4 シェル 著 男 『王子の国』
あるところに 「 王子の国 」 とよばれる 小さな国がありました。
その国に生まれた男の子は
得意な事、 頑張っている事を
周りの大人が 「 この子は素晴らしい! 」と評価すると
国の役人から 「 王子の称号 」が貰えるのでした。
文学が得意な 文学王子、
運動が得意で 汗を拭く仕草が素敵な タオル王子、
食べ物に詳しい スプーン王子、
絵が上手な キャンバス王子。。。。
いろんな王子がいました。
王子になったからといって 特別な待遇は何もありませんでした。
でも どの親も 「 うちの子も 早く王子になってほしい 」と 願うのでした。
◇
カイはいつも 母さんのお手伝いをしていました。
小さな弟や妹がいるから、 洗濯物も毎日 山のように出るのです。
「 カイ。 すまないねぇ。 立派な学校に 行かせてやれなくて。。。
これじゃあ王子の称号は貰えないねぇ。。。」
母さんはそう言いながら 少し残念そうな顔をしました。
父さんも母さんも 一生懸命働いていたので、 カイは学校が終わると すぐに家に戻り 幼い弟や妹たちの面倒を みなければなりませんでした。
でもカイは幸せでした。
家族が大好きでしたし それに 洗濯物を取り込んだ後、
楽しい事が待っているんですから。
◇
それは 洗濯物を干す時に使った洗濯ばさみを パチパチと組み合わせて
弟妹がねだる 動物や 船や ロボットを
本物のように 見事に作りあげることでした。
弟妹はもちろん
カイ自身も いろんなものを作る事が
とても楽しくて仕方ありませんでした。
でも次の日の洗濯のために 作った動物や 船や ロボットは
壊さなければなりませんでした。
だからこの事は 弟妹たちしか 知らなかったのです。
◇
長い長い年月が経ち カイたち兄弟は 老人になりました。
弟のソラルは 遠い国で映画監督になり
妹のモモは裁縫学校のパッチワークの先生を今年退職しました。
カイは持病が治らず入院していました。
ある日、 病室のカイと カイを看病しているモモの元に
素晴らしい知らせが届きました。
弟のソラルが 世界映画祭の 最優秀監督賞を受賞したのです!
授賞式の様子が衛星中継で見られるというので
カイの病室には 大勢の仲間が集ってきました。
そしてソラルのスピーチが始まりました。
「 私が幼い時に 兄が作ってくれた洗濯ばさみの動物や船やロボットが
今の監督としての 私の原点なのです。
私は 王子の国の出身ですが 私も兄も 王子にはなれませんでした。
でも兄さんに伝えたい。 あなたは私のヒーローでした。
洗濯ばさみ王子の称号を このトロフィーと共に 私から贈ります 」
カイはベッドの上で泣いていました。
僕に謝っていた母さんが聞いたら どんなに喜ぶだろうと思いました。
おじいさんになって 弟から貰った王子の称号は
どんな偉い役人に貰うよりも誇らしく 温かな気持ちになりました。
~ おしまい ~