4 そよそよ 著 愛 『愛の嗅覚』
『愛の嗅覚』
玄関の鍵が開く音が聞こえたので、私は飛び起きて出迎えに向かった。
予想通りパパだった。実は外の靴音で分かっていたの。「おかえりなさい~」私はできるかぎり可愛い声で言う。「ああ、出迎えありがとう。お前の顔みたら癒されるよ」パパは私を抱きしめると、額にちゅっとキスをする。
…あらいやだ、なんか匂うわ、この人。…煙草はいつも通りなんだけど、あとは湿った雨の匂いと、毛穴からしみでてくるような、ニンニクの匂いと…お酒とよくわからない匂い。…うん…これは女の匂い!だわ。フェロモンを感じるもの!「ひどいわ!パパ。私というものがありながら浮気してきたのね!」私が叫んでも、パパは聞こえないのかニコニコとしている。「うんうん。僕はお前が大好きだよ~」…今はそんな機嫌とったってダメなんだから。
私は、毎日、パパの帰りを家でずっと待ってるの。ずっとずっとよ?え?結構寝てるんじゃないかって?…そんな事ないわ!失礼ね。私だって色々用事があるんだから。子供とも遊んであげないといけないし。お母さんの機嫌だってとらないといけないし。金魚だって見ないといけないし、お風呂だって点検してるし。
そんな一日を過ごしながら、ずっとパパの帰りを待ってるのよ?こんな一途な愛を、私以外一体だれから貰えると思っているの?
「…あら、おかえりなさい」あ、お母さん。「おお、ただいま~今日は飲みすぎちゃったよ~。ほんとリリーの出迎えは癒されるよね。…そういえばさっきから異様に吠えてるけど、お腹すいたのかな?」
「…あら、あなた、お酒とたばことニンニクと…それから、香水臭い。ちょっと…スナック行ったでしょ。リリーはそういう匂いに敏感なんだから。ね~リリー?悪いパパよねえ…でも夜なんだから静かにね…はい、ハウス!」
…折角パパと遊ぼうと思ってたのに。
私はすごすごと寝床に入った。
ねえ、パパ
明日は早く帰ってきてね。
私、ずっと待ってるから。
おわり




