7 まゆ 著 星空 『一番ちいさな星くず』
「流れ星が流れて消えるまでに願い事を唱えるとかなう」
誰でも一度は、星に願いをかけたことがあるでしょう。
でも、流れ星は、願いを唱えることが出来ない速さで夜空に消えていってしまいます。
これは、流星雨が降る夏の日、地球上空のお話です。
地球から見て、ペルセウス座の方向に、星くず達が眠っている流れ星の住処があります。
普段は静かな空域ですけど、夏の流星雨の日になると賑やかになります。
その年に流れ星になる星くず達がいっせいに騒ぎ出すからです。
きれいに輝いて、地球と一体になれるのですから、みんなその日を待ち遠しく思っています。
今日は一年に一度の流星雨の日、いろいろな形や大きさの星くず達がなにやらおしゃべりを始めました。
「ボクは誰よりも速く流れる自信があるよ!」
とんがった形の星くずが言いました。
「オレは一番光り輝く明星をめざずぜ」
太った星くずが胸を張ります。
「わたしは、きれいな色に輝きたいわ」
ピンク色のついた星くずが踊ります。
みんな、自分がどんなにすばらしい流れ星になるのか口々に語ります。
すみっこで縮こまっている一番小さな星くずだけは、黙っていました。
(みんな、いいなあ……ぼくは明るくも速くもきれいにもなれないよ……小さくて丸くて色もついていないだもの……)
と、心の中で思っていました。
日が沈むとすぐに、気が早い星くずは、大気圏へ突入していきます。
次々と飛び出しては、一瞬の輝きで流れました。
でも、賢明な星くずたちは、すぐには飛び出さず、完全に日が暮れて月が沈むのを待っています。
夜空が暗くなれば暗くなるほど、明るく輝けることを知っているからでした。
「もっと、速く流れるぞ!」
「もっと、大きく輝くぞ!」
みんな、我こそはと、勢いよく飛び出していきます。
夜が更けて月が沈み、残った星くず達のお祭りも最高潮になってきました。
「これからが本番だぞ!自信のあるヤツからいけ!」
大きな星くずや、流線型のいかにも速そうな星くず達が星空に飛び出していきます。
太陽のように地面を照らして消えるもの。
矢のように速く夜空を二分し飛び去るもの。
残った星くずたちが、感嘆の叫びを上げるほどでした。
星くず達の数がだんだん少なくなってきました。
一番小さな星くずは、まだ、片隅で小さくなっていました。
「ボクが飛んでも誰も見てくれないだろうな……」
一瞬で消えてしまうのに、誰の目にもとまれない自分が惨めでしかたなかったのです。
「おい、お前、そんなにスミで震えていないで、飛んでみろよ」
と、大きな星くずが、一番小さな星くずに言いました。
「ボク、自信がないよ。小さいし丸いから」
「そんなこと言うなよ、俺たちは、この日のためにいるんだぞ!」
一番小さな星くずは、地球を見下ろして震えました。
「行ってみろよ!見ていてやるよ!」
振り向くと、他の星くず達がうなずきながらせかします。
他の星くず達に押されるように、一番小さな星くずが飛び出しました。
その輝きは小さくて蛍の光のように静かな光りです。
ゆっくりと夜空を横切って行きました。
地上では、流星雨を見ようとたくさんの人たちが星空を見上げていました。
そして、願い事を唱えようとしていた人も大抵はあきらめて星の観察をしているのでした。
だけど……
確かに一つだけ、願いを唱えられるくらいゆっくりと流れた星があったのです。
《おしまい》




