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自作小説倶楽部 第4冊/2012年上半期(第19-24集)  作者: 自作小説倶楽部
第21集(2012年3月)/「花」&「星空」
32/62

8 あび 著 星空 『星祭りの夜』

金平糖のビンを逆さにしたかのように空のにぎやかな夜。

広場に描いた六芒星の輪郭がじわりと輝きだす。

湖に落ちた星の影をすくってお菓子を焼こう。

今年も星祭りの日がやってくる。

星をかたどった5つの角をもつ帽子をかぶり、

「いい星の夜ですね」と大人たちは挨拶をかわす。

この日ばかりは子どもも夜更かしだ。


女の子はこぞって丘で摘んだ星の花輪をかぶり、

男の子は星蛍を集めたランタンを手にしている。

天井に天球を描いたメリーゴーラウンドがまばゆく輝きながら回っているし、

星菓子を売る屋台には行列ができている。

しゃぼん玉売りや大道芸の音楽が賑やかだ。

酒場も人々の笑い声で溢れている。


広場の片隅に父親と10歳のアオは並んで立っていた。

目の前には色のない電球で飾り付けられた小さなテント。

星の帽子をかぶった長い髪の女性が入り口で所在なげだ。

二人が近づくと、彼女はチラリと視線を投げ、やや面倒くさそうに口を開いた。


「星の導きはひとり10分で5万カレー」


法外な値段だった。5万カレーあれば車くらい買える。

アオは父親をあおぎみた。


「ひと月前に旅立った母親に逢わせてやってくれ」


「ぼうや名前は?」


「アオ」


女性は分厚い本を取り出し長い爪の先で文字をたどった。


「2月20日、アマンダ……これね。いいでしょう、どうぞ」


アオは不安げに父親を振返りながら、女性に連れられテントに入った。


ちょうど昼と夜の長さが同じになる春の日。

この街で開かれる星祭りは、天から懐かしい人の降りてくる祭り。

星の導きは彼らを生前の姿のままに逢わせてくれるテントだった。

ただし、値段は法外。

それでも各地から、そのたった10分の奇跡を求めて人が訪れる。

この街の人間だけは別で、

この一年に別れた相手となら一度だけ、お金を取らずに逢わせてくれた。

アオは優しい両親とこの街に住んでいた。

もっとも、先月から父親だけしかいないわけだが……。


しばらくすると、アオが目を赤くして出てきた。


「あえたか?」


「うん」


「そうか、よかったな」


父親は静かに息子の頭をなでた。


「よし、おまえもお祭り行ってこい」


まだ熱のこもった瞼をしばたかせながらアオが顔をしかめる。


「天からたくさんの人が降りてきてるからな、賑やかに出迎えてやらんと。

 地上では皆楽しく幸せにやっていますよと、母さんに安心してもらうためにもな」


アオはきゅっと口を結ぶと袖口で目をぬぐった。


「ぼく、行ってくる」


パパン・パン! と夜空に花火がはぜた。

花火の先は長く尾を引き、夜をキラキラと彩った。

雑踏に駆け出したアオを見送り、父親はゆっくりと星の導きのテントに姿を消した。



~おわり~

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