進展
夕暮れの屋上にスケバン風な友妃という女性がたたずんている…。
なんだか不思議な、幻想的なものを感じる。
…でもスケバンなら暗い所だろ…。
「…あんだよ…テメェ。」
友妃が威嚇するように話しかけてくる。
うわこわっ…!?
スケバンってリアルに見るとこんな怖いのか…!
マスクで半分隠れた顔、そこから見える細いつり目。
横はねしている長い茶髪。スカートだけはスケバンと違って短い。ブレザーだからか。
「じろじろ見てんじゃねぇよ…!」
ひぃっ!!怖い…、朝睨まれたのがまったく怖くなかったのはアドレナリンとかが大量分泌していたからだろうか…。
とにかくこのままじゃダメだ、動かなければ。
「アンタが友妃で間違いないか?」
「い、いきなり下で呼び捨て!?いい度胸じゃねぇか…。」
なんな怒らせてしまったようだ。
おかしいなぁ…作戦だとこれで親しくなれるはずなのだが…
「お前…、な!朝の野郎か!!」
やっと気づいてくれた。
いや、気づかれない方がよかったのだろうか…。
相手から黒いオーラが滲み出ている…。
「待てよ、それで怒ってるってことはやっぱりアンタが画鋲を上履きにいれたのか。」
「えっ!?いや、あれは…その、えーっと…仕方なく…。」
シラを切ろうとしているのだろうか、言葉が詰まっている。
でも仕方なくって…。
「仕方なくってなんだよっ!!」
ついカッとなって女の子相手に怒鳴ってしまった。
相手は驚いて後ろに退いた。
だが俺は止まらない。
「お前、なんでアイツの上履きに画鋲なんていれたんだ!!恨みか!!妬みか!!」
「ちが…!」
「やられた側の気持ちになってみろよ!どう思う!」
どんどんヒートアップしていく。
友妃からは威勢がなくなっていく。
「だ、だから…。」
「もし実篤が見つけてなかったら彼女は足に怪我をしていたかもしれないんだぞ!!」
「だぁ!!うるせぇな!!人の話を聞けっ!!」
「すみません!!」
反射的に謝ってしまった…、なんて迫力なんだ…。
って、あれ?なんかアイツモジモジしてね…?
まさか…トイレに行きたいのか…?
「あ、あれはだな…その…。誰にも言うなよ…。」
「なぁ友妃。」
「また呼び捨て!…なんだよ!?」
「トイレ行きたいのか?」
「はぁっ!?」
ゴスッ!!
グーのパンチが顔面に飛んできた…、音のわりに痛くはなかった…。
「す、すまん。モジモジしていたから…。」
「だ、誰がモジモジしてるって!!」
またグーのパンチが顔面に飛んできた。
さすがに痛い。
「で!話を続けてくれ!!誰にも言わないから!」
「ほ、本当だろうな?」
首を縦にぶんぶん振る。
「あ、あのな…実は。」
モジモジと体を動かし顔面を赤くしながら恥ずかしそうにしている。
やっぱりトイレか?
「わ、私は中村さんと友達になりたくてそれで!!それで!!画鋲を入れたんだ!!」
…は?
「お、お前は友達になるやつ全員に画鋲を上履きに入れるのかっ!?」
「ち、違うわ!!私が彼女の前でそれを取り出せば彼女と話すきっかけになるかなってそれで…それで…。」
涙目になっている。
他に方法は思い付かなかったのか…?
というか友達作るだけなのに。
(とんでもない迂回をしやがる…。)
つまり友達になりたいけどきっかけが無いからそれを作ったと…。
いやおかしいだろ…。
「あ、アタシこんな、うぅ…見た目だから、友達少なくて…ヒック…。」
な、なんだか罪悪感が生まれてきた…。
端から見れば俺が友妃を泣かせているみたいだ…。
「お、おい泣くなよ…。つまり友達が居なくて友達が欲しかったんだな…?」
「う、うん…ひっく…。」
「もうあんなことしないか…?」
「うん…。」
「なら…。」
なんだか子供をあやしているような気分だが…。
俺はまた知識の中から台詞を選ぶ。
「だったら俺がお前の友達になってやるよ。」
そう言って手を差し出した。
「え…?」
「お前がどんな姿でも、お前の性格がどんなでも俺はお前の友達でいてやるよ。」
あれ?友妃が無言になってしまった…。
失敗か…?
「友妃?」
「じ、じゃあ私がおばあちゃんになっても一緒に居てくれるの…?」
「お、おう!!居てやるよ!!」
力一杯に叫んだ。
な、なんだか知らないが彼女と打ち解けれただろうか…。
おばあちゃんになるまで友達でいられるかはわからないが…。
「って、うわっ!?」
なぜか知らないが抱きつかれた。
求めていたのは握手だが…。
もちろん女の子に抱きつかれるなんて生まれてはじめてだ。
頭が沸騰しそうに熱い。
しかも柑橘系のいい匂いがする…。
なんで抱きつくのだろうか…。すごい恥ずかしいというか照れ臭いというか。
柔らかいというか…。
俺の体から離れると彼女はマスクを外した。
「……っ。」
始めてみる彼女の素顔。
夕暮れの背景と風になびいた茶髪。
それはすごく、すごく綺麗だった。
「あなたの名前まだ聞いてない。」
「え!?あ、あー…志賀直哉だよ。」
彼女はずっと直哉と復唱するとマスクを付けて階段の方へ歩いていった。
「な、直哉!また会おうな!」
「あ、あぁ!!」
彼女は階段をかけ降りてしまった。
…しまった!真弓の情報はあまり聞き出せなかった。
「まぁ…いいか。」
友人になりたいやつなら、知人としての意見しか貰えないだろうし。
だけどなんだろうか…まだ友妃の柑橘系の香りが残っている。
土曜日、ちょっとおしゃれをして俺は学校の最寄り駅の改札口に立っている。
待ち合わせ時間の30分前。
少し早く来すぎたかな…?でも女の子を待たせたら悪いし。
「あ!志賀君もう来てたんだ!!」
彼女は待ち合わせ28分程前に来た。
…あぶねぇ、もう少しで待たせるところだった。
「ごめんね待たせちゃって。」
「いや、今来たところだから気にしなくていいよ。」
一度言ってみたかったこの台詞。
それにしても初めてではないが真弓の私服は…なんだか大人っぽい。
緑色のワンピースに白いカーティガン?のようなものを羽織っている。
清楚で可憐な感じだ。
「ええっと…とりあえず俺の家の回りを案内して貰っていいかな?」
「うん。」
ここから作戦スタートだ。
まず日泰寺というお寺に行った。
なんでもタイから寄贈された釈迦様の遺骨を納めてるとかなんとか…。
この他にも名古屋には神社やお寺が多いらしい…午前中はお寺巡りになってしまった…。
お互いお腹も空いてきたので昼食をとることにした。
某ハンバーガーチェーン店に入り彼女はチーズバーガーとドリンク。
俺は普通のハンバーガー三つとドリンクを買った。
聞き出すならこのタイミングだ…。
適当な席を見つけ二人向き合う形で座る。
う…、前にいると相手がよく見える。
すごい綺麗な瞳、髪、整った顔立ち。
吸い込まれそうになる、視線を外したくても外せない。
彼女の動作、指の動きの一つ一つまで後ろの窓から入る太陽の光と相まって雑誌の写真が動いているような印象を受ける。
「どうしたの?食べないの?」
「うぇ!?あ、あぁ…。」
彼女の声で現実へ復帰した。なんだか変な目で見てしまったからか余計真弓を見入ってしまい食事に集中ができない。
いやまぁ…ファーストフードで集中というのも変な話だが。
とにかく最初の目的を思い出す、彼女について探らなければ。
「なぁ…。真弓って姉妹とかっているのか?」
「ん…?いないよ?」
「そうか…なんかお姉さんっぽいから妹とかいるのかなと。」
「うーん…確かにお姉さんっぽいとか言われたことはあるけど…。欲しいと思ったこともないなー。」
へぇ…、兄弟がいない人間は誰しも欲しがるものだと思っていたが…。
とりあえず簡単な質問からしていくか…。
「真弓はさ…、なんか趣味とかあるの?」
「んー。ないかな…?」
「部活とかやってたっけ?」
「いや?」
「好きなドラマとか…。」
「あんまりテレビは見ないかな…。」
な、なんなんだ…。
彼女から「個性」が見いだせない…。
いや、「個性」が無いのが「個性」とかいう部類に当てはまるのだろうか…。
「カラオケとか…ボーリングとか友達と行ったりしないのか?」
「あんまり…友達と遊ばないから…。」
うーん…なんだろうか、彼女は無理をしているような気がする。
もしかして…寿命が短いのを知っていて物に興味がないように振る舞っているのか?
だとしたら彼女は今何を生き甲斐に生きているんだ?
「もし…!」
「?」
「もしも!寿命が残り少ないとしたら…!真弓ならその残った時間で何をする!?」
少し前に出て相手を圧迫させるような形になってしまった。
「ど、どうしたの志賀君?」
真弓が少し引き気味でこちらを見ている。
またやってしまった…。
この間実篤にまた言われたが、俺は「ついカッとなって」という行動をまれに起こすらしい。
気を付けなければと思っていたが…。
「すまない…忘れてくれ。」
とりあえず彼女についての情報は少しは聞き出せた。
さて、そろそろ出るかなと出口を見るとパンクな格好をした一人の少女と目があった。
そこに居た友妃(少女)は青ざめた顔でこちらを見ていた。
ハッと我に戻った友妃はズシズシと力強い足取りでこちらに歩いてくる。
「な、直哉…。オメェ人にあんな事言っておいて他の女と遊んでやがるのか…!」
あれ?なんかすごい怒ってます?
彼女はみるからに背後に負のオーラを纏っていた。
いや待て、考えろ志賀直哉。これはいいチャンスじゃないか?
今俺は真弓と一緒に行動している。
そして友妃は真弓と友達になりたいと思っている。
よし、思い立ったが吉日だ!!
真弓に会釈をして立ち上がり友妃の方に向かう。
「ちょうどいい友妃、真弓を紹介してやるよ!」
「な!?真弓!?……やっぱり2人はそういう…。」
友妃がズーンとしている。
なんだかよくわからない勘違いをされているらしい。そういや真弓彼氏とかいるんだろうか…。
友妃を横に座らせる。
恥ずかしいのだろうか、顔を真っ赤にしながら俯いている。
「志賀君その方は?」
真弓が話し出すだけで友妃はビクッ!と体を震わせている。
……ビビりすぎだろ。
「えぇっと友達の友妃。」
「かかかかかか、加藤友妃です!」
どうでもいいけど今初めて友妃のフルネームを知った。
しかし両手を膝の上で握りしめプルプルしている友妃は…。
(初めてあった時のあの威勢はどこへ…。)
スケバンな風合いは何処かに消えてしまっていた。
もし画鋲を上履きから抜く作戦が成功してても喋れなかっただろうな…。
服の裾を引っ張られたのでそちらを見ると。
友妃が涙目でこっちを見ながら助けを求めている。
「えぇっと…、真弓と友達になりたいんだけど、言い出せないらしいぞ。」
ズバシッ!!
後頭部に衝撃が走る。
痛い。
「ば、ばば、バカおま、なにいっ、なにいってんだよ!?」
言葉が支離滅裂になっている。
そんなに恥ずかしいのか…。
というか人とあまり接点の無かった俺に助けを求めた時点で間違い…ってのは言い訳か。
「本当!?全然いいよ!!」
真弓が前のめりになりながら友妃に話しかける。
瞬間友妃の顔がまるで太陽に照らされたように輝く。
「いいのか中村さん…!」
「真弓でいいよ友妃ちゃん!!」
「ありがとう真弓!!」
二人がキャッキャと騒ぎ出し、次第に息投合してガールズトークに入っていった。
いや、いいんだよ…実にいいことなんだ。
…だが俺は入れねぇ…。
結局俺は話しに入れないまま某ハンバーガーチェーン店で3時間ほど苦しい思いをしたのであった。
午後は遊ぶための施設を紹介してもらった。
カラオケ、ボーリング、動物園など娯楽施設はいっぱいあるようだ。
……友妃が植物園に惹かれていたのは面白かったが。
「おい直哉なんでお前笑ってんだ!!またお前…!」
「いや〜ごめん!」
あまりに面白かったから思い出し笑いしてしまった。
今は駅まで二人を送るために歩いている。
端から見れば両手に花だが俺から見れば話しに入れないので愛でられることのない土だ。
まぁ、悪いきはしないが。
「今日はありがとな真弓。」
「いいよ〜、お力になれたかはわかんないけど。」
「いやいや、充分だよ。こっちに引っ越して来てロクに外出してなかったし。」
家に帰れないかもしれないからな。
そう言うと彼女はにっこり笑った。
今日わかったことは1つ。
真弓には欲がない。
人間の持つ生理的な欲
睡眠や食などといった欲以外を全く見せない。
…いや違うな、彼女は欲を抑えている。
見せないようにしているというのが一番正しいかもしれない。とにかく彼女は自分の欲に対して嘘をついている。そういう考えにしかいたらない。
うーん…と考えているといつの間にか駅についていた。
「本当に今日はありがとな!」
「うん私も楽しかったから!」
嘘。彼女は寺を見るときも、動物を見るときも、食べ物も娯楽施設も俺も友妃も。
全部同じ「目」で見ていた。
「おう!!また明後日な!!」
手を振って見送る。
相手も手を振り替えしてくれる。そのまま視界から消えていった。
「お前も付き合ってもらって悪かったな。」
「へ…?いいわよ別に、私も楽しんじゃったし…。」
「またな!!」
俺は駅から出ていこうとすると彼女が引き留めた。
「え…、直哉って家この辺なの?」
「うん。そうだよ?どうかしたか?」
「いや…私もこの辺なんだけど。」
そ、そうなのかっ!?
まぁ、そうだよなわざわざ遠くの某ハンバーガーチェーン店に行きゃしないわな…。
「うーん…、送っていきたいんだけど…俺晩飯用の買い出ししたいしなぁ…。」
「そういえば引っ越して来たとか言ってたな。家族に頼まれてんのか?」
「いや…一人暮らししてる。」
ひとっ!?と謎の奇声をあげると彼女はモジモジしはじめた。
トイレじゃないのは学習した。癖だろうか?
「い、いいよ!付き合ってやるよ!!買い出し!」
え…?別に頼んでないんだが…。
「一人暮らしで大変だろう!!あた、私がご飯作ってやるよ!」
「いいのか…?」
正直外食とたまごかけご飯を繰り返していた俺にとってはありがたいが…。
「お前の家族には伝えなくていいのか?」
「え?私も一人暮らしだよ?」
衝撃の事実だった。自分の他にも一人暮らしの奴がいたとは…。高校生で一人暮らしなんて小説とか漫画の中でしか見たこと無かった。
不思議と安心感などを覚えつつ俺と友妃は買い出しに向かった。
「糸こんにゃくと…あとじゃがいもも買わなきゃ無いかな?」
「あ、あぁ…。」
友妃に先導されて食料品売場を歩いている。
どうやら肉じゃがを作ってくれるそうだが…。
ギャップがスゴい。この前会ったばかりの時は今風スケバンだったのに今目の前にいるのはどうみても…。
(主婦だ…、主婦がいる。)
テキパキと物を見定めカゴの中に綺麗に入れていく。どうみても主婦だ。
「な、なんだよジロジロ見んな…。」
照れ隠しをするように顔を逸らす。
あれ?いままでそんなこと全く考えてなかったけど…。
こ、こいつ…意外と…。
「かわいい…。」
「なっ!?」
しまった、「つい」声に出てしまった。
また「つい」やっちまった…ついに注意しないとな…。
あれ?そういえば今回は殴られなかった。助かった…。
「に、肉買いに行くぞ!」
「お、おう!」
俺たちは買い物を再開した。
「よし!」
全ての材料を買い揃え満足気味な友妃と一緒の帰り道。
うーん、いくら一人暮らしとはいえあんまり遅くなると危ないし…。
「なぁ、お前ってどこで暮らしてんの?あんまり遅くなると危ないし。」
「え?大丈夫だよ。誰か襲ってきたら襲うし。」
そう言って足をブンッと蹴りあげる。
お前より相手が心配になってきた。
「あ、私の家見えてきたよ。」
「俺んちも見えてきた、案外近いな…向かいだったりして?」
「直哉の家はどれだ?」
「いや、ここ。このマンションだよ。…あれ?友妃?」
隣で友妃が固まっている。なんで?
…あぁ!このマンションの家賃なかなかするもんな…。造りも立派だし驚いてるのか。
中から美羽さんが出てくる。
「あら、直哉君、友妃ちゃんおかえりなさい。なるほど…直哉君が最近爽やかだったのは彼女ができたからなのね?」
「ただいまです美羽さん…ってあれ…?なんで友妃の名前を知ってるんですか?」
「なんでって…ウチの住人は全員把握しているつもりだけど…。」
怪訝そうな顔で胸前で片腕を片方の腕で支えながら頬に手を当てている。
俺は友妃と同じく動けなくなった。
「まさか同じマンションだったとはな…。」
意外というか急展開というか…。
朝会わないのは彼女がいつも三限目くらいからしか学校に来ないかららしい。
彼女はシャワーを浴びてからご飯を作りに来るらしく俺も軽くシャワーは済ませておいた…、後部屋の掃除も。
今思えば引っ越して以来部屋に誰かを招き入れるのははじめての事だな。
実篤や武郎も、他のクラスメイトも呼んだことがない。
いや、待てよ…引っ越しする前でも知人を家に呼んだことあったか…?
なんて思考を巡らせているとピンポーンと軽快な音がなった。
「は、はーい。」
俺は少し慌て気味にドアに向かった。
このマンションのドアはオートロックになっていて入るときにはカードがいるが、中から開ける場合にはカードはいらない。
(だから何度もカードを中に置いていって美羽さんに手間を取らせてしまった。)
ドアを開ける。
ふいにフワッとシャンプーの匂いがする。
「ごめん、待った?」
「いや、今来たところだよ。」
「?、ここはあなたの部屋でしょ?」
しまったつい反射で…ってまた「つい」か…。もう癖だな。
「ま、まぁ入れよ。文字通り何もないけど。」
「お、お邪魔します…。」
俺の部屋には黒いカーペットにガラスの机、薄型テレビにベットと、本当に何もない。
「男の子の部屋に初めて入ったけれど、…普通ね。」
一体何を期待していたんだ…?ともかく彼女が料理している間は俺は宿題をやっておくことにした。
台所からトントンと包丁で何かを切る音がする。
「〜♪」
友妃は鼻唄混じりに調理をしている、完全に主婦だ…。
宿題に目を向けるが全く集中できない…!!
今度はぐつぐつと何かを煮込むような音と炊飯器のメロディがなった。
「もう少しでできるから待っててね。」
「お、おう…。」
なんだろうすごく恥ずかしい。鼻先がかゆくなってくる。
その鼻先にいい匂いが伝わってきた。
机の上に丁寧に料理が並べられる。どれも旨そうで見映えがいい…。
肉じゃが以外のものは昨日の残りだそうだ、それを温めて持ってきてくれたらしい。
「い、いただきます…。」
肉じゃがに箸をつけそのまま口に頬張る。
な…こ、これは…。
「う、うめぇ…。」
「本当!?」
「あぁ!!本当本当!!」
そう言って他のおかずなども口に含む…。
うまい…、どれもこれもうますぎる!!
手は止まらない、咀嚼も止まらない。
「そんなに慌てなくても…、ちゃんと私の分も残しとけよな。」
照れながら友妃が言う、買い物しているときも思ったが、こういう時の彼女はすごいかわいい。
こう、なんだ…おっとりしているというか、家庭的な面を見るとなんだかドキドキしてしまう。
彼女についてもっと「知りたい」…。
瞬間背景がセピアになり、彼女のシルエットが浮かび上がる。
また「つい」考えてしまった。
だが気になる人間などに対してはかなり連発しているし、彼女の「色」はこの前見ている。
今回も、前に見たときと同じく緑…。いや違う、あれは…!?
「青…だと?」
青っていえば、小学生に多い色…。
だが見失わないために使ったときは緑だったはず…。
寿命ってのは変わることのないものだろ?それがなんで「遡った」いや「回復」したんだ!?
「ど、どうしたんだ?ま、不味かったか…?まさか無理して食ったのか!?」
「そんなことない!!それよりもなんで青なんだ!?この前は緑だったじゃないか!!」
「な、なんだ…?私のパーカーはグレーだぞ…?」
「あ、あぁ…いや違うこっちの話だきにすんな…。」
取り乱してしまった。いやしかし見間違えはしてないはず…あの時は確かに緑で今も…あれ?
「べ、別に無理して食べなくてもいいんだ…うん。私に料理の才能がないから…。」
俺の目からは彼女が緑に見える。
…戻った?さっきまでは確かに青だった。
「いや、すごいうまかったよ!ただその…頭でさ美術の作品考えてたらこんがらがっちまって、うちのクラス来週末が美術の提出だから少し焦っちゃって。」
苦し紛れないいわけをする。
彼女は変なやつだなぁ…と怪訝そうな顔をしていた。
だがこれは…。
自分の「力」が本当に寿命を示すものか不安になってきた。
とりあえずあの人を尋ねるしかない。まだ顔も出してないが確か愛知の病院で働いていたはずだ。
子供の頃、俺の「力」について親身に聞いてくれたあの医者のところに。
そして俺は、自分の「力」と気づかぬ内に向き合おうとしていた。