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自作小説倶楽部 第4冊/2012年上半期(第19-24集)  作者: 自作小説倶楽部
第22集(2012年4月/「嘘」&「愛」
37/62

3 紫草 著  嘘 『刷く』 色香3

注意・この物語はフィクションです。登場する人物・事柄は全て架空のものです。


『あれ、みんなは』

 会社の部署違いの同僚と、合コンに来ているお好み屋の一角だった。個室っぽくなっているそこは、大きめの鉄板が二つ並んだ、掘り炬燵仕様の席のある場所だった。

 上司からの緊急連絡が入り少し離れていた三枝和紗が、席に戻ってみるとそこには先輩の松下紗江子がいるだけだ。

 思わず、どうしたのだと聞いてみた。


 彼女は、少しずつ用があって席を離れていると言った。


 そんな偶然、と思いつつも、そこが合コンという場だったから信じてしまった。そして、すぐに戻ってくるだろうと彼女の話を聞くことにした。

 しかし、いつまで経っても誰も戻ってこない。

 松下の話は途切れることがなく、誰も戻ってこないというのに気にもしていないようだ。


(そっか。こいつ、俺とフケるつもりだったっけ)

 そんなことを、やはり同僚の南條花音が教えてくれた。


 花音。

 松下と同い年でやっぱり先輩だけど、でもそれだけじゃない。

 彼女は女。大事な恋人。


 携帯をチェックする。メールも着信履歴もなかった。

 どういうことだろう。


 相変わらず、だらだらと意味のない話を続けていた松下の話題が突然、花音のものに変わった。

 和紗は思わず、松下に視線を移した。


「彼女、合コン女王なの。いつも男性が足りないと花音に頼むのよ。すると、あっという間に集まっちゃうの。凄いでしょ」

 今にも腕を絡めてきそうな雰囲気が漂い、和紗は水割りを作るために席をずれた。流石に、その間合いを追ってくることはない。少しだけ息を吐くとグラスの残りを飲み干し、新しい水割りを作った。


 それからは花音と自分の、過去の合コン話だった。

 如何に多くの男が花音の声を聞いて集まってくるか。何人の男が花音と二次会三次会に消えていったか。そして、そういう男を全く相手にしないのだと話す。


 ただ和紗はこんな話に興味はなく、松下にしたらいつもと違うと思ったのかもしれない。

 暫くすると、ここだけの話、という女が大好きなフレーズが飛び出した。

 だいたい、ここだけって言って、そこだけだった(ためし)がないし、この手の話ほど当てにならないものはない。それまでと同じように適当に誤魔化して、いつ帰ろうかと考え始めていた。


「今日だって、花音がみんなを連れてカラオケに行っちゃったのよ」

 その言葉が、和紗の逆鱗に触れた――。


『先輩。言いたかないけど、それ以上言うと怒るよ。もう帰ります』

 そう言って席を立とうとした刹那。

「和紗君だって、そうやって花音に騙されてるじゃない」

 そう言った松下の形相は憤怒に満ちていた。


(何。騙されてる? 誰が。俺が?)

 一瞬、言葉を失ったことで、その場の空気が凍りついたようになった。

『南條花音が、どうして俺を騙すんですか』

 敢えて、先輩とは呼ばずにフルネームで彼女を呼んだ。

 その言葉を聞いた松下が、その後延々と話し続けたことは、前に話していたことの裏返しのようなものだ。

 しかし、和紗には分かっていることがある。


『合コン大好きで、女王さまなのってあんただろ』


 興に乗って、花音の悪口を言い続けていた松下の言葉が止まった。

『最低だな。ただの同僚でもそこまで言わないと思うぞ。女同士ってことを除いても、人間として最低なのって、あんたの方だろ』

 情容赦なく言葉を吐いた。


 これだけ言えば、もう自分を落とそうなどとは思わないだろうな。

 そう思いながら、和紗は今度こそ席を立った。

 その背に、松下の声が届く。


「あんな片輪のどこがいいのよ」


 個室っぽくなってる出入口から松下のいる場所まで戻り、思い切り引っ叩いた。

『言っていいことと悪いことの区別もつかないなら、花音の前から消えろ』

 会社に告げ口されたら、暴行したってことで処罰かな、と少しだけ脳裡を掠めたこともどうでもよくなった。


『最後に一つだけ。今夜、みんなはどうした』

 もう反発する気力もなかったのか。

「私が残って、三枝君を連れていくって、みんなを二次会に連れ出してもらった」

 多分、これが真実だろう。

 女は怖い。その紅を刷いた赤い唇で、嘘を吐く。

 でも花音は違う。

 人生を諦めてるから、もう人並の幸せは望めないと思ってるから、せめて誠実に生きようとしている。


 帰ろう。きっと今夜は和紗の部屋にいる。

 これまで使ったことのない合鍵を、初めて使う花音を思った。


【了】

 著 作:紫 草 

Copyright © murasakisou,All rights reserved.


 サークル投稿用


**このお話は、2月作品『(かいな)』の続編です。

http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=890140&aid=37874813

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