5 奄美剣星 著 花 『隻眼の兎の憂鬱』
港湾の高台にある住宅地はどこも、とんがり屋根。街路樹のポプラはまだ裸のままだが、庭で鶯が鳴いている。
のどかな春である。三月に咲く花といえば桃。甘い香りの花が咲いている。桃といえば雛祭りだ。私は高校生になったのだけれども祖母と母と三人でで飾る習慣は変わらない。うちの雛壇は七段飾りである。
下から一段目がサイドカー仕様のKATANA。サーベルターガーがライーダーで、隻眼の兎がコクピットに収まっている。え? 二段目は時空海賊船で、ビームサーベルを手にした桃太郎と犬・猿・雉がお供している。船を三段目に横付けして、今にも飛び掛ろうとしている格好だ。あらら。
三段目は槍や薙刀をもった三人が衛士で海賊と戦い、四段目は、お年をめした左大臣と紅顔可憐な右大臣がマシンガンで加勢しようとしていた。五段目の五人囃子は戦国武将のコスプレをしたビジュアル系で、ボーカルと二人のダンサー、エレキギターにドラムが入っていた。応援ソングでも奏でようというのだろうか。六段目の三人官女は何。チアリーダーだ。そんなに脚を上げて、ああ……。
七段目は紫宸殿を背後にしている。いつのまにやらお雛様は私。愛しのお内裏様は……。
「何、このオヤジ?」
「十九歳独身イケメン設定だが、何か?」
「自作小説著者特権を悪用して、いたいけな女子高生が幼妻という設定にしようというのね。メイド服まで着せちゃって? 個人的な趣味もろだしじゃない」
有栖川キ~ック!
(了)




