6 ゴキブン 著 金環食 『七宝国のライカン達』
ここは七宝国ちゃんとした法治国家の日本国の用地の中にある国です。
国といっても観光用にそう呼んでいるだけで、昔に律令制に基づいて設置された日本の地方行政区分である国を七宝市に使用して七宝国とし、観光の宣伝に使用しているだけです。
私はその七宝国の国の刑事ですが、日本国家の慣わしによる国家公務員と地方公務員でいうなら後者になるようです。
七宝国の住人は不思議なことに、職種によってシンボルとなる動物の格好に一時の間ですが変身することができるのでした。
これを世間では人狼とかライカンスロープと言って恐れられてるいるみたいですが、この国では極々当り前なことなのです。
獣人に変身するのは仕事に打ち込みすぎて精神的に高揚したときや自然の大きな力を受けたときなど、その変身する動物の職種によっていろいろです。
満月の夜に変身する狼男は有名ですが、彼の仕事はフリーターで職種の決まっていない人も中にはいます。
さて、今回私の担当した事件は、日食のときに獣人に変身した男によって引き起こされました。
今回の日食は金環皆既日食といわれ、月と太陽の大きさがまったく同じに見えるときに起こる日食で、その時に起きた事件です。
その男の仕事は表むきには売れっ子のマンガ家で先生と呼ばれ皆に尊敬されていましたが、裏ではこの国を自らの武力で守る軍国主義の国家にして日本国から独立しようとクーデター計画し、民間の獣人軍隊を編成してその指揮を行っていました。
日食は午前6時頃から始まり午前9時頃に終わりました。事件はその3時間の間の出来事でした。
私の勤める七金玉署に最初にクーデター連絡が入ったのは日食が始まった5分後の午前6時23分でした。
「七宝国の大統領が狼軍団によってさらわれました。狼達は口々に我が国も核武装せよと叫びながら大統領(市長)をどこかに連れ去りました」
と、大統領官邸(市長宅)のお手伝いさんから110番通報が入ったのが最初でした。
警察官達はこの前代未聞の出来事に危機を感じ興奮して獣化し、ほとんどの警察官がイヌに変身してしまいました。
そして始まったのです。
テロリストの狼達と国の治安を守るイヌ達の戦いです。
日食が始まって30分後の午前6時48分。
狼軍団から犯行声明の映像がインターネットを通じて七金玉署に送られてきました。
そこには、豚に獣化し縄で括られた大統領の姿と狼軍団の兵士が三人映っていました。
「我々は七宝国核武装隊のウルフ軍だ。このたびのクーデターはウルフ軍によって決行された。大統領の命と国民の生命の安全を願うなら、直ちに警察を非武装化し解散させ我々の指示に従え。我々はすでに核爆弾と核弾頭ミサイルを所有している。もし要求が受け入れられない時はそれらを使用して報復を行う。時間のリミットは一時間後の午前8時だ。30分後にまた連絡を入れる」
それを見た当直警察官が七金玉署に向っている署長に、すぐに映像をメールに添付して送りました。
署長が七宝国警察庁本部(七金玉署)に到着したのは、それから10分後の午前7時10分でした。
「これからすぐに七宝国家安全緊急対策会議を署長室で行う。警視と警部クラスをすぐに集めてくれ」
警視正の署長が署に着くなり、そう署内のイヌ達にゲキを飛ばしました。
七金玉署の警視が三人、警部が私を含めて四人集まり会議が始まってすぐに、ウルフ軍団から二回目の連絡が入ったのは午前7時30分でした。
今度は電話連絡だったので、署長がその電話を取りました。
「もしもし、七金玉署署長だ」
署長がそう受話機で答えると、すぐにウルフ軍団のリーダーが一方的に話を始めました。
「七金玉署の署長、警察業務の放棄は決まったかね。すぐに署内駐車場に武器を集めろ。そして下着一枚で警察署の前に整列しろ。でないと大統領の絞殺映像を30分後に送ることになる。我々は衛星画像で君達イヌの行動を監視していることを忘れるな。理解したならすぐに行動に移せ」
電話はそれで切れてしまいました。
「もしもし、もしもし」
その後署長は話をしようと切れてる電話に叫びましたが、つながる訳がありません。
窓の外は暗くなり太陽はすべて月の影に隠れ金環日食は最高な場面を向え、リングになった太陽が今の国の危機を象徴していました。
「しかたない。ウルフ軍団の要求に応じる。直ちに署内の武器を駐車場に集め、君達は下着一枚で署前に整列だ」
署長が我々にそう、命令を下しました。
イヌになっていた私達は急いで署内の拳銃、警棒など護身用の武器を駐車場に集め、裸に近い格好で署の入り口に整列しました。
皆、すでにイヌに変身しているので裸でも大丈夫でした。
私は空を見上げ太陽のドラマを最後まで見ていました。
金環食も午前9時に終わり、七宝国は核を保有する市となりました。




