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攻略者がやってきた

作者: かずほ

 キーン、コーン…


 終業のチャイムが鳴り先生が口を開いた瞬間、それは起こった。


 ガガガタンン!!


 ほぼ同時に席を立つ5人の女生徒。


「「「「「先生!さようなら!!!」」」」」


「ちょ、おま…」


 えら、待て、という言葉を聞く事なく生徒らは先を競って廊下に出る。


「ちょっと、アンタ邪魔!」

「そっちこそ…!」


 バターン!


「いやーん!ころんじゃった!」

「てめ!自分が転けたからて、足掴むな!!」

「ではご機嫌よう!」


 おほほほほ…


 高らかな笑い声とけたたましい足音が遠ざかって行く。


 しん…


 教室が静まり返った。


「きりーつ」


 がたたた


「れーい」


「ほい、おつかれー」


 おそらく本人が一番お疲れであろう先生は、肩を落として出ていった。



 時を遡る事2ヶ月前。


 我がクラスに転校生がやってきた。


 それも5人。


 何故ウチのクラスに転校生が5人全て入って来たのかと言えば、5人空きができたからだと思う。

 2人は海外と別県へと引っ越し、一人はアイドル目指して上京、あと2人は素行不良と引きこもりで退学と長期休学。


 しかも同時期に。


 関連性のないながらも同時期に起こった突然の出来事にクラスは一時期騒ついたが、人の噂も何とやら、2ヶ月も経てば時折上る話のネタ程度には落ち着いた。

 そして落ち着いた頃にやってきたのが彼女らである。

 5人同時にやってきた転校生らは、生まれも育ちもバラバラながら、いずれも劣らぬ美少女だった。

 ボーイッシュ、清楚、明るい系にお嬢様、はてはドジっ子まで。

 クラスの男子は一斉に湧いた。

 対して女子は一斉に落胆の色を見せた。


 そんな美少女以外に共通点のなさそうに見えた彼女らだが、共通点が2つ程ある。


 一つは無類のイケメン好きである事。

 一つは滑稽にすら見える程無神経である事。


 我が校には校外にまで知れ渡り、ちょっとしたアイドル並のファンクラブを持つ生徒が何人かいる。

 その中でも特に目立つのが生徒会の5人。


 彼女らは転校の挨拶や交流もそこそこに、彼ら5人に猫顔負けのまっしぐらさを見せた。


 ターゲットは日毎に違うが行動パターンは5人一緒。


 威圧感たっぷりの生徒会長にビンタを食らわせたり、やんわり物腰の副会長に「可哀想な人…」とか言って憐れみの目を向けたり、女の子大好きと噂の会計に「曲がり角でぶつかった」(本人達談)と称して跳ね飛ばしたり、真面目に仕事する庶務君達の邪魔をしたり


 それも全て5人一緒なもんだから大変な事この上ない。

 その話を聞いた私は、「5人分のビンタって…!!」と、腹を抱えて笑い、「え?ソコなの!?」と幼馴染に突っ込まれた。


 (かくい)う件の、副会長は私の一つ上の幼馴染であったりする。


 普段、物腰柔らかな彼が怒る事など、ここ数年は見た事がない。


 5人の美少女(初対面)に謂われのない、憐れみの目を向けられた彼は怒りこそしなかったものの、正直イラっとしたそうだ。


 その事実が更に私の笑いのツボを刺激したのだが、

「他人の不幸を笑うのはよくない」と、学校帰りの往来の隅で、約30分程説教を受けた。


 彼女らの件以来、生徒会室は教員と彼らが許可した人間意外の立ち入りを一切禁止されている。

 待ち伏せ等の危険もあるのだが、そこはファンクラブの子達が一致団結し、幾重にも検問を行なっていたりする。


 その為、彼女らも生徒会室周辺には近づけない。彼らが安全区域に入るのが先か、彼女らが彼らを捕まえるのが先かの勝負となる。


 それが今に至る経緯である。


 男子達は悲嘆に暮れ、女子達は怒りを通り越して呆れ、果ては面白がる者もいる。


 私とて、完全に他人事であれば、この状況を笑って眺めていられるのだが、何かにつけ、愚痴を零す幼馴染の現状に、笑い事ではない何かを感じた。



 今朝は偶々学校に行く時間が重なり、一緒に歩いていれば、校門前に互いに牽制し、押しかける5人の美少女達。

 何事かと思えば、彼に向かって一斉に指差し(人に向けて指を指すなと教わらなかったらしい)、「「「「「貴方の笑顔、嘘くさい!」」」」」と、何とも失礼極まりない言を発したのだ。


 さすがにこれには捨て置く事はできず、口を開きかけた時、ポン、と彼の手が肩に乗った。


 見上げた私は背筋に悪寒が走った。彼の笑顔は、いつもと変わらぬ笑顔に見えただろう。


 だが、私には判る。


 彼の堪忍袋の尾は限界に近かった。


 図らずして、彼女らの言葉が彼の「嘘くさい」笑顔を引き出したのだ。


 彼女らもそんな彼の変化に気付いたのだろう。だが、これがどういった類の笑顔かはきっと理解していない。


 だって、彼女らの目は期待に輝いている。


 彼はまず一言。


「うん」


パアッという効果音が付きそうなくらいに彼女らの表情が輝いた。


 そして二言目には


「よく言われる」


 その言葉に一様にぽかん、と間抜け面を晒す彼女達。


「行こうか」


 彼はそんな彼女らの様子に溜飲を下げたのか、何事もなかったかのように私を促して歩き出した。



 *


「ちょっと、何よアレ…」


「こんなハズじゃありませんでしたわ…」


「あそこは驚いて「うん、君、面白いね」っつってほっぺにチューのハズだろう?」


「どこかで選択肢を間違えちゃったんでしょうか〜?」


「そもそも、あちらも5人、こちらも5人なんですから、一人につき、一人ずつ攻略すれば良かったんじゃないですか?それなのに、あなた達ときたら、完全に逆ハーエンド狙いで行動なさるから!」


「そりゃてめーも同じだろ!!」


 などという会話が、校門前で繰り広げられていたなんて、私は知らない。





 お わ れ

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