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自作小説倶楽部 第4冊/2012年上半期(第19-24集)  作者: 自作小説倶楽部
第23集(2012年5月/「金環食」&「風・窓」
49/62

4 紫草著 風 『風運ぶ』

注意・この物語はフィクションです。登場する人物・事柄は全て架空のものです。




 折角、四輪駆動を買ったのだからと、滅多に来ることのない山へと向かった――。


 車で行ける所まで行き、そこからは徒歩。暫く登ったところで、結衣が此処がいいと河原に足を止めた。


 山間にはあるものの、山奥という場所は目前だ。

 どうせなら、もう少し行った方が景色もよさそうな気がするが、そんなことは考えていないらしい。持ってきたレジャーシートを広げ始めている。


――ま、いっか。


 俺も持ってきたバスケットを、そこに置く。

 山の中にありながら、直前のこの場所は確かにいい処なのかもしれない。流れる川も大きいものではなく、もう少し源流に近づけば危ない場所になるのかな。


 昼下がり。

 陽射しは木々の間から穏やかに差しこみ、流れる水の音は眠気を誘う。いつしか夢うつつの中にいた俺の、胸の上に違和感を覚えた。


――あれ。結衣の腕じゃない。何か、別のもの?


 眠気と闘いながらも片目をうっすらと開けると、結衣が耳元で囁いた。


『動かないで。獣も、峻ちゃんの雰囲気に警戒心を解いたみたい』


 一瞬、何を言われたのか判断に困る。

 しかし自分の上に栗鼠の姿を認めた刹那、結衣の言葉を理解した。


――野生の獣が、人に近づいてくるものか。


 結衣は俺のせいみたいに言ったけれど、きっと違う。

 コイツは結衣に惹かれて出てきたんだ。そして結衣の腕が乗る俺の胸に、自らも足を伸ばしたのだろう。


 暫く二人と一匹で微睡んでいた…


『もう、山にお帰り』

 そう言った結衣の厳しい言葉に従うように、獣が俺から離れていった。


「いいのか」

『うん。人は警戒しなくちゃいけないものだから、ちゃんと帰さないとね』


 山は近づき過ぎてはならない。それは海も同じだろうと彼女は言う。確かにそうだ。

 自然は突如、牙を剥く。

 

 アイツの去った方を目で追った。そして流れる川の源流を求めるように、頂上を見上げる。

 すると、どこからともなく薫風が吹いてきた――。


 車に戻り、走り出す。

 山の神様が、粋な計らいをしてくれたのかもな。


 そんなことを言ってみたが、返事はない。

 ちらりと横目で助手席を見ると、結衣はすでに夢の中だった。


【了】 

著 作:紫 草 

Copyright © murasakisou,All rights reserved.


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