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8 奄美 剣星 著 愛について 『隻眼の兎の憂鬱』
十六歳というのは恋に恋する年頃だ。桜が咲いたりちったりする頃、人と別れたり出会ったりするのだそうだ。出会いといえば――
私の家は港がみえる高台にある。南欧風の石壁と三角屋根の街並みをしている。竹刀を背負ったブレザーの少女が、長い坂道をギコギコと自転車で登って行く。繰り返される昼下がりの光景だった。街並みと無関係に道路わきは桜樹が植えられ咲き誇っている。その人と出会ったのも、部活の帰りだったことを記憶している。
ブロロロロ、キキーッ。
「やあ、有栖川君」
「……」 汗。
サイドカー仕様のスズキKATANA。コクピットに収まっているのが隻眼の兎・ギルガメッシュ、ライダーがサーベルタイガー・エンキドウ。
恋の対象外だった。




