再会
引っ越しをしてから二日目。
「ん…。ふわぁ…。……。」
朝6時、窓から朝日が軽く入り、小鳥のさえずりが聞こえる…。
凄くいい朝かもしれない。いや、普通の人から見ればきっといい朝だろう。
だが俺は昨日1つ重大なミスを犯した。
「まさか…荷物整理してたらゲームが出てきて深夜までやりこんでしまうとは…。」
だいたいの荷物は整理でき、あとは今日の転校初日に向けてゆっくり寝るはずだった。
しかしあるダンボールが1つ未開封だったのに気付きそこに近づく。
そこには人と関わりたくない人生を歩んできた俺の親友、ゲームが大量に入っていた。
俺は片付けも終わったからと言い訳しそれを取りだし、テレビに接続していた。
昔やっていた「一人」で敵地に入り武器装備も現地調達しなければならないミッションを渋い声をした兵士で敵に見つからずこなしていくゲームだ。
ダンボールに隠れることができ、兵士なども不審がって近づいたりそのままスルーしたりする…
それが自分のツボにはまりひたすら家に籠りこのゲームばかりしていた。
…うん?ちょっと待てよ?何かひっかかるような…。
ダンボール…。部屋中にあるがそれじゃない…。
「…って!早く学校に来いって言われてたんだ!」
急いで用意をして、自分の部屋を飛び出しエレベーターに乗る。
一階に降りるとまた駆け出し入り口に向かう。
入り口では一人の女性が掃除をしていた。
一日目に窓口で会話をしたグラマラスな女性だ。
彼女はこのマンションのオーナーだった。
あれ…また何かひっかかるような…。
そんな俺のモヤモヤは一瞬で吹き飛んだ。
目に入ってきたのだ。
入口付近にある怪しげな箱が。
(だ、ダンボール!!)
そうだ!初日に彼女はゲームをしてたという、さらにダンボール。
…この人とは意外に趣味が合うかもしれない。
だが確証にかける、彼女を見つめながら彼女についてもっと深く「知りたい」と思った。
気がついてからでは手遅れだった。
背景がセピアカラーになりオーナーのシルエットが浮かび上がる。
青色だ…。すごい健康らしい。
すぐに瞬きをして元に戻す。
このように別に「寿命」じゃなくても、対象を見ながら対象の何かを「知りたい」と願うと「力」が発動してしまう。
(転校初日からなんだか幸先悪いな…。)
ともかく今は学校へ向かわなきゃならない、オーナーさん…名前は確か江之島美羽さんの趣味は後回しだ。
出ていく際に江之島さんが
「いってらっしゃい」
と声をかけてくれた。
母から、自分より朝の早かった父からも一度もかけられたことの無い言葉に鼻先が少しむず痒くなり軽く会釈だけをした。
悪い気分じゃないなと、そう思った。
家から学校まではそれなりに距離があり、地下鉄に乗らなければならない。
一昨日の反省を活かし、携帯には地図アプリを入れた。
恐らくは迷わない…はず。
迷うことなく地下鉄の駅につき、駅構内のコンビニで昼食を購入。
地下鉄に乗り、二駅すぎたところで降りて駅をでる。
さぁ、お待ちかねの徒歩タイム。
資料には10分程度と書いてあるが、それは迷わなければの話だ。
地図アプリを構える。もうルート検索はしてある。
完璧だ、と自分に軽く酔っていると
駅を出てすぐ右を向いたところにある看板が目に入った。
【愛知白樺高校はこの先直進。】
どうやら目指しているところには10分程度で着くらしい。
15分後白樺高校に到着した。
わりと歩くスピードは速かったはずだが…15分…。
それはいいとして今日から俺は白樺高校で生活していく。
外観も内装も綺麗な私立校だ。制服もまぁまぁ。
余談にはなるが、俺は学ランを着たことがない。
中学の頃制服はブレザーだったから高校では学ランも着てみたいなという思いもあったが、学力が追い付かなかった。
「失礼しました。」
テンプレート通りの台詞を言い職員室を後にする。
2-1組…。今日から俺は2-1組なのか…と、わけのわからない思考を巡らせてド緊張し始める。
クラスに馴染めるか、とか、嫌な奴いたらどうしよう、とか。
何よりも、「力」を使わずにいられるかが一番引っ掛かっていた。
別に他人に危害を加えるわけではないが、それでもし寿命が短いのを知ってどうする?
伝えるか?いや、信じてもらえないうえに気味悪がられておしまいだろう。
だから俺は自分だけ知り続けなければならない。
こんなに苦痛な事はない。人の寿命がつきそうなのを見つけても何もできないだなんて。
だから俺はこの「力」が嫌いだ。
チャイムがなった。予鈴だろうか?
俺は応接室のソファに座りながら担任を待っている。
チャイムがなったら迎えに来ると言っていたが…
「あぁ…志賀くん。行こうか?」
中年くらいか、顎に髭を生やした男が入ってくる。
担任の戸尾先生だ。渋い声が顔とマッチしている。
「はい…。」
ちょっと緊張気味な俺は小声で返事をする。
「ん?どうした?気分が優れないか?」
「い、いえ。」
心配させてしまった。
急いで来たために朝食を抜いたせいかまぁお腹は減っている。
すると案の定俺のお腹がぐーっとなった。
「なるほど腹が減っていたのか!」
笑いながら先生が解釈をする。
いや、確かに腹は減っているが緊張とは関係ない。
すると先生はポケットからカロリーメイトを取りだして俺に渡してくれた。
「今のうちに食べておけ、クラス全員の前で腹を鳴らしたら恥ずかしいからな。」
またも笑いながら俺を見ている。恥ずかしい、今が凄く恥ずかしい。
俺はカロリーメイトを受け取り食べると先生が未開封のお茶を差し出してやるよと言ってきた。
…やばい凄くカッコいい、しかもカロリーメイトは口の中の水分を吸うから口がパサパサになる。
なんて気が利く人なんだ。
心の中でこの人ことを尊敬することにした。
教室前に着く、先生が肩に手をポンと置いて
「大丈夫心配すんな。」
と笑った。
いちいちカッコいいんだよな…
先生がドアを開く
「皆席につけよ!なんたって今日はお客さんがいるからな!」
先生が大きな声で皆に話しかける。
いや、お客さんじゃなくてただの転校生ですが。
クラスの中では
「抜き打ちテストならぬ抜き打ち授業参観か!?」
とか
「大学のお偉いさんが見に来て気に入った生徒をスカウトしに来るのよ!」
だの言っている。
俺保護者でも教授でもないから。
それにしてもいつになったら入れるのだろうか。
原因の先生は………腹抱えて笑ってるし。
俺がいい加減しびれを切らして帰ろうとしていた時に
「転校生じゃないっ?」
と、一人の男子が言った。
…助かった。
「お!正解だカズ!志賀、入ってきなさい!」
先生に言われのそのそと入る。
あまりの前置きの長さに緊張は薄れた…ってまさかそれも狙って……さすがに考えすぎだなうん。
黒板に自分の名前を書き
「志賀直哉です。よろしくお願いします。」
とお決まりの台詞を言った。
すると周りから「よろしく!」だの「なんだよ…男かよ…。」などと聞こえる。
随分アットホームなクラスだな…安心した。
あ、いやまぁ、あまりアットホームな経験をしてない俺がアットホームという単語を使い安心するのは少しおかしいが…。
「じゃあ志賀は…向かって一番右の後ろから三番目な。」
「はい。」
やった、窓際だ…。
これで外を見られ…。
横には窓ではなく柱があった。
…。
…………。
着席する。黒板は遠いがまぁ文字が見えないほどではないから大丈夫か。
とりあえず隣の子には挨拶すべきか。
「志賀直哉です。よろしく…おねが…。」
目の前の光景を見て言葉がつまる。
女の子が英単語の参考書に赤シートを被せ単語を覚えている。
だが、これは…そんなまさか…。
「あ!すみません!!単語の勉強をしていて転校生さんが来るなんて思っていなくて!はじめまして、中村真弓です…って…あ!迷子さんですよね!」
見覚えのある少女が少し緊張気味に「いらぬ事まで」話している。
死にたい。
クラスの連中が迷子というワードに興味を示す。
「迷子?どういうこと…?」
「迷子って…あの歳で迷子になったのか…?」
あの歳って…お前ら同い年だろ。
そう、私の隣の席には
安心できる美人改め、中村真弓さんが座っていた。
キーンコーンカーンコーン…。
「ふぅ…。」
まさか一時間目終了と同時にあんな大量の質問攻めにあうとは…。
「お疲れさま…かな?」
「あぁ、中村さん。本当に疲れました。というか奇遇ですね。」
「あぁ、敬語じゃなくていいよ?ほら私たち同じクラスの同い年だし。」
さっきその同い年にあの歳って言われたがな。
「えっと、中村さん。」
「真弓でいいよ。」
「さすがに無理。」
初対面の相手を…いや、会うのは二回目だが…。
いきなり下の名前でなんて呼べやしない。
「まぁ…次第に慣れていけばいいよ!改めてよろしくね志賀くん!!」
「こちらこそよろしく!」
満面の笑みで言われた。
すごくかわいい。美人と称したが、制服を着るとまだあどけなさが見える。
まごう事なき美少女だ。
つややかな黒髪に綺麗な瞳。
彼女はどんな娘なのだろうか…もっと中村さんを「知りたい」な。
瞬間、背景がセピアカラーになり中村さんのシルエットだけが浮かび上がる。
しまった、またやらかした。
やめろ、違う!知りたいのは寿命じゃない。
しかし瞬きするまえに彼女のシルエットが色を帯びて完全に浮かび上がった。
「え…。そんな…。まさかそんな…。」
彼女のシルエットは綺麗な黄色だった。