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自作小説倶楽部 第4冊/2012年上半期(第19-24集)  作者: 自作小説倶楽部
第19集(2012年1月)/「干支」&「男」
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5  パールくん 著 干支 『年越し露天風呂』」

もうもうと湧きたつ湯気の中で、「ほぅ」と女の白いうなじが溜息ひとつ。


湯気は黒い湯の肌を滑り、大岩にぶつかると真っ黒な天に登った。


女はのぼせて赤くなった頬を冷やすため、近くのつつじに積もった雪に手を伸ばした。


―― ああ、冷たくて気持ちいい。


風呂の熱気で、翌日の綿飴みたいにしぼんだ雪は、がりっと爪にひっかかる。


腰まで浸かった白い躰が、三日月さんで更に白い。


ざらざらした雪を頬から首、首から豊かな乳房に塗りつけていく。


「あぁ」声にならない溜息をもうひとつ。


そして、また肩まで湯に浸かる。


何度繰り返しただろうか。


突如、天に登るだけだった湯気がうずを巻き始めたと思うと、その中心から大きな男が落ちてきた。


湯は激しく波打ち飛沫をあげた。


―― いやだ、たっつぁん。かけ湯くらいおしよ。


―― ふん、こんな露天に桶なんかねぇよ。それにしても、卯佐姐は色っぽいねぇ。いでで。


卯佐は乳房に伸びてきた無骨な手を掴むと、かりりと前歯で噛んでやる。


慌てて引っ込めた龍五郎の腕には、きらりと鱗が光った。


―― もう時間だぜ。上がんねぇのかい?のぼせたろ。


―― うん・・・けど、もうちょっと居てもいいかい?


―― おいおい、その気になっちまったのかい?こっちゃ、大歓迎だぜ。


龍五郎は鼻息荒く、ばしゃっと湯で顔を洗った。


卯佐は後退りながら、ひとつの岩を指さし


―― 勘違いしないでおくれ。この雪だるまが溶けるまで、湯に浸かりたいんだよ。


湯の際の岩の上に、小さな雪だるまが腹まで溶けて、ちょこんと乗っていた。


龍五郎は、首をかしげながら首まで湯に浸かった。


―― さっき、願掛けしたんだよ。これが溶けるまで、湯に入っていられれば、次の年は日本がいい年になるってさ。


岩に頭を預けながら、とろんと躰を伸ばす卯佐の息は荒く、体温が岩に伝わり、雪だるまはじわじわと溶けていく。


―― はっは。やっぱり、のぼせた卯佐姐は、色っぽいねぇ。寅次郎には見られねぇ姿だな。いい順番でよかったぜ。


―― あああ、もうだめ。アタシ、いくわ。


卯佐の躰が、白く、白く、白くなり。


潤んだ瞳は真っ赤になり。


まるく、ちいさな毛の塊になり。


ぴょんと雪に跳ねると、振り向いた。


―― 大丈夫だ、卯佐姐。雪だるま、全部溶けてるぜ。


白うさぎは、嬉しそうにしっぽをひくひくと動かすと、湯気を纏いながら山の奥に消えていった。


ここは、干支の露天風呂。


今宵は年越し、だから交代。


いちねん、黒い湯の中で日本をいつくしむ。



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