表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第4冊/2012年上半期(第19-24集)  作者: 自作小説倶楽部
第23集(2012年5月/「金環食」&「風・窓」
48/62

3 ぼうぼう 著  窓 『呪縛の家』

 彼女はその手紙を、だれも使わない時代遅れのガラスの灰皿に入れると火をつけた。メラメラとめくれあがる文字が不快だった。

「お姉ちゃんは、かなちゃんが元気な・・・」

文字は一瞬で黒い灰になった。

手紙の灰の残骸を見届けて、携帯メールを打った。

「お姉ちゃん、手紙ありがとう。嬉しかったよ」

ぞわっと背筋が凍る感覚のその文章をあの女のアドレスに送信した。どこまで脳天気なんだろう?私のことなんて一つも理解していないで、姉貴ぶるのが嫌なことぐらい気付かぬのだ。

窓の外を伝う雨水に、憎しみと怒りの自分の顔がぼわっと映り込んで、その表情に驚いた。

こんな恐ろしい表情にさせる姉が憎かった。

結婚という名目で、このぞっとする家の呪縛から独り逃げた姉の行為は裏切りそのもであった。それまで、姉とこの家の呪縛から、互いをかばい合い過ごしてきたのに!怒りで肩が震える。

両親を事故で亡くし、私たちを引き取った支配者の祖母が死んだとき、私たちは涙ひとつこぼさずに、ただ無表情に互いを抱き合っていた。「もう私たちを縛る者はいないのよ」

姉は結婚を決めたと言って、見知らぬ男性を紹介し、そして出て行った。

私たちがまだ縛られたままだということにあの女は気付いていないのか?このぞっとする屋敷は、いまだに祖母そのものではないか。なぜ、それに気づかぬ振りをして姉は出ていけたのだろう?窓の外の世界は加奈子には異次元でしかなかった。

雷が轟き、再び、加奈子の顔がガラスに浮かび上がった。そこに映っていたのは祖母の若いときの顔なのを加奈子は知らない。屋敷に縛られてると信じている加奈子は、すでに自分がこの屋敷の支配者になっているることに気づいてなかった。メールを読み終えた舞子はやはり、激しい雨が打ち付ける窓を感情なく眺めていた。単調な返信メールから溢れる妹の想いは自分を許していないことを、舞子は知っていた。結婚で逃げたはずの呪縛は加奈子との絆を断ち切り、新たな憎しみを生んだだけだった。あの家から逃げることはできないのだ、絶対に。窓の外の世界は幻影だった。夫はそんな呪縛など元からないのだと言う。しかし、その声は舞子の耳に遠い幻だった。

夢のような生活は、夢のまま終焉を迎えるのだ。憎しみと呪縛の中にしか舞子の現実はないのだ。彼女は無表情に結婚生活ー夢の世界ーから、己の現実の世界に戻って行くのだ。すでに新しい支配者が待ってるあの家へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ