はなんと言った?また「救わない」?

……救わないか…。



「どうしたんだ志賀?」



彼は死んだ目のままなんでもないですすみませんでしたと言って職員室から出て行った。

私は正直今怒りに震えているのかもしれない。

彼は「救わない」と言った。つまりそれは「救える」のだ、何をかは知らんが。

ただ私は「救えなかった」。だからアイツに怒りを覚え、俺は職員室を出た。





職員室から出て帰ろうとしてする、窓の外を見ると野球部だろうか?運動をしている生徒たちがいる。

彼らはいいよな、何の力も無くて、非力で。

力があるのが優れている訳じゃないんだよ。

力は呪いなんだ。彼らは、お前らには何の力もない、何の呪いもない、自由に暮らせる。


俺はもう人とは関わりたくない。どうせ関わったって自分に何か見返りがあるかといえば、何の役にもたたない正義感が満たされるだけ。

そう思いながら歩いていると、誰かに首根っこを掴まれた。

振り返ると戸尾先生が俺を掴みあげていた。



「…先生なんですか?」



先生は何も言わず俺を応接室に運んでいった。



応接室に着くと急に手を離され床に体を打ち付ける。



「ゴホっ…っ…がは…っ!?」



ずっと首根っこを掴まれていたせいで息が苦しくなり咳をする。何かがあがってきてしまったような気がする。



「志賀、お前は何を抱えている。」



「なんでも無いですよ、先生には関係ありません。」



そう、もうこの人とも関わりたくなど無い。

関わったら、傷つけるし傷つく。

目からは光が無くなり見ている景色もまるで褪せて見える。

だが誰の色も浮かばない、なにも「知ろう」とは思わない。

本当に、俺は何をやってたんだかな。



「どうせ…なにやったって無駄なんですから…。」



タァンッ!!

軽い音が部屋に鳴り響く。頬が痛い、ヒリヒリする。

打たれた、先生に殴られた。



「甘ったれるなァ!!」



怒鳴られた、頭が混乱している。なぜ殴られた、なぜ怒鳴られた。



「いったいお前は何を背負い込んでいる!!吐き出せ!!貴様は救えるのに救わないのだろう!!違うのか!?」



「先生に…、先生に言って何が変わるんだよ!!信じてくれんのかよ!?」



「信じれるかどうかなど知らん!!聞いてもいないのに答えが出せるかァ!!!!」



その通りだ、でも言いたくない。きっと信じてもらえない、頭のおかしい人間だと思われて病院やカウンセリングを受けさせるのだろう。



「頼む…、答えろ志賀…。」



先生から声量が無くなる、そして段々崩れ落ち頭を下げた。



「お前に…俺と同じ後悔をさせたくないんだ…っ!!」



っ!?

泣いている。先生は今、俺の目の前で泣いている。

いや、泣き崩れている体は震えている。



「……先生は、いったい何を救わなかったんですか…?」



「私は救わなかったのではない…救えなかったのだ…、いや救えたのかもしれない…。」




7年前 8月3日 午後3時

戸尾武人とその妻、息子が乗った車が高速道路を走っていた。

家族で夏に海に行きその帰路についていた。



「ねーねーおとーさん!!うみたのしかったね!!」



「そうだなぁ…だがお前がおっきくなればもっと沖のほうまで行けるぞ!!」



「沖の方に行ったらもっといっぱい魚さんがいるのよ。」



わーいさかなさかな!!

息子はとても楽しそうにはしゃいでいる。

まだ海を見たことがないから見せてやりたかった。



「ふふ…。」



「どうしたんだ(めぐみ)?」



「いや、あなたにそっくりだなぁ…って。ふふっ。」



「ん…?まぁやんちゃな所は確かに似ているかもなぁ…。顔は俺に似てもらっちゃ困るかもなぁ。」



あはははははと、楽しく笑い合う。こんな幸せが私にはかけがえないものだった。

息子もどんどん大きく、やんちゃになってきていた。

これからどんな風に成長していくのだろうか…恵に似て美形な少年になるのか…。それとも私に似て角のある顔になるのか…。

そんな想像をしているだけで楽しかった。




ガシャン!!

後ろで大きな音が鳴った、衝撃で車が前に飛ぶ、その後また衝撃。

後ろからトラックが激突してきたのだ。



「なぁっ!?」



「いやぁ!?」



恵が前に顔を当てる、額から血が流れている。

後ろでは息子がわんわん泣き出した。



「恵!!恵!!」



揺するが反応がない、とりあえず扉を開けて皆を外に出そう!

私は扉を開け助手席側に向かうが、車が通っていて近づけない



「ああああああああ!!邪魔だぁ!!とまれぇ!!」



車が事故を避けるように車線を一つにしてくれた。これで助手席に近づける。

そして扉を開けようとするがあかない。

衝撃で扉が曲がってしまい開かない。

後部座席な扉も同じだ。

急いで運転席に移るそこにしまってあった車の窓用のハンマーを持ち出し助手席のガラスを叩き割り恵を引きずりながらも外に出す。



「大丈夫ですか!?」



周りのドライバーが集まってきている。彼らに救急車の手配と警察への通報、さらに恵の介抱を任せた。

次は私の息子だ…。



「アンタ!!危険だ!!早く離れな!!」



唐突に言われ車の後ろを見る、すると炎に包まれていた。



「息子が…、息子がいるんだ!!助けないと!!」



必死に近づき後部座席の窓を割る。

しかし炎が強くなかなか近づけない。



「おとーさん、あついよぉ!!痛いよぉ!!」



息子の声が聞こえる、悲痛な叫びが。

炎はその声をかきけすような勢いで強さを増していく。



「いま、今父さんが助けてやるからな!!」



割ったガラスから手を入れシートベルトを外そうとする。

だが炎によってプラスチックが曲がり取れない。

無理矢理引き抜く。力をこめ続けて。今度は火によって紐が焼ききれシートベルトとチャイルドシートは離せた。

息子を抱き上げようとする。だが息子の体がチャイルドシートから離れない。



(チャイルドシートと服がくっついている!?)



炎で溶けたアクリルがくっつきとれなくなってしまったのだ。

チャイルドシートごと引っ張る。だがチャイルドシートが窓を通らない。



「ちくしょう…!!どうすれば…!!」



「アンタ!!いったん離れな!!アンタに引火している!!焼け死ぬぞ!!」



「息子がいるんだぞ!?俺が焼け死ぬのは構わん!!息子を、息子を助けなければならない!!それが親の勤めだ!!」



必死にドアを開けようとする。しかし開かない。逆側にまわりドアを開けようとするもこちらも開かない。

運転席から入りチャイルドシートを引っ張るがやはり通らない。

シートを倒そうとするが動かない。

急に体を押さえつけられる。救急隊員が到着し私を車から離そうとしているのだ。



「中に息子がいるのだぁ!!助けなければ!!」



「私たちが助けます!!このままでは貴方も死んでしまいます!!」



私は不本意ではあったが私よりは救急隊員の方が優れていると判断しその場を離れて恵の方に向かおうとした。

すると向こうからトラックの運転手が歩いてきた。千鳥足、前が見えているかもわからないそんな足取り。



「貴様ァ!!なぜ追突してきた!?」



「あ?あー…あははごめんごめんちょっと運転ミスちゃって。」



なんだコイツ、口からアルコール臭がする。まさか!?飲酒していたというのか!?



「飲酒して運転しているのか!?」



「あ?あにゃんになな。ふひゃになななな…。」



呂律も回っていない何て言っているか全くわからない。



「○%#*@§■□″@§¥¥$☆@*#&*〆」



どうやら酩酊状態のようだ。まったく何を言っているのかわからない。

警察が到着し彼の身柄を拘束した。






「その後車を鎮火し中から息子を救ったが搬送先の病院でこの世から去った。」



「……っ。」



そんなのどうしようも無いじゃないか、救えないのかもしれないが必死に先生は救おうとしたじゃないか。



「トラックの運転手は懲役4年の判決が下った。私の息子の、人生を奪っておきながら…。」



手を握りしめ顔を歪める。その手からは血が流れていた。



「その上、恵はあまりのショックで寝込み遂にはこの世を去ってしまった…っ!!」



なんだよそんな胸糞悪い話…。じゃあ今もトラックの運転手は悠々と暮らしてるってのかよ…。

そんな許せない話があるかよ。



「私は皆を救えなかった…。恵も、私がもっと気にかけていれば…!!」



「先生…。」



「だから志賀!貴様には同じ後悔をしてほしくない!!救えるならなんでも救ってほしい!私にできることがあるなら何でもする!!」



肩を掴まれ目を合わせて言われる。その目には真剣な本気の光が宿っていた。



「先生は…。」



「先生は、その運転手に対してどんな感情を受けたか…教えてください。」



「殺してやりたいと思っているに決まっているだろ…!!だが、それをしたって誰も喜ばない…私の痩せこけた正義感を満たしてくれるだけだ。」



痩せこけた正義感…。俺も。



「俺も痩せこけた正義感を満たそうとしていただけですよ…。」



「だがお前はまだ終わってはいないのだろう…、頼む教えてくれ…!!」



頭を下げてくる。俺は半ば諦めつつも話すことにした。



「先生、信じられないかもしれないですが、俺には他人の寿命…いや、生きる気力というものが見えるんだ。」



「生きる気力…?つまりは寿命のようなものか?」



「えぇ…。そして俺は見てしまった。ウチのクラスの中村が…赤色、つまりレッドゾーンであることを。」



「それは…危険な状態なのか…?」



今の質問をしたと言うことは病気では無いのだろうか…?



「先生…その、中村に病気とかは?」



「いや、聞いたことはない。いやただ…。」



口をつぐむ。何かあるのか?



「先生…なにがあるんですか?」



「…彼女の親が厳しいと聞いたことがある。それも過度にと。」



親?親が原因なのだろうか…。俺にはよくわからないが。



「……この辺は直接彼女の周りに聞くべきだろう。私にはよくわからない。」



「……わかりました。」



俺は鞄をとり応接室から出ようとする。



「志賀よ…、彼女を助けてやれ。」



先生が窓の外を眺めながら俺の方は向かず話してくる。



「お前は根っから優しい奴だ。そして一人で抱え込むタイプであろう。だから…救える人間を救ってくれ。私にも生きる気力が見えれば、恵を救えたのかもしれない。だが貴様は救える。」



依然こちらを見ずに先生は語る。まるで自分の気持ちを正直に吐き出すように。


「今までの後悔を悔やみたければ悔やめ。だが糧にしろ。昨日の失敗に潰されるな、失敗は人を成長させてくれる。次の成功を考えろ。」




「はい!!」




俺は決意を固め学校を後にした。


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