邂逅
サーッという風を切るような音がする。
電車にありがちなガタンゴトンとかいう音がならないのは新鮮だ。
新幹線に乗るというのは初めての事だから景色もしっかり目に焼き付けようとする。
だがこんな速く動く景色なんて建物を目で追うのが精一杯だ、まぁ遠くを見ればいい話でもあるが…
目が疲れてきた…。
目が疲れる度、今なら嫌なあの「力」も無くなっているのかと希望を抱く。
前方にいる老夫婦に視線を移し、おじいさんをじっと見る。
(知りたい。)
そう願った瞬間、おじいさんを除く『すべて』の色が褪せおじいさん以外がセピアカラーになる。
例えるならデジタルカメラや携帯のカメラで特殊効果のセピアを選択したような見え方をしていると考えてもらえばわかりやすいだろうか?
そしておじいさんが『単色』のシルエットとして浮かび上がる。
(『黄』…か。)
おじいさんは黄色のシルエットになった。
もちろん全身黄色だから表情や服等はまったくわからない。
(結局、消えはしないんだな…。)
目を閉じ、あける。
俺の目から見える風景は鮮やかな色になっていた。
忌々しい…とまではいかないが、あんまり好きではないこの「力」。
信じられない話だが、俺は人の『寿命』を見ることができる。
青、緑、黄、赤、黒…等、『色』でだいたいの寿命が推測できる。
赤ん坊は白、成長するにつれ青になっていき、俺のような高校生だと黄緑。
成人はだいたい緑に見える。
そして黒は死を意味する。
黄色はちょっと危ないゾーン。
あの歳ならしかたないとは思うが。
新幹線のシートに背を預ける。
この「力」のせいで俺は母親から気味悪がられている。
俺の祖父…母から見たら実父にあたる人が入院してる際にこの「力」のせいで不謹慎な発言を連発したせいである。
その祖父のおかげでだいたいの『色』による寿命を把握できたのだが…。
母からは
「あなたがおじいちゃんを死に追いやった」
と言われてしまった。
まぁ無理もないかもしれない。まだ小さいながらも寿命を刻々と告げていったのだから悪魔か何かに見えただろう。
そのため私は父親の仕送りを頼りに一人暮らしをするため名古屋に向かっている。
あの家に居たら、俺の精神も、母の理性も壊れてしまうのではないかと父が懸念したのが原因だ。
とにかく、俺の人生はこの「力」によって嫌なものになってしまった。
新幹線のアナウンスが名古屋への到着を伝える。
荷物を確認し新幹線を降りる。
地図を確認し名古屋駅(俗にいう名駅)を徘徊し地下鉄を探す。
あれ?おかしいな。ここどこだ?
確かに地図を見ていたはずだが…うん、自分が何処にいるのかがまったくわからない。
わかるのは地下街のような場所から目的に向かって歩いていたらなぜか地上に出ていた。
………。………………。
「どうしよう…」
遂に言葉に出てしまった。知らない土地に知らない人だらけな場所でひとりきり。
ヤバイ…泣きたくなってきた。
「あの…なにかお困りですか?」
一人の女性が話しかけて来た。
……すっごい心配した顔で。
周りから俺はどんな風に見えてるんだ…
「え、えぇ…。道に迷ってしまって…。」
「えっと、何処に向かおうとなさってるんですか?」
おぉ!協力してくれる人がいるだけでこの安心感…。ひとって素晴らしい。
「地下鉄です。」
「あ、なら私も今から行こうとしてたのでご案内しましょうか?」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
助かった!これでなんとかなりそうだ。
今思えば女性と二人で歩くことは初めてだ。
隣からいい匂いが鼻をくすぐった。
というかよく見るとこの人…
(かわいい…。)
なんだろう、美人!とかアイドル!ってわけでもない…。綺麗なロングの黒髪に大きな瞳…。
うーん…なんて表現すればいいか…。
安心できる美人…みたいな?
(なんだそりゃ…。)
心の中で自分に突っ込んでいた。
「あ、ここです。」
安心できる美人さんが指を指す、その先には地下鉄入り口の文字が。
「えっ?あぁ!ありがとうございました!助かりました…!」
ほんと…この人がいなかったら今ごろどうしてたか…。
「いえいえ、お役にたてたならうれしいです。」
…うん。安心できる美人だ。
美人さんと別れ、地下鉄に揺られ新しい家の最寄り駅についた。
そして
あれ?おかしいな…。ここどこだ?
デジャヴしかない。
まさか自分がここまで方向音痴だとは思っても見なかった。
安心できる美人さんはもういないが、幸い近くで交番を見つけることに成功した。
お巡りさんに聞いても結局迷い気味だったが、引っ越し先のマンションが他よりも高く立っていて目立っていたからなんとか着くことができた。
「すみませーん、今日から部屋を借りさせていただく志賀直哉というものですが!」
マンション入り口を抜けた場所にあった「ご用の方はこちら」という窓口に向かって話しかける。
返事がない…。人はいるのだろうか。
「すみませーん!どなたかいませんか!!」
するとスーッと扉にかかっていたカーテンが開き、中からグラマラスなお姉さんが出てきた。
なんだか政治家の秘書みたいな人だな…。
「失礼しました。イヤホンをしながらゲームをしていたもので。」
仕事をしろ。というかゲームしてたのか…意外だな。
軽い手続きのようなものをする。
「では、志賀さんは7階の705です。ポストは右手にあります。」
「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
彼女は、では、というなり凄いスピードで戻っていくが今度はカーテンを閉め忘れていたので中が見える。
そこにはダンボールに入ろうとしてるお姉さんの姿が…。
……うん。なにもミテナイ。
自分の部屋前に着き鍵をあける。
荷物は既に運び込んであるらしい… 整理が大変そうだ。
明後日からは学校も始まる。
今日明日でこの部屋を片付けなきゃな…。
学校…、本来は「力」のせいで人とは極力関わりたくはないのだが、知りたいと思わなければいいだけなのだからきっとうまくやっていけるだろう。
そう思っていた。