10 パールくん 著 窓 『裸窓』
主人が出かけた。
私は、お気に入りの場所へ移動し、おもむろに全裸の体を横たえる。
南西に面したその窓は、まだ午前の優しい光をたたえている。
ガラス窓を開け放ち、私は人の目など気にせずレースのカーテンと窓の間に滑りこむ。
そして、用意してあったクッションに頭をのせると、仰向けに大きく体を伸ばす。
たわんだ網戸ごしに空が見え、その下には、ビジネスホテルの窓が、同じく開け放たれ、カーテンが揺れているのが見える。
時折、人の影が動くような気がするが、この時間帯ならビジネスマンではなく、掃除のおばちゃんだろう。
私は梅雨の前の、最後の爽やかで、暖かくなってきた風を吸い込む。
やわらかな風が部屋に入り込み、それを大きくはらんだレースのカーテンの裾が、私の体を撫でる。
その後を風が、微かにうぶ毛の1本づつを舐めていく。
部屋を一巡りした風は、再び窓に向い、さっきとは反対向きにレースのカーテンで私の体を撫でる。
何度も、海の波とは違う、予測できないリズムでの愛撫は、私を恍惚とさせた。
通りの車の音にまじって、遠くから、飛行機のエンジン音が聞こええる。
遙か遠くの、雲の上と同じ空気の塊を肌で感じるうちに、まどろみ、眠りに落ちた。
どれくらいの時間が経ったのか、私は脚に焼けるような熱さを感じた。
もう、西日が入ってきたのだ。
熱さを避けるように、体を曲げて脚を引っ込める。
それでも、太陽が西に傾くにつれて、西日の舌は、床から窓の左の壁へ向かって伸びていく。
私は、まだ朦朧とした意識の中で、熱い吐息に変わった風に身をまかせながら横たわっている。
やがて、玄関の鍵がガチャリと鳴った。
主人が帰ってきたのだ。
「ただいま」
私はまだ、動けずにいる。
「・・・おい、またそんなところで。なにやってんだ・・・」
主人は私を払いのけるようにして、窓とカーテンを閉めた。
そして、私を抱きとめると優しく囁いた。
「窓はだめだよ。落ちたら危ないじゃないか」
近づいてくる唇を避け、私は主人から離れる。
「ちゃんと窓の鍵を掛けたと思ったんだけどな」
主人は私を見下ろしながら、首をひねっていた。
私は主人のスーツのズボンで、すこし乱れた毛並みを整えながら言った。
「にゃおん」




