1 七川冷 著 風 『風神の実習』
「フォン先輩に風の吹かし方は一週間聞いた。後は、実際に体験することだな。」と、クドクド説教垂れる先輩の目を盗んでこっそり呟いたのは犬西流雅。俗に夢の世界と呼ばれる場所に建設されている神様や妖精になりたい人が集う学校に通う風神になる夢を持つ1年生である。今回は、その学校の実習で4月1日から5月30日を日本に風を吹くことによって良いことを5回以上するために先輩に仕事の技術を教わりながら紙や妖精の仕事を体験するという訳だ。
流雅は、日本の上空に現れるとさっそく行動を開始した。始めに、人々が暑い暑いと言うのを聞こえてきたので涼ませようと少し強く風を吹くと、その人々の一人がまくり上げて短くした制服のスカートをめくってしまった。
次に、保育園の園庭でシャボン玉を吹いて遊んでいたのでシャボン玉を高く浮かせてあげようと弱めに風を吹くと、シャボン玉を割ってしまって子ども達を泣かせてしまった。
3回目に、3階の学校の窓から紙飛行機を飛ばしていたので飛行機を遠くへ飛ばしてあげようと風を強めに吹くと、紙飛行機の紙が返却されたテスト用紙だったようなので事実に気づいた時には、既に2つ隣の市まで飛ばしてしまった。
あぁ~、これでは実習の目的を果たしてないと先生達に叱られそうだ。どうしよう・・・と、流雅が途方に暮れていると中国から黄砂を運んできたフォン先輩が現れた。「何しているの、犬西君。ほら、実習にふさわしい場所を案内するから付いてきて。」フォン先輩は、流雅を連れてとある地方のまつり会場へ連れて行ってあげた。そこでは、幼稚園児達が作ったと思われる鯉のぼりや屋根より高い位置で泳ぐ鯉のぼりなどがたくさん洗濯物のように横に吊らされていて、下でたこ焼き屋や綿アメ屋などの屋台で人々が賑わっていた。[早く強めに吹いてあげなよ、風。ボヤボヤしていると犬西君が実習中に勝手な行動をやって人々を困らせましたと先生に言うよ」フォン先輩の指示通りに吹いてみると、吊らされていた鯉のぼりは優雅に泳ぎ始め、祭に参加していた人々を喜ばせた。
月日は1分1秒も待つことがなく過ぎていき、実習が終わる日がやってきた。[先輩、今までありがとうございました。」[早く、立派な風神になれることを期待してるから頑張ってね。」[はい!では、さようなら。」
誰だって誰かに支えてもらわないと生きることは出来ないと改めて実習を通して思った流雅であった。




