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自作小説倶楽部 第4冊/2012年上半期(第19-24集)  作者: 自作小説倶楽部
第23集(2012年5月/「金環食」&「風・窓」
55/62

10 パールくん 著  窓 『裸窓』

主人が出かけた。


私は、お気に入りの場所へ移動し、おもむろに全裸の体を横たえる。


南西に面したその窓は、まだ午前の優しい光をたたえている。


ガラス窓を開け放ち、私は人の目など気にせずレースのカーテンと窓の間に滑りこむ。


そして、用意してあったクッションに頭をのせると、仰向けに大きく体を伸ばす。


たわんだ網戸ごしに空が見え、その下には、ビジネスホテルの窓が、同じく開け放たれ、カーテンが揺れているのが見える。


時折、人の影が動くような気がするが、この時間帯ならビジネスマンではなく、掃除のおばちゃんだろう。


私は梅雨の前の、最後の爽やかで、暖かくなってきた風を吸い込む。


やわらかな風が部屋に入り込み、それを大きくはらんだレースのカーテンの裾が、私の体を撫でる。


その後を風が、微かにうぶ毛の1本づつを舐めていく。


部屋を一巡りした風は、再び窓に向い、さっきとは反対向きにレースのカーテンで私の体を撫でる。


何度も、海の波とは違う、予測できないリズムでの愛撫は、私を恍惚とさせた。


通りの車の音にまじって、遠くから、飛行機のエンジン音が聞こええる。


遙か遠くの、雲の上と同じ空気の塊を肌で感じるうちに、まどろみ、眠りに落ちた。




どれくらいの時間が経ったのか、私は脚に焼けるような熱さを感じた。


もう、西日が入ってきたのだ。


熱さを避けるように、体を曲げて脚を引っ込める。


それでも、太陽が西に傾くにつれて、西日の舌は、床から窓の左の壁へ向かって伸びていく。


私は、まだ朦朧とした意識の中で、熱い吐息に変わった風に身をまかせながら横たわっている。


やがて、玄関の鍵がガチャリと鳴った。


主人が帰ってきたのだ。


「ただいま」


私はまだ、動けずにいる。


「・・・おい、またそんなところで。なにやってんだ・・・」


主人は私を払いのけるようにして、窓とカーテンを閉めた。


そして、私を抱きとめると優しく囁いた。


「窓はだめだよ。落ちたら危ないじゃないか」


近づいてくる唇を避け、私は主人から離れる。


「ちゃんと窓の鍵を掛けたと思ったんだけどな」


主人は私を見下ろしながら、首をひねっていた。


私は主人のスーツのズボンで、すこし乱れた毛並みを整えながら言った。


「にゃおん」




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