7 ジャム 著 嘘 『不思議な話』
「次は千秋の番」
「いやいや、僕にはそんな話できないよ」
「一つくらいは、何かあるでしょ?」
渚はいつも僕に無理難題を振ってくる。今日の場合は、不思議な体験をした話だとか。まったく無いというわけではないけれど、不思議だったのか否か、自分の中で整理がついていない。
それでもいいなら……。
えっと、僕が大学二年になったときだったと思う。
その頃は下宿に住んでいて、近くに公園があったんだ。公園といっても、遊具の類はブランコと滑り台と砂場くらいの小さいやつなんだけど、夜はよくそこに散歩がてら行ってたんだ。ブランコを漕ぎながら夜空を見てると、星を掴めそうな気がしてさ、とっても素敵な気分になれるんだよね。
あ、ごめんごめん……、話が逸れたね、何の話してたんだっけ? ああ、そうそう、不思議な体験ね、うんうん。
例の公園なんだけど、いつもみたいに夜に行ってみたら、なんと先客が居たんだよね。しかも僕のお気に入りのブランコに。僕が公園に行ったときは一回も人を見かけたことがなかったから、ちょっと怖かったんだけど、その日はたしかほろ酔いだったから、どうにでもなれって気持ちだったのかも。
それでね、その人はなんと女性なんだよね、ちょっと安心しちゃった。
せっかく来たんだし、ブランコに乗らないと帰れないと思って、僕は彼女の隣のブランコに座ったんだ。そしたらさ、突然彼女が、自分のことを宇宙から来たって言うんだよ。たしかに緑っぽい黒髪だし、ちょっとびっくりするくらい綺麗な白い肌だったし、とても人間とは思えなかったんだけど。だからって、それくらいなら日本中に12人くらいは居ると思うんだ。
しばらく話を聞いてると、どうやら彼女は火星の隣の星から、任務で地球に来たらしいんだよね。その任務が今日で終わりだって言うんだ。もう少ししたら、UFOが迎えに来て、母星に帰るんだって。もう何が何だかサッパリだよね。僕の方が宇宙人になった気分だよ。話を聞いたせいで、僕洗脳されちゃったかも、怖いよう。
「その後は?」
「どうなったかなぁ……。うとうとしてて、気付いたらいなくなってたんだよね」
「なにそれ、ただ単にその女の人が嘘ついてただけでしょ」
「本当かもしれないよ? 僕は3パーセントくらいは信じているけれど」
「ワタシ、でしょ?」
「あーはいはい、私私。つい僕になっちゃうんだよね」
「別に僕は、千秋が僕って言ってもいいと思うけれど」
「そしたら渚と被っちゃうじゃん。それに、これからは女らしくしようと思ってね」




